地獄の披露宴!!!
立花 優
第1話 イッツ・ショー・タイム
狂気の病、『人肉嗜好症』、それは人間の他人への権力欲や復讐心が最高度に到達した時に、突如、発症するという学説を何かで読んだような気がするのだがその学説は果たして本当なのだろうか?
この話は、北陸の地の某県で実際に起きた『大量人肉食パーティ殺人事件』と言う大事件を引き起こした人間の実録である。
「レディース、アンド、ジェントルメン。今日は、私の「出版記念」及び「婚約披露宴」に、御出席頂き、誠にありがとうございます。
さて、お酒も入り、宴たけなわのこの時間を借りまして、ちょっとした余興を御覧に入れたいと存じます」と、長身・長髪・口髭の神田裕一郎が、可動式の箱形の舞台を横長に組み立てた仮設ステージの上で、マイクを持ってゆっくりと参加者に挨拶をした。
招待客から、一斉に拍手が上がった。
「ジ、実は、ワタシ、隣の国の中国で、もの凄すごい奇術習ってきたあるネ。
ワ、ワタシ、中国4,000年の秘術知っているあるヨ」と、急に神田は語調を、たどたどしい日本語に替えて話し出した。誰もが大きな声で笑った。パーティにはつきものの、余興の事である。
「で、ワ、ワタシの奇術、極、簡単なものからスタートあるネ。ワタシのアシスタントは、皆さんの本日の料理を作ってくれたシェフの林さんあるヨ。林シェフさん、ここで登場!」と、神田の声と同時に、神田とは身長差が30センチもあろうかと言う小柄で丸々と太った林シェフが、神田と同じタキシード姿に長いコック帽をかぶって登場した。
最初に、神田は、全くのカラ箱の中から、数本の造花をスパッと出現させた。素人にしては、なかなかの腕である。
「こ、この林シェフは、ワタシが「入院中」に知り合った友人あるネ。大親友あるヨ」と、奇術の途中で神田が林シェフの紹介をした。
だが、この言葉に私は即座に反応した。神田は某精神病院に入院した事を私は知っている。
これでは料理は危険でとても口にできないではないか。ともかく、私は新しいビール瓶の栓を脱いで、ビールだけをチビチビ飲んでいた。それが一番安全だと感じたからだ。
だが、ここにいる参加者の誰一人として、この私のような疑問も警戒心も持っていなかったろう。
皆、目の前の山海の珍味に舌鼓を打っていた。林シェフの料理は、見た目にも綺麗で如何にも美味しそうで、特に、手作りハムやソーセージ、焼き肉の類いが、彩りの鮮やかさが目立つ大皿の上に置かれていた。
さて、舞台の上では、神田が主役で林シェフが助手の役を勤め、口から火を噴いたり、突如として人形を出したり、その人形が歩いたりして、次々と面白い奇術を行っていた。
その奇術の腕前は、実際、素人離れしておりこれだけの腕があればこそ、先日も地元のテレビ番組に出演できたのであろう。神田は地元では何しろ超有名人なのだ。
「次は、か、簡単な仕掛けのギロチンの奇術に移るあるネ。まず、ワタシ、この小さなギロチンで、試してみるあるネ」と、神田は、小型のギロチンを壇上の机の上に置き、野菜の大根や人参をスパッと切ってみせた。
「つ、次に、ワタシの手。こ、ここに奥深く強ーく挿入しまーすネ。これ、ほんと、怖い事あるヨ」と、自らの左手を、そのギロチンの仕掛けの中に差し入れた。
神田が、「挿入」という言葉を、如何にも卑猥そうに話したので、周囲からまたもやドッと歓声が上がった。正にアレを想像させるような口ぶりである。
次の瞬間、神田は林シェフに命じて、小型のギロチンの歯を押し込んだ。ガチン!という音がして刃が落ちて来たが、無論、手品だからして、神田の手首は何とも無い。
「こ、ここで終わりで無いあるヨ。次に、もっと大きな奇術、皆さんに見せるあるヨ。
これこそ、ワ、ワタシ中国4,000年の秘術を習った集大成あるネ」と、仰々しい前口上の後、神田は舞台脇から、畳1畳以上はありそうな大仕掛けのギロチンの仕掛けを林シェフと二人で運んで来た。
その仕掛けは相当に頑丈に出来ており、またその周囲が複雑な幾何学模様に彫られていた事からも、何処か専門の奇術業者から買って来た凄く高価なもののように思えた。
そして、神田は林シェフに、顔を入れるように命令したのである。
多分、何度も何度も練習して来たのであろう。林シェフは長いコック帽を取った後悠々とそのギロチンの仕掛けに首を突っ込んだ。そして、観客席に自分の顔を見せるような形になった。その両眼は皆を睨(にら)んでいるように見えた。
「それでは、皆さん、仮設舞台に注目して下さいあるネ」と、神田は言った。
神田は、その大型のギロチンの仕掛けの脇から出ている、太い紐を勢いよく引いた。シュパッ!と言う大きな音とともに、壇上から林シェフの首がギロチン台から切断され下へ転がり落ちた!その瞬間の林シェフの両眼を見た私は、その両眼が「あっ!」と叫んで虚空に舞っているかのように見えた。
続く間も無く、まるで時代劇の映画の一場面のように、ドバッドバッと大量の鮮血が辺り一面に飛び散った。
招待客全員、一瞬、無言となったが、次の瞬間、大きな笑い声が再び会場を覆った。
皆、結構に酔っていた。一体、何が起きたのか誰も理解できて無かったのだ。転がり落ちた林シェフの頭部は、本人によく似た人形の首に「血糊」が付いただけの単なる玩具だと思ったらしい。
その時である。神田が、壇上の机の上に置いてあったマイクを両手で掴んで、大声で叫んだのだった。
「イッツ・ショー・タイム!」と。
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