第4話
第4話。
ソクユンは社内で海運スケジュールを確認するためにシッピングガジェット(Shipping Gazette、海運物流情報誌)を見ていた。釜山からチッタゴン(バングラデシュ港)に行く輸出物流で荷主はできるだけ早いスケジュールを希望したが、フォワーディング会社の立場からすれば、1~2日スケジュールが遅れても運賃が安い船社を選ぶのが得だった。船会社ごとにチッタゴンまでの運賃を比較していたところ、銀平警察署のチョ・ビョンゴル警部補から電話がかかってきた。 急いで事務所を出て廊下の隅に行き、電話を受けた。
「もしもし。」
「イ・ソクユンさんですか?」
「はい、そうです。」
「あれからチョン・エソンさんについていろいろと調べてみました。」
「ああ、そうですか。」
「えーっと、どのように申し上げればいいか.......、念のため前科歴があるか一度調べてみたのですが・・・」
「前科歴ですか?」
「はいら、それで調べてみたら前科が2つ出てきたんです。」
気を使ってか前科2犯という表現は避けたようだ。
「前科ってどんな前科だったんですか?」
「経済犯と言えますが、2件とも国庫補助金横領です。」
「国庫補助金横領って、何の国庫補助金を横領したんですか?」
「簡単に言うと青年起業に支援する国家補助金があるのですが、書類上だけ起業したように装って国家補助金を受け取ったということです。」
「彼女が前に2回起業したことがあると言ったのを覚えています。 英語塾と喫茶店を起業したのですが、事業がうまくいかずすぐに畳んだと聞いています。」
「はい、そのようですね。 英語塾と喫茶店、2つの業種で書類上は起業していましたが、実際は事業をする意思がなかったようで、青年国庫補助金をもらう目的で起業したということになりますね。」
「ああ、そんなことが.......驚きました。国からの補助金をそんなやり方でももらえるんですね。」
「こんな風に虚偽の書類で国庫補助金を獲得することがたまにあるんです。」
「では、彼女は何か罰則を受けたんでしょうか?」
「はい、処罰は3年前にすでに終わっています。」
「そうですか。本人が言わないと絶対に分からないことを知ることになってしまいました。 ちょっと混乱しています・・・では今回突然姿を消したのはもしかして何らかの詐欺事件とかに巻き込まれたのでは?」
「まあ、今のところ確定的にそうと判断できる状況ではありませんが、その可能性がないとも言い切れませんね。」
「そうですか。こういうこともあるんですね。」
電話を切った後、ソクユンは今まで自分は誰と付き合っていたのか、彼女の内面を全然知らずに外面だけで付き合っていたような気がした。自分は恋人の何を知っていたのだろうか。お金をたくさん稼いで金持ちになりたいとはよく言っていた。英語講師の給料なんて分かりきっていただろうに、どんな方法で金持ちになれるのかと尋ねると、投資をうまくしなければならない、お金になるようなところに入れていればお金が増えると言っていた。デートの時に時々本屋に立ち寄ると、エソンはいつも経済や投資関連の本があるところへ行き、そのような本を1、2冊と買っていた。
これまでの彼女は国庫補助金を獲得するために起業するように見せかけて書類を偽装し、罰を受けた後、現在英語講師として平凡な生活を送っていた。 それでも経済や投資に関する知識を積み重ね続けていた。ある意味では経済観念がしっかりしている女性とも言えるし、ある意味ではお金への執着が強い女性とも言える。
自分自身ももちろん金持ちになりたいしお金をたくさん稼ぎたいとは思うが、特別な知識や能力があるわけでもなく親が金持ちでもないため、ただ今の職場で一生懸命働いて、他人に騙されなければいいと思って生きてきた。
エソンが突然姿を消したのは、また詐欺をして逃げたか、それとも詐欺をする計画があってそれを実行しなければならない状況だったのかもしれない。だから婚約者である自分のそばにいると、その計画に支障が出るのを事前に防ぐためではないかと思った。このままではエソンを永遠に見つけられないかもしれない。両親には結婚する女性だと既に紹介も済ませてある。
ソクユンの実家は水原(スウォン)にある。今の会社に務めだした頃は水原からソウルまで通勤していたが、夜勤がある時は帰宅が遅くなり、また営業上取引先とお酒を飲まなければならない場も頻繁にあった。 その度に家に帰れず、漫画喫茶やカプセルホテルを転々としていた。水原から通うにはあまりにも不便で疲れたので、合井に部屋を借りた。
母が一度家に帰ってこいと言うので、水原に帰った。少し前まで結婚の準備のために両親と新居の問題で話をしたことがあった。
「ソクユン、母さんの知り合いで元々ソウルに住んでいた人なんだけど、京畿道(キョンギド)驪州(ヨンジュ)にある別荘に引っ越すことになって、住んでいた別荘を貸し出すことになったらしいのよ。その地域が昌洞(チャンドン)で、ソウルの他の地域より家も安いし、家賃も相場より安く出すらしいから一緒に行って家を見に行こう。」
「その家は何坪あるの?」
「18坪で部屋が3部屋、新婚夫婦が住むにはちょうどいい大きさで不動産に出す前に母さんに先に賃貸の話を持ちかけてくれたのよ。 最近賃貸難だし相場も安く出しているから家を見に行く時にエソンも一緒に行こう。」
「うーん..... そのことなんだけど俺たちも別で探しているところなんだ。」
「ねえ、こんないい物件はなかなか見つからないよ。できれば昌洞にしなよ、あんたはどこを探しているの?」
探しているというのは嘘だったので、すぐに答えられなかった。
「......とにかく、まだ探しているんだ。」
「まともな借家を見つけるのは簡単じゃないよ。昌洞は交通の便もいいし、近くに大型スーパーもある。それに学区もそれなりにいいわよ。」
どうせ分かることなら早く言ったほうがいいと思った。今すぐエソンを見つけることもできないし、見つけたとしても以前の関係に戻れるかも分からない。
「あの、親父、ちょっと話があるんだ。」
「うん、何だ?」
「エソンが ....... エソンと急に連絡が取れなくなったんだ。」
「どうした、喧嘩でもしたのか?」
「そうじゃなくて、急に連絡が取れなくなって家に行ってみたら、家の中はそのままで服とか簡単な荷物だけ持って家を出て行ってしまったようなんだ。」
「えっ、一体どういうことなんだ?」
「とりあえず、警察に行方不明届けを出していて、今捜索中なんだ。」
エソンに前科があるとは到底言えなかった。行方不明とだけ言って、とりあえずその場を凌ぐしかなかった。奥の部屋にいた母は何か雰囲気がおかしいと感じ、居間に出てきた。
「ソクユン、どういうことなの?エソンが行方不明になったって?」
「うん、そうなんだ。 どこにいるのか今探しているところなんだよ」。
「あらあら、大変なことになったわね、どうしてこんなことが.......」
両親に会った後、合井洞の家に帰る道中、心が重くなった。エソンを見つけたとしても、未来が良い方向に進むとは思えなかった。詐欺の前科が2つもあることがとても気になった。
両親がこの事実を知ったら、きっと結婚を反対するだろう。頭では彼女と別れた方がいいのは分かっているが、今まで付き合ってきた情もあるしそう簡単には切れない。普通にこれからも英語講師として生きて、また自分も仕事をしながら2人で力を合わせて生活すれば、お金持ちにはなれないだろうけど普通には暮らせるんじゃないかな、と残念な気持ちになった。
男女が結婚の話まで進んでいる状況であれば、自分の家族を相手に紹介することは自然な流れだ。だが、そういえばソクユンはエソンの母親に一度も会ったことがなかった。
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