第2話 お城へ行く

 さてゲームが始まる。

『それは、かるびが16歳になる誕生日の事であった』


「起きなさい。私の可愛い、かるびや」

 母に起こされた。あれ? 何か違和感がある。何だろう?

「おはよう、かるび。もう朝ですよ」

 そうか、起きないと。あれ? あれ? 昨日、こんなパジャマ着てたかな?

 違う。なぜか、お出かけの勇者の服を着たまま寝ていた。

 でも、それ以上に何か違う違和感が。

 起き上がろうとして、太ももの間の股間が妙に寂しい。いつも朝、起きた時の充実感が無い。

 上から、まさぐる。


「うわぁ、ない。ない!」

「どうしたの? かるび」

「オチンチンがない。女の子になっちゃった!」

「変な子ねぇ。あなた、ずっと女の子じゃない?」

「え゛!?」


 何で? どうして? 昨夜に寝るまでは、男の子だった筈なのに。

「今日は、とても大切な日。かるびが王様に旅立ちの許しを頂く日だったでしょ。

娘のお前を、この日の為、勇敢な男の子の様に育てたつもりです」

 え? あ? そういう設定なのか?


 とりあえず起きて、母についていく。

「さぁ、母さんについていらっしゃい」

 母はずんずん歩いて、家を出て、道を歩いて、お城の前まで連れて行ってくれた。

「ここから、まっすぐ行くとアリアハンのお城です。王様にちゃんと挨拶するのですよ。さぁ行ってらっしゃい」


 ここで意地を張って会いにいかない展開も面白いのだが、王様の許可を得ずに冒険を始めてしまった場合、仲間を連れ出す事が出来ない。出来ないなりに一人だけでプレイも面白いが、それを楽しむのは今回の予定に入っていない。最後の最後まで意地を張り続けても良いが、どうせ商人を必要とする時に、許可を得て連れ出さないといけないから中途半端だ。

 ※1


「よくぞ来た。勇敢なるオルテガの息子……いや……娘じゃったか」

 王様からも、自分の事を男なのか女なのか、しっかりした認識がない。

 仕方ない。

 何せ、かるび自身もその事で戸惑っているのだ。

 とはいえ、義務的に王様から定例の説明を聞けば、支度金50Gと棍棒×2とヒノキの棒、旅人の服をありがたく頂き、同時にルイーダで仲間を連れだす許可が貰える。相変わらず、ケチ臭い王様だ。


 しかしまぁ頂いた装備品。普通なら、『ヒノキの棒なんかいらねーや』とその場で捨てるなり速攻で売ったりするのだが、今回は装備一切を買わない事にしているからこの攻撃力+2のヒノキの棒が意外と重宝な気がする。もしこのヒノキの棒がない場合は、当面は素手で戦わねばいけないキャラが1名発生することになるからだ。


 王様の許可を得たから、家に帰ってその事を母に報告して、まずは一晩ぐっすり寝るとする。別にHPもMPも減っちゃいないが、おそらくかるびは慣れぬ一日で疲れただろうという配慮。


 というより、最初から女の子ではなく、男の子だったのになぜか女の子になって、しかも勇敢な男の子の様に育てられたという、ひねくれた設定にしてしまった事に、精神的に疲れたかもしれない。

 寝る前に、女の子に変わってしまった自分の身体を、じっくり観察したのかどうかは読む人の想像に任せて、まずは自分の強さを調べる。


 勇者かるびのパラメーター。

Lv01。HP 12・MP 8・力 14・すばやさ 9・体力 6・賢さ 4・運のよさ 3

性格『乱暴者』。

装備:銅の剣(+12)、旅人の服(+8)で、攻撃力26・守備力12。

「あんだよ、何でこんな事になっちまったんだぁ!?」(CV.林原めぐみ)


     ☆


 朝起きたら、まずお約束の自分の身体を確認した後、家捜しする。台所の薬草と自分の部屋の引出しから力の種を取り、次に爺さんの部屋へ行く。


「お前の父親オルテガは立派な勇者じゃった。この爺の息子じゃ!。かるび! お前もこの爺の孫じゃ! 頑張るのじゃぞ……って、聞いとるのか? おおズンズン入ってきてタンスを……おお、それはワシのヘソクリの5Gじゃ。待て、勝手に持っていくでない。それはワシの、ワシの、おおおおお、ワシのヘソクリぃっっ!」


 その勢いで、町やお城のあちこちからも、かき集める。薬草、毒消し草、小さなメダル。まだ鍵は手に入れていないので行ける範囲がちょっと狭い。とりあえず手に入れてしまった小さなメダルは井戸の下のメダル王……じゃなくてメダルおじさんに預けておく事にする。


     ★


※1 王様の許可を得ていないと、ルイーダの店で仲間を紹介してくれないのだ。

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