第2話 カルミアの蹂躙

 だって…だってしょうがないじゃないか。


 こんな目の前で熱い戦いが繰り広げられていたら興奮しないわけがない。


 そんなことで俺はここにいる盗賊を皆殺しにすることにした。後のことは後の自分に任せればいい。今はとにかくこの快楽に身を任せるとしよう。


 「「っ!?」」


 ありゃ、どっちも固まっちまった。


 まあ、いいか。


 「ああ、気にしなくていいぞ?俺は自由にやらせてもらうから、よっ!」


 「ギァッ———」


 もう一人の盗賊の首を掻き切ってやると辺りに血が飛び散り、俺の灰色の髪とボロボロの服を赤く染めた。


 「チッ!汚ねえナぁ!そんなに出されたら興奮しちまうだろが!」


 ハハッ!こんなに楽しいのはいつぶりだ?


 「っ!怯むな!先ずはこのをぶっ殺すぞ!!」


 盗賊のリーダー格らしき奴がそう言うと一斉に何処か怯えた雰囲気の男どもが襲いかかってきた。


 …それにしても魔族、ね。どちらかと言うと俺は『魔人』なんだけどな。


 「おお、おお、揃いも揃って怯えた良い顔してるじゃねえか!」


 その頃兵士たちはと言うと…


 「魔族だ!魔族が出たぞ!」


 「ただその矛先は盗賊に向いている。警戒を続けろ。…いや、私含む数名が残りは主の避難の護衛——」


 「いや、それには及ばんよ?コーポラル」


 馬車の中から一人、小太りで金髪の豪奢な衣装に身を包んだ貴族の男が出てきた。


 「主!?危険です!すぐに馬車にお戻りください!」


 「気づかないかね?確かにあの子供の半身は薄汚い魔族のものだ。が、もう半分はどこからどう見ても人間のそれだろう?それにあの”勇者”の目と対をなすような銀の目、あれは興味深い」


 男は薄ら笑みを浮かべながらそう言うとそっと腰を落とし葉巻に火をつけた。


 「君たちもしっかり見ておけ。良い拾い物ができるかもしれないぞ?」


 兵士たちは男と共にその戦い蹂躙を観戦するのだった。


 「オラオラ!そんなもんか!」


 (弱い、弱すぎるな。これならまだ森の獣人の群れを相手にする方が面倒だぞ)


 その戦いは一方的で、極めて暴力的だった。


 風により頭が飛び、拳により体が抉れる。その度に盗賊どもの顔が恐怖に歪み、その顔がまた肉となる。


 「…こうも一方的だと逆につまらんな。もっとなんか変わった奴……お前かァ?」


 その標的が今度はずっと指示に徹してきた盗賊のボス格に移った。


 「っ!【初級土魔法サンドボム】!」


 砂の塊がボスの手から発射されると辺りに砂埃が舞った。


 「ゴホッゴホッ、魔法か?面白れェ。ただ、気配を探るのは生憎俺の得意分野だ」


 「ガッ!?」


 「おお!飛んだ飛んだ!ただの蹴りで森の中に突っ込んじまった」


 さてさて、どう攻めたもんか。


 (出てきたところを待ち伏せして叩く?それともこっちから突っ込むか)


 「わざわざ待ってやる義理もねえよなァ!ハハハ!!」


 「チッ!こっちは普段から森を拠点にしたんだ!お前みたいなガキには負け———!?」


 「ふーん?そっか。じゃあテメェは森で一ヶ月サバイバルしたことがあるかァ!?ハァ!」


 グチャ…


 「…呆気ないな」


 何をやったかは簡単。そこら辺の木を引っこ抜いて叩きつけてやっただけだ。


 森で生きていくならあるものは全て使う。例えそれが木でも死体でもだ。


 「ふう、スッキリしたな。あ」


 まずい、残りを逃しちまった。これじゃあ後しばらくは楽しめないな。

ん?


 「ああそういえばいたなあ、お前たち」


 そこには警戒度MAXの兵士たちと薄気味悪い笑みを浮かべた貴族みたいな男がいた。


 「なんだその顔。気持ち悪い」


 「な!貴様!我が主に向かって無礼だぞ!」


 「我が主ぃ?」


 なんだこの男、気持ち悪い。自分のことを部下に主なんて呼ばせてんのか?


 「良い良い、そう言う面倒なことは後にしてくれ。君、少し良いかね」


 「それ、拒否権ない言い方じゃん」


 言葉の最後に『?』がなかったぞ『

?』が。


 「ふふ、それはどうだろうね?」


 別に襲われたら皆殺しにすれば良いし話ぐらいなら良いか。


 「はあ、なんだよ」


 「それでよろしい。さて、先ずは名前から聞こうかな」


 名前、名前か。


 名前といえばクソ親父から言われていた『カルミア』と言うのがあったが…あんな奴がつけた名前なんてクソ喰らえだ。


 じゃあ、俺の名前は———


 「ロベリア…ロベリアが俺の名前だ」


 「ロベリア君か!ではロベリア君、突然だけど、私と一緒にこないかい」

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