私の不思議体験

ジーン

下校

 学生の頃のお話です。


 まだ折り畳み式の携帯電話ガラケーが一般的だった頃でした。

 オンラインゲームプレイヤーの間での交流も、インターネット上のホームページに設置された掲示板で行われていました。

 当時、有名な狩りゲームを行っていた私は、登下校や遊びに行く時の移動の間に、携帯電話を使って掲示板に入り浸っていたのです。


 そんなある日、私は学校で教師と話すこととなり、遅い時間に帰ることになりました。

 家と学校の距離は遠く、バスでの移動です。ですが私の家は田舎にありました。

 田舎の方はわかる方がいるかもしれませんが、バスの本数が少ないのです。

 多く走る時でも1時間に2本程度、乗客が少なくなる時間では、これが2時間に1本くらいまで少なくなります。


 そうなると、学校から帰る際に乗れるバスの時間が遅くなります。あれは確か、22時過ぎに乗ったバスでの体験でした。


 その時は携帯電話が良い暇つぶしになっていたため、学校近くのバス停でずっと、携帯電話を触りながらバスを待っていました。

 バス停の後ろは大きなパチスロ屋が建っていました。明るく音が騒がしくて、携帯電話に集中している私の時間感覚は薄くなっていきました。バス停の近辺は明るくても、どんどんと暗い時間になっていたのです。


 22時過ぎ、私の乗るバスがやってきました。

 乗客はまばらで、4、5人程度がぽつりぽつりと座っていました。

 降りる時も外に近い方がいいと考えていた私は、バスの一番左前にある運転席の見える席に座ったのです。


 私が携帯電話に目を落とすと、バスはゆっくりと発進します。どんどんと明るい街から離れていくと、徐々に窓から入る明かりも少なくなっていくのです。

 田舎の道を進むと車窓の外側は、バス内の電灯の反射でほとんど見えない程に暗くなります。

 暗く外が見えない状況で、次に次にと停留所でバスが停まって、少ない乗客が徐々に降りていきます。


 街と田舎の村に繋がる山道に差し掛かりました。

 山から声が聞こえてきた気がして、私はふと顔を上げます。でも、きょろきょろと見回しても何もありません。

 ふと見上げると、運転手さんがミラー越しに、私を不思議そうに見ていました。


「……ぇ」


 改めて携帯電話に目を落とした瞬間に、やはり声がしたのです。

 丁度、信号でバスが停まったタイミングだったようで、エンジンも止まってしまいました。運転手さんがキーを回してブルルンッとひと際、大きな振動と音がします。


 その瞬間――「聞こえてるでしょ」――今度ははっきりと女の声が聞こえました。


 後ろからはっきりと聞こえているのに、なぜか窓の外にある山から聞こえているとわかる妙な感じがします。私は思い切り振り返りました。


 バスの中には、乗客が一人だけ。それも最後尾に座っている人だけでした。


 訳が分からずに混乱している中で、バスが進み始めます。


 カーブを曲がり、ゆっくりと遠ざかる山から薄く「ふふっ」と笑い声が聞こえてきました。




 その山について、知り合いに聞いてもわからないと言っていました。同様の体験談も特にありませんでした。


 私が確認できたのは、その山には防空壕があった、という記録だけでした。

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