第3話 到着
『一緒にこないか』そう言われて俺は少し戸惑っていた。
(まさか俺みたいな、言わば魔人とも言えるガキにそこまで言うとはな)
「行くつってもどこにだよ。俺の体が見えないわけないだろ。俺は人とは相容れない存在だ」
そう、そうなのだ。
魔族は『絶対的悪』家にあった冒険譚はほぼ全てにおいてそんな内容だった。なら魔族の要素を持つ俺は人間とは決して仲良くなることはないと言える。
「ああそうだとも。人間は魔族を嫌う。それも女子供関係なく殺せと言うほどに。私はその現状に少々思うところがあるのだよ」
「思うところ?」
なんだ?まさか魔族にも人権をとか言うのか?
「魔族と人間が平等に暮らす世の中に私はなってほしいのだ。無論、それは誰からも支持されない険しい茨の道だろうがな」
…まじか。
まさかそんな幻想をこんな家族が掲げているなんてな。
「…なあ、お前は俺のことをどう思う?」
「……とても…哀れだ。君は魔族にも人間にも忌み嫌われる容姿をしている。いやすまない、この言い方は悪かったかな。しかし人というのはそういうものだ。容姿だけで判断し中身は見ずに迫害する。私はとても哀しいよ」
「…そうか」
こいつは、信頼して良いかもな。そう思えるほどにその顔は悲痛な面持ちであった。
「なあ、これはどこに向かっているんだ?」
俺を乗せて出発すること十分。今もこの馬車はあまり整備されていないような道を走っている。
「ああ、そういえば言ってなかったか。それに自己紹介もまだだね。私の名前は『アニキブシス・アイビー』、アイビー領の領主であり皆からは『アニス』と呼ばれている。好きに呼んでくれて構わないよ」
「なるほど。じゃあ俺もアニスの領民ということか」
「もちろん。そして今は私の領地の中にある一つの町、『タッセル』に向かっている。この町は靴や服など衣料品で有名でね、君の服を買おうと思うんだ」
服か、確かに今俺が着ている服はたまに川で水洗いする程度で、はっきり言って臭くて汚い。だからここで買っておくのはありだな。
ただ———
「俺のこの魔族みたいな見た目だと町に入らないんじゃないか?それに俺、金持ってないぞ」
「そこは心配いらないよ。服は好きなだけ買ってあげるし、見た目に関しては私に良い手がある。変装魔法は知っているかな?」
「変装魔法?」
俺が使える魔法は風と火だけだからな。他の魔法、特にそういう特殊魔法はからっきしだ。
「変装魔法は闇魔法の一種でね、あまり大きな声ではいえないのだが、一人で街に出歩く時にとても重宝している私の数少ない得意魔法さ」
「そうか、それは有難い話だ。いつかこの恩は必ず返すよ」
今まで誰かを助けたり助けられたりすることは無かったからな。こういう気持ちになるのは初めてだが、悪くない。
そんなこんなで窓の外には生まれて初めて見る大きな町が見えてきた。
「遠目から見てもでかい町だな」
「これでも小さい方なんだよ。わたしの領地にはもっと大きな街がたくさんあるんだ」
「それはすごいな」
「はは、そうだろう。ということで、今回この町に二日滞在することにした」
「二日?二日もこの町にいる必要があるのか?」
「もうそろそろ日が暮れるだろう?」
外を見ると日が沈み始め空が橙色になりかけていた。
「元々私たちはこの町で一夜を過ごすつもりだったんだけど、君の事も考えて二日にしたんだ」
まあ確かに今日の今日までずっと森で暮らしてたからな、もっと落ち着ける場所で寝たいな。
「というわけで着いたね。先ずは町長の自宅に伺った後に今日と明日泊まる小さい屋敷に行こうか。君も疲れただろう?今日はゆっくり休むと良い」
「ああ、そうさせてもらう」
さて、町っていうのはどんなものなのかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます