第17話 告白の結果





 水野が駿矢に告白をする。

 その決意を知ってから三日経った日の夜。


 携帯に水野からの連絡があった。


 最初、ビックリマークの多さに気圧された。

 そして次に、その驚きの事実に僕は雷が落とされたような衝撃をくらい、気が付くと駿矢に電話をかけていた。



『どうした? 急に電話なんかしてきやがって』


「……どうした、じゃない。ちゃんと説明しろ」



 積み上げられた山積みの本が雪崩を起こして散らかるように僕の脳内は掻き乱されていた。



「水野に告白されたんだろ」


『あぁ、そうだよ。それで?』


「付き合ったんだな?」



 とても現実とは思えない。


 さっき水野から、駿矢と付き合うことになったと知らされた。


 しかし、どうしてもそれが信じられなかった。


 僕はまだ、おめでとうの一言すら返せていない。



『それに何か問題でもあるのか?』


「…………いや、ないけど」



 問題はない。

 知り合いと知り合いが付き合っていようが、正直どうだっていい。


 ただ、腑に落ちない。


 駿矢は、断ると思ってたんだ。


 そもそも、駿矢にそういうのが興味ないと思っていた。


 だって、駿矢は、百合恵さん以外の人なんて、まるで見ていない人間だと思っていたから。



『どうしたんだ? もしかしてお前、俺に人並みの恋愛をしちゃダメだって言いたいのか?』


「ちが……わないのか?」



 今は、自分の本心すら分からない。


 分かったとしても、それを言語化できる自信がなかった。



『マジでどうしたんだよ………。あのな、ゆずはありのままの俺が好きなんだと。中々いない、変わった奴だよな』



 電話越しで、駿矢は苦笑しているようだった。


 そして、紛れもなく素の発言だと思った。



「変わってる。でも、良い奴だと思うよ」


『だよな。俺らと違って』


「……水野のこと、泣かせるなよ」


『なんだそれ。お前はゆずの何なんだよ。もしかして、それが言いたくてわざわざ電話なんか掛けて来たのか?』


「…………」


『そうだ。俺からも春人に聞きたいことがあったんだ』


「……何だよ」


『ユリ姉の気持ちは理解できたか?』


「…………は?」



 駿矢から質問してきたくせに、そこで通話が勝手に切られた。


 何から整理すればいいのか、頭の中はごちゃごちゃで片付かないままだった。





 

 通話が終了してしばらく、激しい自己嫌悪に襲われていた。


 これまでに自分のしてきたことをよく振り返ってみる。


 小さい頃から一緒にいた。

 それだけを理由にして、勝手にすべてを理解しているつもりになって、決めつけていた。


 駿矢は、百合恵さん以外に興味がない。恋愛なんて本気でどうでもいいと思っているような人間だと決めつけていた。


 それはある意味一種の期待のようなもので、僕の思う駿矢の型に、本物の駿矢を当てはめていた。


 そして、これは駿矢にだけじゃない。


 僕は、百合恵さんに対しても、同じことをしていたんじゃないか?


 小さい頃から、ずっと完璧だと決めつけていた。

 しかしながら、僕が完璧だと思っていた百合恵さんは、何かしらの苦しみを一人で抱えていたのかもしれない。


 結果的に、百合恵さんは自ら命を絶った。



『理解できるように、努力はします』



 一体、どの口が言えるのだろう。


 本人でもないのに勝手にその人の性質を決めつけてしまうような奴が、一体何をぬかしているのだろう。


 ただただ無責任。

 僕のしていることは、最低で最悪だ。


 小さい頃から一緒にいたとして、それが何になる?


 人は成長し、変わっていくというのに。


 その一時一時の気持ちすべてを理解できるわけでもないのに……。


 自分のことが、嫌いになりそうだった。

 いや、元から好きだった訳じゃないけど。

 とにかく、自分自身にうんざりしていた。


 自己嫌悪から逃げるように、僕は水野に《おめでとう》と送った。


 水野からだけでなく、椎名からも《ゆずちゃんから聞いた? 無事に告白成功したみたい!》とメッセージが来ている。


 椎名には、なんとなくで返信をしていた。 



《椎名。ごめん。もしよかったら息抜きに付き合ってくれないか?》



 なんで、こんなの送ったんだろう。


 今一度、自分の送った文面を確かめてみる。

 悪者の自分が、まるで傷付いている被害者風の文章に見えて余計に嫌気が差した。


 椎名からはすぐに返信があった。



《明日のお昼、お酒持って公園集合!》



 それに対して、特に何かを返信する気にはなれなかった。





 

 



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