第3話 新しい日常
翌日の午前中、都市オオバネの中心部からはだいぶ離れた位置にある
「二位之陽光郎……、もしかして剣闘士の?」
受付嬢が首を傾げた。
「ええ、まあ」
変装用サングラスを少しだけ傾け、僕は板についているはずの作り笑顔を彼女に浮かべてみせた。
「ということはバイトのような形での冒険者活動をご希望されているということですね?」
「いいえ、昨日剣闘士は引退しました。今は本気でプロ冒険者を目指してます」
「ええ、やめちゃったんですか? あーでも仕方ないですよねー?」
訳知り顔で話しかけてくる受付嬢に僕は尋ねた。
「冒険者登録はこれで完了できたんですかね?」
受付嬢は笑顔で答えた。
「はい、こちらが冒険者バッジと冒険者カードになります」
「ありがとうございます」
受け取ったバッジには49-0と刻まれている。
四十九番目の都市オオバネ所属の
「零級冒険者の二位之陽光郎さん、と、それではこれからの冒険者活動、頑張ってくださいね」
「あまりフルネームで呼ばないでくれません?」
「申し訳ございません。あなたは、有名人でしたね」
「いえいえ、こちらこそ、お手数おかけしてしまってすみません」
受付嬢は言った。
「初心者講習のお申込みをご希望の場合は別途料金が必要になりますが、いかがいたしましょうか?」
「やめときます。地下にある転送フロアからダンジョンへは向かえるんですよね?」
受付嬢は肯定した。
「転送装置は終点世界に存在する様々なダンジョンへと繋がっています。まずは案内板に従い、レベル一ダンジョンへの転送装置へと足を運ぶことを当ギルドでは初心者の方には推奨しています」
「分かりました」
頭を下げた後、同じ建物内にある冒険者専門店へ足を運ぶ。
頑丈そうな外套、大きな
腰バッグ、バッグの中に持ちこむものとしてはダンジョン薬や救急セット、小型懐中電灯、小さな水筒、ダンジョンコンパス、信号弾、非常食等。
それらを購入し装備する。
水筒の水は店内で補充可能だった。
店を出ると地下への階段を下り、広々とした通路へ降り立つ。
終点世界入退場ゲートがあり、警備員が立っていた。
僕は腰バッグから購入したばかりのダンジョン薬を一錠、取り出し、水筒の水で胃袋に流しこんだ。
これはダンジョンから病原菌などを現世へ持ち帰らないために必ず行わなければならないことなのだ、と受付で説明された。
ダンジョンからの帰還後も入退場ゲートを通る前には、一錠服用しなければならなかった。
カード認証を終え、入退場ゲートを通り、僕は案内板に従い、通路を通って、広々とした空間にある転送装置置き場へとやってくる。
壁で区切られた空間のうちの一つに向かい、黄金色に輝く巨大な円形の足場が二つ置かれている手前まで足を進めた。
この丸い円の足場こそがダンジョンの出入り口と呼ばれる、別世界へと繋がる転送装置であった。
僕の姿はこの場から消失した。
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