隣に引っ越してきたポンコツ女は、学校では天使と呼ばれている完璧美少女のようです。〜陰キャぼっちの俺が手料理を振る舞ったら溺愛された件〜

灰色の鼠

第1話 陰キャぼっちの俺と、完璧美少女の君

「―――初めまして、愛坂あいざか 知奈ちなと言います。こちらの町に引っ越したばかりで分からないことが沢山ありますので、色々と教えて頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします」


 二年に進級したばかりの春。

 俺達のクラスに転校生がやってきた。


 落ち着いた雰囲気の清楚系、容姿端麗な茶髪の女の子だ。

 全体的に華奢な体型をしており、声優のような聞き取りやすい可愛らしい声をしていた。


 ニッコリと笑顔を浮かべる彼女は、教室にいるほぼ全員の男子を虜にした違いないだろう。


(愛坂 知奈さん……転校生で美少女。まるでアニメのヒロインみたいな子だな、主人公は俺ではない事は明らかだけど)


 俺、有平ありひら悠李ゆうりは周りと同じく転校生を可愛いと思っていたが、それだけだ。

 恋だとか一目惚れだとか、そんな烏滸がましい感情はなかった。


 どうせ恋したどころで、ぼっち陰キャの自分にチャンスなんてこないと、体が無意識にストッパーをかけているからだ。


 高校に入学して初日、運悪くスマホが故障してしまったことでクラスメイト達とは連絡先を交換することができなかった。


 スマホを持参することが当たり前の時代。

 学校の外でも連絡を取り合うことで互いのことを知り親睦を深め、クラスで行われる打ち上げや祝いごとの情報もスマホで行われる。


 しかし、スマホの修理が終わり手に渡るも時すでに遅く、各々がグループを作り終えている時期だった。

 そして俺、有平は必然的にクラスでは空気の薄い存在”陰キャぼっち”になってしまったのである。


 積極的に隣の席の子や、アニメが好きそうな子に声をかけたりしたのだが、仲良くなるとまではいけず軒並み失敗してしまった。


 元々、恥ずかしがり屋な性格も相まって、女子どころか男子に話しかけることすら苦手だった。

 スタートダッシュに遅れてしまった俺のせいである。


 なので転校生の愛坂さんと仲良くなるなんて夢のまた夢、そんなアニメや漫画のような展開になるがずがない。


「それじゃ、愛坂さんは。そうだな……有平の隣に一席空いているな。そこに座ってくれ」


(え?)


 教室の一番後方、窓際の席に座る俺を見ながら先生は適当そうに告げた。








 昼時間。

 昼休憩になったので席で一人自ら作ってきた弁当を食べようとしたのだが、いつもより隣が騒がしかった。


 それもその筈、自己紹介でクラスの注目を浴びた転校生の愛坂さんが、隣の席に座ることになったからである。


 隣の空いた席に美少女ヒロインが座るという、まるでラノベのような展開にラッキーだと思う人がいるかもしれない。

 しかし、現実とは非常に残酷なものである。


 愛坂さんが俺の隣に座ることすなわち、愛坂さんと仲良くなりたい陽キャ軍団が引きつけられるということ。


 数学の時間で難しい問題を簡単に解いてみせたり、体育の50メートル走で6秒台を叩き出したりと、色々なことを完璧にこなす愛坂さんにお近づきりなりたいのは当然のことだ。


「よろしくね愛坂さん! 私、浅井って言うの!」

「俺は友徳、気軽にトモって呼んでよ」

「愛坂さんって綺麗だね! ねっ、こんど使ってる化粧を教えてよ!」


 など上位カーストに君臨する男子女子が、愛坂さんの席を囲んで各々自己紹介している。

 ちなみに俺は陽キャが大の苦手だ。


 嫌いとまではいかないが、関わらないことを第一にして学校生活を過ごしている。

 理由は単純、合わないからだ。


(うわぁ、どうしよ……食べるところ変えた方がいいかも)


 愛坂さんが隣の席になった喜びより、平穏を奪われた悲しみの方が勝り、涙目になりながら教室を後にするのだった。




 六時限目が終わり、愛坂さんはすっかりクラスの一軍集団と仲良くなり、帰りにカラオケの誘いも受けていた。


(すごいな……愛坂さんは。俺と違って、転校してすぐ友達が出来ている)


 陽キャに囲まれて下校していく彼女を廊下の後ろから眺めながら、生きている世界が違うことを痛感させられる。


 冴えない眼鏡。

 友達なし、彼女なし。

 部活に所属してない帰宅部。

 趣味はゲームとアニメ鑑賞だ。


 学校ではぼっち陰キャ、家ではオタク。

 好きなことして生きることは悪い事ではないが、満たされない毎日を送っていた。





 家(アパート)に到着した俺は部屋着に着替えて鏡の前立った。

 長い前髪をヘアピンで留めて、眼鏡を外して代わりにコンタクトレンズをつける。


 家には俺しか住んでいない。

 前までは父親とは二人暮らしだったが、今は北海道に出張中で帰ってきていない。


 だけど必要な分の生活費は送ってくれるので、生活に困ったことはなかった。


 さて、夕飯にしよう。

 エプロンをつけて、鶏肉を一口サイズに切る。


 しょうゆ、酒、みりん、にんにく、しょうがで味漬けをしてから片栗粉をまぶして油で揚げれば唐揚げの完成だ。


 シンプルで簡単、何百回もやってきたことなので一時間以内で終わらせることができた。


 夕飯と明日の朝食と弁当用に多めで作っているので、食べない分はタッパーに入れて冷蔵庫に保管する。


 テレビをつけて、午後のニュース番組を見ながら食卓で夕飯を食べる。

 県内で活躍している高校バスケ部が取り上げられていた。


 練習で切磋琢磨するチームメイト、試合での凄まじい連携。

 完璧なシュートを決めた時のハイタッチ。


(羨ましい……俺も友達が欲しいな……)


 ぼっち陰キャには刺激が強すぎた為テレビをオフにして、静かに食事を続けた。




 ――――


 新作投稿! 

 作者のモチベに繋がるので、面白かったらフォローいいね、☆☆☆レビューをぜひお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る