第34話 キョンシーを探して
○○を探してって。
小説や映画で定期的に見かける、これだけでぐっとオシャレになるマチエール。
デブラ・ウィンガーを探して。
パトリシア・ハイスミスを探して。
あの子を探して。
ニューヨーク、愛を探して。
アントニオ猪木を探して。
そして、キョンシーを探して。
キョンシーに「探して」がつくと、オシャレなアジアンフュージョンカフェで、揚げワンタン乗っかってる四川風ナシゴレンという名の油っこくて辛い炒飯あたりと、デザートは生春巻きにアンコとバニラアイス入っててきな粉振ってるやつ戸惑いながらも、「あ、うまいはうまいわ」となんとなくオシャレなもの食べてる、あの感じに・・・???
さて。キョンシーとは!
80年代後半から90年代にかけて大ブームを巻き起こしたホラーでコメディ要素もあるドラマ。
今のヤングな世代は、"時代劇の中華風"つったら、"唐"時代のイメージするらしいんだけど、ちょい上は"清"なんだよね。
その時代をテーマにした時代劇が、香港や台湾でいっぱい作られて、日本でもテレビの金曜ロードショーや日曜洋画劇場でよくやってたから。
ジャッキー・チェンの映画もよくやってた。
唐は中国が史上最大に景気良かった時代。ご存知、日本からは遣唐使な時代で、楊貴妃あたりの、なんでこんな皆薄着なの?っていう、おっぱいギリギリのトップス、ヒラヒラのスカート、スケスケの上着みたいな。浦島太郎の乙姫様みたいなファッション。男は、お内裏様みたいな服。
清は、支配階級が大分北の民族だったからか、厚着。男も女もだらーんて長いワンピース風の服着てる。
で、キョンシーはその時代のオバケだから、やっぱりワンピース着てて、手を前に出してピョンピョン飛んで、凶暴化して人を襲う。
道教の道士様が暴れてるキョンシーの額に、お札貼ったり血をつけた指でオデコ触ってハンコみたいにすると停止する。
結婚式のライスシャワーみたいに餅米投げると爆発する。息を止めると、勘付かれない。
今で言う、ゾンビみたいなものだと思う。
でね、当時で、私、もう10年くらいキョンシー探してて。(つまり、ほぼいないって事なんだけど・・・)
ちょっと中国語と英語を1回二千円で習ってた先生(広東省深圳出身、有名大学を2年でスキップ卒業)に、
「そうだ、
と何気なく言ったら、それまで、からあげくん2パックとピノ食べてコーラ飲んで、日本のコンビニ最高!ってニコニコしてたのに、さっと顔色を変えて。
「キョ、キョンシー?!って、ジャンスー?!」
「へ?
(雀巣は芋の細切りとかを鳥の巣みたいに揚げておかず入れる料理、拌三絲は日本の給食にたまに出てくる春雨とハムと卵と胡瓜を細く刻んだ酢の物)
「アハハ、違う!」
このへんのダジャレ的お笑いセンスは東アジア人大体同じ。
「漢字で、繁体字、殭屍。簡体字、僵尸。広東話でキョンシー、普通話でジャンスー。はい、ノート書いて」
と教えてくれる。真面目な先生。
「へえー、キョンシーってこう書くんだぁ」
「いいですか。キョンシーとは恐ろしいものです。そんな軽々しく言ってはいけません・・・」
いや、え?キョンシーはもっと楽しいもののはずだよ?
「昔、来来キョンシーズってドラマやってて・・・」
「ラ、来来?!キョンシー来たらダメでしょ?!」
いや、えー??でも、すごく可愛い女の子出ててね、大人気だったんだよー。
「霊幻道士ってサモハン・キンポーの映画もあったしー。皆、学校でキョンシーごっこして、お札書いたり、おでこに赤いチョーク塗ったりして、ジャンプして帰ったりしたんだから」
「なんという恐ろしい遊びを!日本の子供・・・」
経済特区、市の平均年齢30〜40代の深圳育ちとは言え、アメリカや日本のようになんでもエンターテイメントの香港や台湾の文化には驚いたらしい。
大陸と香港はテレビ局の放送やっぱり違うらしい。
その数日後の香港行きの飛行機で、友人と機内食をたらふく食べた後、機内販売に飛びつき。
販売のCAさんに、
「ねェ?あたしら、これ売り上げに加算されるからいいんだけど。アンタ、行きからこんなに土産買ってるけど、香港で何すんの?」
と聞かれる。
「うん、香港行くっていうと、年上から香水だ、化粧品だ、ネクタイだ、革製品だって買い物頼まれんのね、だから、マメに買っとかないと。友達は、出前一丁のカップ麺全種類とかなんだけどね」
「うわ、メンドッ。大変ね」
「あ、この香水限定?2個買うなら1個半額?」
「これは街ん中のチェーンのコスメ屋で買いな。最初っから半額で買えるから」
これも、これも、と教えてくれる。
「・・・私、実は何年もキョンシー探してる。でもどこにもいない。グッズでもいいんだけど」
と言うと、
CAさん、変な顔をして、
「・・・アンタ、もしかしてエジプトのミイラみたいなもんだと思ってない?博物館とかにないのよ?」
「えっ?!」
「うん。そしてキョンシーは、嘘よ?」
ビックリ仰天。
「うえぇぇえぇええ?!」
「ちょっと!!アンタがキョンシー居るっていうから香港行くのに!?どーゆーこと?!」
友人、激しく動転。
「いや、だって・・サモハンが、サモハンが・・・」
映画まであんだから、どっかに保存されてるんじゃないの?!
「香港に、
「え?こんなの私自分で作って300円くらいだよ。プラスチックじゃない?。・・・・そんな事よりキョンシー存在しないの?!」
何だ、金じゃ無いんか、と舌打ちされる。
私達、行きの飛行機から、大ショック。
なんでしょう・・・。
何年も好きだった片思いのあの方が、実は奥さん3人いて子供15人いるみたいなショック・・・?
友人は、キョンシーなんぞ居ないと言われて、買い物してやる!と、要りもしない変な重いボールペンだの変な柄の赤いスカーフ買ってる。
「まいどありーぃ。後で、アイスかパン持って来てやるからさ」
CAさん、颯爽と退場。
帰国して調べたら、どうも、出稼ぎとかで上京した昔の人が亡くなって地元に遺体を運ぶ時に、「前へ習え」的にして整列させて、袖に長い棒入れて、前後の運ぶ人が棒を肩で担ぐと。
なので、道士による法力によって、死んでるけど体は動く的な、そんな民間伝承になったらしい。
キョンシーを探して。
・・・キョンシーいませんでした。
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