第2話 ルナ寮
遥ちゃんに連れてこられて寮の前に来る。
「わぁ、おっきい」
「ステラ寮はこれ以上だよ。友達ができたらそっちの寮にも行ってみるといいよ。」
「さ、入ろう」と言って入り口に促される。寮内の雰囲気はすごく暖かかった。雰囲気だけではない。居心地というか、いやそれだと雰囲気になってしまうのか?まぁ、空気が暖かかった。そうすると、キッチンの奥から女性が出てきた。
「あらあら、初めまして。今日から登校すると聞いていた北城湊さんですか?」
丁寧な所作とお淑やかな言葉に背筋が伸びる。
「はい。北城湊です。よろしくお願いします」
「私はこの寮の寮母をしています、坂東茉莉ですわ。一応、北城家に連なる家のものです。私のことは家族のように接していただきたいと思いますわ」
「ああ、母さんの知り合いですか」
「そうなんですわ。この寮の寮生は少し不思議な経歴の持ち主ですけれどきっと仲良くできますわ」
そう言うと、茉莉さんは部屋に荷物を置いてくるように勧めてくれた。茉莉さんから場所を教えられ、遥ちゃんの後ろをついて行った。茉莉さんに言われた場所の扉を開ける。当然鍵は掛かってなかった。部屋の中には家具が一式揃っていた。荷物をベッドのフレームに立てかけるように置いて、部屋を一望する。ある程度、物の確認を済ませると部屋から出ることにした。部屋を出ると、同じタイミングで遥ちゃんも部屋から出てきていた。
「あ、遥ちゃん。遥ちゃんも食堂に戻るとこ?」
「そうだよ。北城さんも荷物置いてこれた?部屋はどうだった。綺麗だったんじゃない?」
「うんうん、むちゃくちゃ綺麗だったよ。どの家具も丁寧に使われていたんだね」
「前の人もいい人だったからね」
二人で階段を降りて一階の食堂に向かう。すると、さっきはいなかった人たちが揃っていた。
「あれ、二人も帰ってきたんだ」
「そーなんですよ。ただいまっす」
「ただいま〜」
三人はお互いに挨拶をしている。私一人だけが取り残されてしまっている。そんな私に向かって遥ちゃんは笑いかけてくれる。
「そんな顔をしなくてもいいよ。北城さんにも紹介するね。こっちの小柄な子が私たちと同級生の君代杏」
「はい、ご紹介通り君代杏っす。一応科学者や研究者をしているっすけど、まぁ悪いことはあんまりしないので大丈夫っす」
「よろしくね、杏ちゃん。私は北城湊です。確かにちっちゃくて可愛い〜」
私の言葉にムカついたのか、顔を伏せてしまう。
「大丈夫だよ、北城さん。照れているだけだから。で、こっちが三年の先輩。京極紬さん」
「京極紬です。僕も杏くん共々よろしくね。あと一応漫画家だから、締め切り前はちょっとイライラしているかもしれないけど大丈夫だから、心配しないでね」
私は先輩の挨拶に呆然としてしまった。
「どうしたんだい?湊くん」
「あ、すみません。先輩が僕って言うのにびっくりしてしまったのと漫画家を初めて見たことへの驚きで声が出ませんでした」
「ああ、そう言うことかい。そういえば、さっき杏くんのことをちっちゃくて可愛いと言っていたけど君は長身だね。私より高いのか」
そのことに今度はビクビクしてしまった。それを察したのか、遥ちゃんが助け舟を出してくれる。
「ほら、北城さんは学園長のお子さんだから血筋なんだよ」
紬さんは「なるほどね」と言って納得してくれた。
「そういえば、茉莉さんが言っていたここの寮生の不思議な経歴ってなんなんですかね。」
「それは私が説明しようかしらね」
そう言って茉莉さんが前に出る。さっきまでは多分、私たちの邪魔にならないように陰に徹していたけど、説明のために出てきてくれたってところだろうか?
「もともと、遥ちゃん以外の子はこっちじゃなくてステラ寮の方にいたのよ。そもそも初めからこっちの子って珍しくてね。二人は、杏ちゃんは部屋で実験を始めて爆発と異臭を発生させてね。紬ちゃんは締め切りギリギリで発狂しちゃって騒音騒ぎを起こしちゃってね。要は問題児なのよ、この子達」
ああ、なるほど。ここは一種の隔離施設っていったところなのだろうか?で、遥ちゃんはアイドル関係で隔離を志願と言ったところだろうか?
「ちなみに私はステラ寮だと車を直接前に止めることができないからっていう理由が主な物だね」
全然違った。まぁでもここにいるのは全員何かしらの理由を持っているってことらしい。私がここへきた理由は何なのだろうか?まぁ、遥ちゃんのいるところへ来られただけでも最高だけど。そのあと、二人は荷物を部屋に置いてきて、またリビングに集まることになった。テレビを見ながら、なんてことない会話を続ける。しばらくして六時を越えたくらいだろうか。遥ちゃんが茉莉さんに声をかけた。
「ご飯の催促ではないんですけど、茉莉さん今日のご飯の用意をしなくてもいいんですか?」
「ああ、いいのよ。今日はある人がご飯を持ってきてくれるらしいから」
遥ちゃんは「そうなんですね」と言ってこちらに姿勢を直す。それから少しして、インターフォンが鳴る。そこから現れた人物に寮生それぞれが反応を示す。
「母さん!」
「「学園長⁉︎」」
「明さん?」
反応はそれぞれ違っていた。
「はーい、みんなの学園長。北城明さんがやってきたわよ。茉莉と遥ちゃんは元気そうね。湊はちゃんと学校行ったんでしょうね」
「流石に行ったよ」
「明さんだぁー。」
「あらあら、遥ちゃんは本当に可愛いわねぇ。こっちを娘にしたかったわ。」
「ちょっと!」
これはヤキモチではない。決してそんな物ではないが、母親を取られるというのは少しばかり歯痒いという難しい感情になる。
「じゃあ、湊さんは私がもらいますわ」
私は茉莉さんに抱きしめられる。
「へぇ、湊。あなたは母親より若くて可愛くて美人のお姉さんがいいって言うのね」
「あら、先に娘さんをいじめたのは明さんではありませんか」
母さんと茉莉さんがバチバチにやり合っている。
「それで、ご飯を持ってくる人っていうのが母さんなの?」
私は茉莉さんに抱きしめられながら母親にそう問う。
「ええ、そうよ。奮発してお寿司を買ってきてしまったわ。」
そこで、全員の目が「お寿司!」と輝きを放っていた。もちろん私も。そして、お寿司を机に並べてご飯にする。それぞれがそれぞれの食べ方でご飯に手をつける。特に遥ちゃんはとても美味しそうに食べている。それも一つ一つを丁寧に。
「遥ちゃんはゆっくり食べるんだね」
「え、うん。いっぱい食べると体型バランスを壊しちゃうからね」
「ああ、そうだったね。サラダとかの方が良かったかい?」
その母さんの質問に遥ちゃんは笑って、
「いえ、あまり量を食べられないだけですのでお構いなく。それに美味しい物の方が気分も上がりますから」
それでも遥ちゃんは美味しそうに食べている。その日の夕食は盛大な物であった。夕食を食べ終わって少し部屋で休憩していると扉にノックを受けた。「はーい」と声を出して扉の前まで行って鍵を開ける。扉の前に立っていたのは母さんだった。
「あのね、湊。話があるのだけどちょっといいかしら」
「いいですよ。部屋の中、入りますか?」
「ええ、入らせてもらってもいいかしら」
「どうぞ」と、私は片足を後ろへもってきて、部屋へ母さんを促す。
「物、少ないのね」
「まぁ、引っ越してきたばっかりだし。もともと荷物も少ないしね」
「そう、だったかしら?」
私と母さんの関係はこんなものだ。冷めた関係だと周りからは思われるのだろうか?
「さっき、遥ちゃんから聞いたのだけど男の子だってバレちゃったのね」
「遥ちゃんにだけね」
「そうなのね。それでなんであなた女の子口調なのよ?」
「下手に変えると咄嗟の時に出ちゃうでしょ」
「そうなのね」と母さんはさっきと同じことを言う。母さんはなるほどねぇと頷きながら考え事をしている。こうなると母さんは長い。しばらく母さんは考え事をしていた後、口をひらく。
「そういえば、化粧はどうしたのよ。あなた今日はひどい化粧だったじゃない」
「やっぱりそうだったんだ。遥ちゃんにも言われたんだよね。今日は遥ちゃんにしてもらったんだよ」
「そうよね、そうに決まっているわよね。あなたにそう言うことができるわけがないわよね」
そう言う会話を済ませていると、もう一度扉がノックされた。誰だと思っていると、「はーい」と声をあげると扉の向こう側から声が聞こえた。その声は遥のものだった。
「北城さーん。お風呂空いたよ」
「はいはーい。遥ちゃん、ありがとう」
私は扉を開けて遥ちゃんに顔を見せる。遥ちゃんは私に顔を近づけてきて、
「みんなのいない時間じゃないとダメでしょ」
と、言ってくれた。私は後ろを振り返って、母さんの方を見る。
「お風呂でしょ。行ってらっしゃい。私はその間に帰らせてもらうわ」
「はーい。じゃあ行ってくるね、遥ちゃん」
遥ちゃんは「うん、行ってらっしゃい」と言って、道を開けてくれる。お風呂は一人には正直大きすぎるぐらいで本来はみんなで入る前提なのだろうと思った。まぁ、私がみんなで入ることはこれからもないだろうとは思うけど。お風呂から出た私は明日の準備をしてベッドに横になる。寝るには少し早い時間ではあったがスマホを触り、SNSを開いてタイムラインを見る。五分ほど触っていると眠気がやってきたのでそれに準じることにした。久しぶりに疲れと共に心地の良い眠りが訪れた。
遥かなる水の歌 四季織姫 @shikiorihime
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