第2話シゴト
「……警察はなぜスピード違反の車を捕まえるのにスピード違反していいんだ……シゴトだからだ、AV女優はなぜカメラの前でセックスするんだ……シゴトだからだ、産婦人科の医者はなんで他人の奥さんの股ぐら弄っていいんだ……シゴトだからだろ、仕置き屋のシゴトは仕置きだ」
「……」
「世の中、矛盾だらけだ、法律で禁止されていないから自殺は罪にならないのか、遺書も遺さず逝かれたら、他殺ではないか調べられ……警察で自殺と決まっても、家族、知人の中で原因となった犯人捜しがはじまる……人間をセックスして生まれるように造った、神様の望む正しい生き方なんて……一生考えても凡人にはわからんよ……」
男に感情の高ぶりはない、この考えにたどり着いて、かなりの時間を経ているようだ。
俺は自分の考えや生き方が正しいかどうかなんて考えたことはない。その時のながれに任せて生きてきた。
それでうまくいっていた。彼女が傍に居ればそれでよかった。無事に一日が終わって、彼女に会う、望みはそれだけだった。
無事に一日を過ごすために、俺は努力をしてきたのだ。
でも、この男は違う。年齢のせいか、経験のせいか、俺とは違う考え方で生きている。
自分のシゴトを正当化できていた。
この自信はなんなのか、この男のように、
シゴトという理由だけで俺にもできて、そ
して俺の生きる理由にできるか賭けてみようと思った。
俺がこの男のシゴトを手伝うようになった理由は、それだけのことだった。
「アシ、次のシゴトの資料だ」
ティはファイルを日の射さない壁側の机の上に放った。
『アシ』は男が俺に付けた呼び名だ。
俺は男を『ティ』と呼んだ。
ティにはシゴトの仲間というか、相棒のような『マック』という男がいて、そのマックが男をティと呼んでいたからだ。
シゴトをはじめて、ひと月位はーさんーをつけていたが、男が嫌がったからティだけになった。
ティと出会って五ヶ月になるが本名は知らない。
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