第2話 裏切り

 誕生日の翌朝。

 50歳になったからといって何かが変わるわけでもなく、子どもたちを送り出した後、掃除に取りかかっていた。

 カウンターの上に博則の昔のスマホが置きっぱなしになっている。


(またゲームしたまま放置して!ん?充電も切れてるし!)


 充電ケーブルを差し込んでしばらくすると、1%と出てくる。


(・・・・。)


 電源ボタンを押して、起動させてみる。

 どうやらパスワードなどロックはないらしい。

 メールアプリを開く。

 受信ボックスを見ていくが、何となく「下書き」の5通に目が行く。


『テスト』という同じ題名のものが4通ある。

 日付は1月10日。

 開いてみると、


『ゆみちんへ』


 から始まる書き出し。

 急に血が頭から下がっていく感じ。

 呼吸はしているはずなのに、息が苦しくなる。

 少しずつメールをスクロールしていく。




 ※※※※

 ゆみちんへ

 まずは誕生日おめでとう

 今日はゆみちんにとって大切な日なのに、博則がきちんと準備してこれなかったこと本当にごめんなさい。昨日のメッセージがきちんと伝わっているか心配で、今日はどうしても自分の気持ち改めてを伝えたくてこのメッセージを書いたよ。


 ゆみちんが博則にとってどれだけ大切な人か毎日実感しているし、もっともっと大切にしなくてはいけないと強く感じています。今回、誕生日にきちんとお祝いできなかったことを悔いながら、でもこれからは必ず、その分を取り除くくらいゆみちんを大切にしていきたいと思ってる。


 今日は、少しでもゆみちんが幸せだと思える1日になるよう心から願っています。

 そして、これからもずっと一緒にたくさんの素敵な思い出を作っていこうね。


 改めて、誕生日おめでとう!

 これからの一年も、ゆみちんにとって素晴らしいものになりますように。


 博則

 ※※※※


 スクロールする指が震え、身体も震えくる。

 喉がカラカラになっている。

 自分の心臓の音が耳元で聞こえる。


 とりあえず自分のスマホで写真を撮る。


 他のテストのメールも何度か書き直しをしたのか文面が少し違うが、基本的には同じ内容だ。


(これって、浮気・・・だよね?・・・してたんだ…。)


 題名の違うメールも見た。

 半年記念的なメールなのか、二人の出会ってから半年の思い出を書いている。


(ふっ・・・・。半年も前からだったんだ。)


 涙は出てこない。

 でも肩に力が入る。

 掃除中なことも忘れ、メール検索を続けながらとりあえず怪しいと思われるメールを全て写真、動画に撮る。

 検索履歴や他のメールBOXも調べた。

 これらも後でゆっくり見て考えるとして、とりあえず写真に残す。


 一通りスマホをチェックしては写真におさめた。


(掃除…、まだ途中だった…。あ、スーパーにも行かなきゃ…。)


 頭の中がグルグルする。

 掃除機をかけながら、ハッと思い出す。

 名刺…!

 慌てて名刺を入れておいたチェストの引き出しを開けた。


 半年前の高校の同窓会があった。

 懐かしい顔ぶれと楽しく話しながら、お互いの近況を話し合った。

 その友人の内の一人から貰った名刺。

 職業は探偵。

 探偵なんて本当にいるんだ、と思いながら、もの珍しさから仕事の事を聞いたり質問したり。

 やはり一番多いのは不倫・浮気調査と言っていた。


 引き出しを探すも貰った名刺は見つからない。


(捨てたはずはないのに…!)


 他の引き出しやバッグのポケット、しまいそうな場所をゴソゴソ漁るが見つからない。


(どうしよう…。)


 もう彼に連絡を取ることだけが頭を占める。

 何としても松原くんに連絡しないと…。

 名刺は諦めて、スマホで検索をする。


「松原直樹」


 検索をすると、彼が立ち上げた会社紹介のページが現れる。


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