球技大会

 月日は6月。中間テストが終わると、ある学校行事が待ち構えている。運動好きにはたまらなく、運動嫌いにはつまらない、球技大会である。球技大会は、ドッチボール、バスケットボール、バレーボールのいずれかに参加しなければならないというルールである。今は、クラスで各々がどれに参加するか配られた用紙に名前を書いているところだ。冴はもちろん、バスケットボールのところに自分の名前を書く。夏実と杏はどこに書こうか悩んでいた。

「2人は球技大会、どこにした?」

「それがまだ悩んでて……」

「冴ちゃんはもちろん、バスケでしょ? エースだもんね!」

「うん! バスケ! 良かったら、2人も一緒にバスケしない?」

 夏実も杏も、いやいやと手を振りながら、否定する。

「私はドッジボールでもするよ~」

「うちも~バスケもバレーも無理だから、ドッジにする~」

「えぇ~せっかく、仲が深まったのに離れちゃうの~寂しいよ~」

「「ごめんね~」」

 2人の謝罪のハモリに打ちのめされた冴は空しく、球技大会の出場希望用紙にバスケと記入する。そういえば、萌依は何をやるんだろう? あとで、聞いてみよう。萌依は文化部だから、運動が苦手だから、どれも嫌だとかいいそうだな~。


 昼休憩の時間、萌依は先に屋上に来ていた。

「萌依、お待たせ~」

「冴、待ってたよ~。お弁当食べて~」

「うん!!」

 萌依は相変わらず、お弁当を作ってくれている。愛妻弁当みたいと思う冴。恋人同士になってから、より一層張り切って弁当の中身を充実させてくれている。

「ねぇ、萌依。お弁当作ってくれるの嬉しいけどさ、その……負担にならない? 中身、豪華になっているよ?」

「私が好きで作っているんだから、冴は美味しく食べてくれればそれでいいんだよ!」

「そっか、ありがとう。話変えるけど、萌依はさ、球技大会、何に参加するの?」

「私、バスケもバレーもできないから、ドッジボールにしたよ」

「う、私のクラスメイトと同じこと言っている……」

「え、そうなの? ドッジボール人気だね~。やっぱり馴染み深い競技だからなぁ」

「だよねー。小学生でも気軽にできる競技だもん。でも、それなら、バスケやバレーだって……。って思っちゃうんだよね」

「いやぁ、バスケとバレーは別物でしょー……。」

えぇージトーとした顔で冴を見る萌依。

「そうかなぁ。ミニバスとかあるじゃん! もっと身近になって欲しいよ、バスケ! バレーだって、あるじゃん!?」

萌依とバスケできないことが残念であるが、これは、競技違えば応援ができるということでは!?と気づく冴。

「あーでも、競技違えば、お互いのプレイしてるとこ見られるね! 応援するからね!」

「違うクラスなのに、応援しちゃっていいのー?このこのー」

「あぁ、そうだ。バレないように!バレないようにする!」

「そう。ありがとう、冴! 私も冴のこと陰ながら応援してる」

「目線送ってくれるだけでいいよ。それで、3Pシュート決めてみせる……」

ガッツポーズをしながら、強気なところを見せていく冴。

「わぁ、冴の活躍楽しみにしてるね! あ、そろそろ昼休みも終わりか。行こっか、冴。あ、今日のお弁当どうだった?」

「今日も美味しかったよ! ご馳走さま!また、作って!」

「言われなくとも、毎日作りますよーだ。球技大会の時は豪華にするからお楽しみに!!」

「本当!! それは今から楽しみだなー、もう来週だし、あっという間に訪れるね。弁当作ってて遅刻しないでよ?」

「しないよー。ちゃんとお弁当作る時間計算して起きるよー。4時くらいかな」

「4時!? あたしの母と同じくらいに起きてる!」

「だって、私が家族のご飯作らないといけないから」

「あ、そっか……ごめん」

「謝らなくていいって。ほら、行かないと。私、次、移動教室だから、急ご!!」

「そうだね、ごめん! ギリギリにさせちゃってー!」

「口動かさないで、足動かすー!! また、放課後ねー!!」

「あいよー!!」

屋上の踊り場で別れると、急いで教室に戻った。

杏と夏実が、ギリギリだよーっと笑いながら迎えてくれた。



1週間が過ぎ、待ちに待った球技大会の日が来た。

カッコいいところ、萌依に見せるんだと張り切る冴。早起きして、水を飲んでから、部屋の中で、筋トレを入念に行う。日課であるが、体を温めて柔軟に動かせるようにほぐす。今日も朝から体が思い通りに動く。大丈夫。決められる。3Pシュート。もちろん、仲間と連携して、ゴールを決めることも忘れない。どの競技もそうだが、チーム戦だから仲間と協力することが求められる。冴のクラスからも、同じバスケ部の仲間が出ることになったから、連携は取りやすいだろう。問題はバスケに慣れてない生徒との連携だ。だが、授業でバスケはやっているし、なんとかなるだろう。皆、それなりにできていたはずだから。

 時間になった。朝ごはんを済ませ、母に行ってきますと挨拶をして自転車に乗り家を出る冴。道中、萌依と会う。自転車を止めて、押して歩くことにした。

「おはよう、萌依。早いね。一緒に学校行こう」

「おはよう、冴。なんか緊張しちゃって、学校で小説でも書くか読もうかしようと思って、もう家出てきちゃった」

「あはは、そうだったんだ。私はつい部活の感覚で家出てきちゃった。今日、球技大会なのに」

「冴はいつも通りの心構えだね。さすが、運動部。私は嫌でしょうがないよ~。しがない文化部だもん」

はぁ、とため息をつく萌依。

リュックを背負ってる為、萌依の両肩をポンッと叩く冴。ビクッとなる萌依。

「わっ、急に何!?」

「渇を入れてあげようと思って。あたしが応援してるんだから、最後までコートに残るんだぞ~?」

「え、最初から外野に行こうとしてたんだけどなー……」

「あ、逃げる気だな。だけど、外野は人気ポジション! じゃんけんの弱い萌依は、外野には行けないと予想した!」

「ひどいっ! だけど、私、じゃんけん弱いのは確かだー。確率なのに、どうして負けに偏るの!?」

「あっはっは、潔く最初から内野で逃げ回っていればいいじゃん。で、取れそうなボールは取ってさー」

「簡単に言うけど、勢いついたボール取るなんて無理だよぉ!」

「まぁ、男女分かれているんだから、そんな強いボール来ないでしょ」

「いるよ~!! 文化部からしたら、運動部の子が投げたボールはビビりの対象だよ」

 なんて、じゃれ合って話が盛り上がっているところで学校へ着いた。

「あーあ、着いちゃった。じゃあ、また、あとでね。昼休みのお弁当楽しみにしてて。張り切って作ってきたから! それと冴、バスケ頑張ってね!! 応援してる!!」

「もちろん、ありがとう!! 応援もお弁当も楽しみにしている!! またね!!」

そう言って、2階で別れ、お互いの教室へ行く。

「はぁ、まだ、杏と夏実はまださすがに来てないか……。まだ、ホームルームまで時間あるし……体育館行くか」

 冴は、体操服とジャージに着替え、体育館へ向かうと、体育館には冴と同じようにウォームアップして励んでいる生徒がちらほら。皆、優勝目指して、燃えているようだ。空いているゴールがあった。シュート練習をし始めた。

「おはよう、冴。冴も練習? クラス違うから敵同士だけど、互いにベストを尽くそうね!」

「おはよう、あぁ、滾ってきた!!」

 話しかけてきたのは、同じバスケ部の同級生だった。挨拶もそこそこに、また自分達のゴール前に戻り黙々と練習に戻った。よく見ると、他のクラスは、バスケ部ではない生徒も早く登校して、バスケ部から教えを乞うてた。A組もチームで集まって練習することを約束しておけば良かったと後悔した。自分だけ練習しても、シュートの練習しかできない。せめて、3Pシュートの成功率を上げる為、反復練習をするか。

 予鈴がなった。バスケの練習をしていた者達は、急いで片付け教室へ戻る。冴も持っていたボールを籠の中に入れて、倉庫の扉を閉め、教室に戻った。

「おはよう、冴~。どこに行ってたの?」

杏が質問してくる。

「おはよう、杏。体育館で、シュートの練習してきた」

「へぇ~、気合い満々だね。応援してるからね! 決めてよ! A組のエース!!」

「エースだなんて、大袈裟な……あれ?そういえば、夏実は?」

「おはよう、冴ちゃん。お手洗い行ってました。話聞こえてたよー。シュート練習お疲れ様~。私も応援してるからね」

「ありがとう、2人共。あたしも、2人のドッジボール、応援してるからね!」

「「ありがとう~頑張る!」」

と、また仲良くハモらせたところで、予鈴が鳴った。生徒達は、席に着く。担任が教室に入ってくる。

「おはよう。今日は球技大会だから、皆、体操着、ジャージに着替えているな? 学年の垣根を越えて対決するってのは、もう2年だから知ってるよな? 自分が競技に参加していない時はクラスメイトを応援するように。今年から、優勝したクラスには、商品が与えられるから、皆、張り切って参加してくれ。先生も応援しているぞ。では、開会式が、体育館で行われるから、準備するように」

担任は必要事項を伝えると早速と教室から出ていき、廊下に立った。クラスメイトも続いて担任の後ろに出席番号順で並び、体育館に向かう。その間、生徒達は、優勝商品ってなんだろうね、とのことでひそひそと盛り上がっていた。

体育館にぞろぞろと、全校生徒が集まってくる。

始業のチャイムが鳴る。教頭が、壇上に上がる。

マイクの前に立つと、一呼吸置いてから

「えー、ただいまより球技大会の開会式を始めます」そして、壇上から下りた。拍手をする全校生徒。

「国家斉唱」

生徒会長が壇上に上がり、指揮をする。伴奏は音楽の教諭だ。

歌い終わると、

「校歌斉唱」

ここまでは、あらゆる式と同じ段取りだ。

「選手宣誓」

 各学年のクラス委員が、壇上に上がり、校長に、正々堂々戦うことを誓った。終わると、校長がそのまま話始める。

「生徒諸君。9月半ばといえ、まだ猛暑日が続く昨今。水分補給を怠らず、競技中は真摯に戦いあい、待機中は、クラスメイトの頑張りを精一杯応援すること。では、ここで球技大会開始の宣言をする。諸君の健闘を祈る」

全校生徒が拍手をすると

「では、競技に移ります。各自、自身の競技の場所へ向かってください」

と言っても、バレーとバスケは体育館内で行う為、

ある程度、生徒達は残った。バレー、バスケも5人で1チームである。その他の生徒は外のグラウンドを使って、ドッジボールである。これらが、1日で完遂させるため、同時並行で行われる。

冴の出番と萌依の出番は被らないため、お互いに応援ができそうだ。問題は対決相手が、2年A組対2年B組である。くじ引きで公正に分けられている為、偶然の対戦相手である。だが、勝ち抜いていれば、いずれ戦い合うが。応援しなければならないのは、所属するA組だ。歓声を上げて応援するのはA組にしよう。だが、萌依のことも応援したい。心の中で応援しよう……きっと届くはず。どちらにも勝って欲しい気持ちはあるけど、A組も優勝賞品の話がでてから闘志が燃えている生徒が増えた。それに、球技大会の勝負事は必ず決着がつかないといけない。引き分けはなしだ。冴も優勝賞品が気になっていた。それまでは大好きなバスケができればいいと思ってただけであったが、優勝賞品かけて真剣に取り組もうと思った。元からバスケに手を抜くなんてするつもりはなかったが。

 もやもやしながら、勝負を見守る。杏と夏実が、逃げ回っている。渇を入れてやるか。

「杏~、夏実~逃げ回ってばかりいないで、ボール取れ~!! 相手に当てろー!!」

 杏と夏美は冴の声にビクッと反応し2人して声の方にキッと睨みつけると、視線を戻す。冴はぽかーんとした。応援したのに、睨めまれた。後で、何か言われるだろうか、さっきまで応援してるからねと言ったのに、本番になったらビビッてるから渇を入れたのに……。そんなに、怖いのか。冴はバスケ以外の球技も……どころか、体育は得意競技なので苦手な人の気持ちがわからないのだ。応援の言葉が悪かっただろうか。ただ、頑張れ~で良かっただろうか。

 そうだ、萌依はどうなっただろう。萌依も必死になって、ボールから逃げている。泥仕合だ。攻めてる人は攻めてるが、守りに入っている人は消極的すぎる。萌依にも思わず、声援を投げそうになったが、慌てて口をつぐんだ。冴と萌依は恋人同士であるが、今は敵同士。球技大会が2人を別つ。だが、昼休みになれば逢瀬できるだろう。豪華なお弁当と共に。それまで、我慢だ。と言い聞かせる冴。



 勝敗が決まった。A組が勝利した。杏と夏実はなんとか逃げ切って内野に残っていた。

「杏~、夏実~頑張ったね~!!」

 労いの言葉をかける冴。近づいてくる2人。

「ありがとう。睨んでごめんね、ついあの時は逃げるのに必死で……」

「私も……ごめんね冴ちゃん」

「いいよ、あたしも2人が頑張っているのに、無理矢理攻めろって押し付けちゃった。でも、勝てて良かったね!!」

「あーあ、勝ったから、より強いクラスと闘うはめになってしまう……」

「負けても、結局、敗者クラス同士の闘いがあるんだから、闘う運命からは逃げられないよ……杏ちゃん」

 ポンッと杏と夏実の肩に手を置く冴。

「まぁまぁ、どうせなら楽しもうよ! 優勝賞品が待ってるんだから! じゃあ、そろそろ出番だから行ってくるね!」

「そうか、冴、出番か! 応援しに行くよ!」

「私も私も! 冴ちゃん、頑張ってね!!」

「うん!!」

 萌依にも一言声をかけたかったが、クラスメイトと話しているし、体育館に向かわなくては……。


 冴達のクラスは3年C組と当たった。相手にはバスケ部はいない。これは好機だ。バスケが得意な人がいなければ、こちらが有利だ。なんせ、バスケ部が2人いる。冴も合わされば3人だ。3年とはいえ、容赦はしない。絶対勝ってみせる。……萌依も応援しに来てくれてるかな?とキョロキョロする、冴。まだ、ホイッスルは鳴っていない今の内に萌依の姿を見ておきたい。

 いた!!手は振れないが、目線は合った。通じ合っているような感覚になってじーんとなる冴。やる気が漲ってきた。

「冴、ジャンプボールお願い!」

 バスケ部仲間から声をかけられた。

「あいよ! 任せて!! 必ず勝とうね!! 皆!!」

「「「「「おー」」」」」」

 3年も負けじと、円陣を組んで士気を高めていた。

 ホイッスルが鳴る。

「はい、ではバスケの試合を始める。ジャンプボールをする選手はサークルの中心に来てください」

 冴と同じくらいの身長の3年が対峙する。気迫で負けてはいけない。再度ホイッスルが鳴る。審判の先生が真上にボールを投げる。冴はボールを捉えた。バスケ部のチームメイトにボールを回す。チームメイトはドリブルをしながら、ゴールへ向かう。だが、ディフェンスをしてくる3年の生徒が3人。

「冴!! 決めて!!」

「よし、来た!!」

 冴はチームメイトからボールを受け取ると、そのままシュートを決める。決まれば3Pだ。ボールはゴールの上ぐるぐる回りながら入っていった。先制して、2年A組が点数を取った。

「さすが、冴!!」

「ナイス、パスだったよ!!」

「榊さん、さすが!!」

「ありがとう!」

 バスケ部じゃない生徒が褒めてくれた。だが、お喋りに講じてられない。まだ、試合は終わっていない。油断大敵。3Pを決めたからって、余裕さを出しているとつけこまれ逆転されてしまう。さぁ、相手の攻撃から始まる。だが、冴がさっとボールを奪い、またしても、3Pを決める。唖然とする3年。あまりの俊敏さについてこれてないようだ。

「冴~いいよ~その調子!!」

「冴ちゃん、すごいよ~! 頑張って~!」

 杏と夏実の声援が聞こえた。声の方に向いて、手をさっと上げる。

「榊さん、カッコイイ~!!」

「キャーこっちにも向いて~」

 そう、冴はモテるのだ。女子から。女子からの黄色い歓声に、内心嬉しくもあるが、肝心の萌依の声は聞こえない。さっきの冴みたく、今は敵同士だから自重しているのだろう。1番望む声が聞こえないことに落ち込みそうになりそうだが、プレイに支障が出る。気を引き締めて、目の前を見つめた。プレイでカッコイイところ見せるって決めているんだから、下心に負けて、カッコ悪いところ見せたら、幻滅されてしまう。それに、昼ご飯の時、褒めて貰えるだろう。それを糧に今は、目の前の3年を倒す!!と闘志をメラメラと燃やす冴。突然の気迫に、追い詰められる3年の生徒達。それが功を奏したのか、次々と2年A組に点数を取られていく。

バスケ部だけではなく、バスケ部でない生徒もシュートを決めたり、パスをしたり、ディフェンスをしたりと頑張りを見せた。

 再び、ホイッスルが鳴る。試合終了の合図だ。10分の勝負で、40-10で2年A組の勝利で終わった。

「やったね! みんな!!」

「冴の3Pがほとんどの点数を占めているよ! よっVIP選手!!」

「さすが、冴は部長候補なだけあるね」

「榊さんとバスケできて楽しかった」

「榊さんの活躍、近くで見られてドキドキしました。私も役に立てたかな?」

「この調子で、優勝目指して頑張ろうね!!」

「「「「「おー!!」」」」」」


 校内放送が流れる。

「昼休みの時間です。1時間取ります。1時間後にまた各自の出場場に戻ってください。では、休憩を取ってください」

 冴は、グラウンドにいる萌依を迎えにいく。萌依も冴のところに向かってくれていた。

「お疲れ~、どこで食べる?」

「お疲れ様~いつも通り、屋上で食べよう」

「じゃあ、急いで行こう!」

 2人は駆け足で、屋上へ向かう。今日も誰もいなかった。誰にも邪魔されず、ご飯にありつける。

好きな人と食べられる掛け替えのない時間。行事の時だとより特別感を得られる。

「冴~、3Pシュートの成功率100%だったね~、かっこよかったよ!!」

「いやぁ、照れるなぁ。試合始まる前に視線合ったのが嬉しくて張り切った!」

「視線合ったよね! 惚れ直しちゃった♡」

「え? そんなこと言われたらますます照れちゃうよ……」

見つめ合う2人。その顔はさくらんぼのごとく、2人とも真っ赤だ。この空気を1拍手で変えたのは萌依である。

「お弁当、食べよ? 豪華にしてきたよ! 召し上がれ!!」

「いつも、豪華だけどな。いただきます!」

いつもより、大きいサイズの食べ物で溢れていた。唐揚げ、ハンバーグ、エビフライなど定番のものだけどサイズが大きいから食べ応えがある。他にも白身魚のフライとか、ミニトマト、ブロッコリーなど、いつも通り栄養バランスが考えられて作られている。あっという間に平らげた冴。

「ご馳走さま~」

「え!? もう食べ終わったの!? 大きく作ったのに」

「お腹ペコペコだったし、萌依のお弁当が美味しいから~。今日も美味しかったよ、ご馳走さま」

「あ、でも、冴、お母さんのお弁当もあるでしょ?」

「萌依のお弁当の余韻を残す為、今日は断った。お母さんも、今日はゆっくり寝てられるわって喜んでた。萌依には負担かけたね。自分のお弁当、家族のお弁当。それに、あたしのお弁当……いつも大変なのに今日は特に豪華にしてくれて、ありがとう…」

空になった弁当箱を手渡すと、手と手が触れ合う。萌依はさっさと、バックの中に弁当箱をしまうと、冴の手にもう一度、そっと触れる。冴はドキッとする。

「冴には午後からも活躍して欲しいから、お弁当作り頑張ったよ。私からの応援。声援はクラス違うからできないけど……あと、これ、私からの応援2個目!」

萌依はそっと、冴の右頬に口付ける。冴はカッと顔が急激に熱く赤くなる。右頬を右手で抑えながら「ちょっ萌依!! いきなりなんて反則だよ!」

「恋人にキスするのに、一々許可がいるの? いらないでしょ? おまじないだよ。冴が午後も3Pを決められる、ね。静かにだけど、見てるからね冴のこと」

「この、おまじないはあたしを最強にしてくれたよ! 午後も3P決めまくってやる!! 萌依のクラスも敗退しちゃったけど、残りの試合頑張ってね! あたしも応援してる!」

「……冴は、してくれないの?」

「へ? だから、応援するって」

「……鈍感。私にもおまじないしてよ」

冴は数秒固まって、事態を理解した。この前、して貰ったし、自分もしたけど、まだ慣れない感覚。だけど、萌依が目を瞑って待っている。冴は自身の心臓の高鳴りに臆さないように、おそるおそると萌依に顔を近づけ、左頬に口付ける。離すと、萌依が、照れながらもにやけて、

「私も頑張る! ボール取るの挑戦してみようかな!」

「その調子だ! 頑張れ! あたしも滾ってきたー!! キスのパワーすげー!!」

「ちょっ、冴!! 声大きいよ!! 誰かに聞かれたらどうするの!?」

「あ、ごめんごめん。今ので、頭少し冷えたわ。熱くだけど冷静に勝負しないとね」

「私は冴みたいに熱くも冷静にもなれないけどね……」

予鈴が鳴る。

「本当、萌依といるとあっという間だね。さて、行きますか」

「うん、行こう」

2人は屋上を後にした。



敗者同士のクラス対決から始まった。2年B組は、

1年D組と当たった。冴は、萌依を見守っていた。萌依は緊張した面持ちをしていたが、深呼吸をして、前を真剣に見つめた。

勝負開始のホイッスルが鳴る。2年B組からの先制攻撃だ。なんと、審判の教師は、萌依に向かってボールを投げ渡す。萌依は、一瞬驚いたが、すぐに態勢を整えて、思い切りボールを近くにいた生徒に向けて投げる。そのボールは回転しながら勢いをつけて、相手の生徒はキャッチしようとするも、手からすり抜けてしまい、アウトになってしまった。

「や、やった……」

「皐さん、やるじゃん!」

「あ、ありがとう」

クラスメイトから褒められ照れる萌依。冴は今の場面を見ててくれただろうか? だけど、今は試合に集中しなくては……。萌依は、クラスメイトとの喜びを噛みしめながら、目の前に集中する。1年D組の内野からの攻撃だ。2年C組の内野は逃げて避ける。ボールは相手の外野に渡る。4人で上手く投げ渡し合い、2年を翻弄してくる。しかし、またしても、萌依がボールを取る。そして、近くにいた1年に当てる。

「皐さん、またやるじゃん! すごいよ!!」

「えへへ、自分でも驚きだよぉ」

冴も興奮してた。萌依、すごいよって声援を送りたい。けど、終わるまで我慢。あぁ、もどかしいと思う冴。



試合は、2年B組が勝利した。萌依の活躍のおかげであった。午前中の消極的さを感じさせないほど、

ボールにかじりついていた。冴はそんな萌依を称える為、急いで萌依の元に駆けつけた。クラスメイトが萌依を囲んでいるにもかかわらず

「萌依、すごい活躍だったね! 見てて興奮しちゃった!」

「冴! 見ててくれてありがとう! おまじないのおかげだね♡」

「おまじない? 皐さん、榊さんから何か貰ったの?」

「内緒!」

「さて、出番だな。萌依に声かけられたし、行ってくる!」

「冴、私からのおまじないを忘れないでよ?」

「忘れてないよ。あんな強力なおまじない貰ったんだから。必ず勝ってやる! どんなチームだろうとかかってこい!! という感じだよ。じゃ!!」

 冴は萌依に手を一振りして、体育館へ走って向かう。



冴が当たったのは、3年A組だった。バスケ部の部長と副部長がいるチームだ。あとは、一般生徒だ。だが、勝利したチームということは、体力がある運動部所属の生徒だろうか。だが、こちらは、バスケ部以外の生徒も運動部だ。だからこそ、バスケ部についてこれる体力がある。負ける訳にはいかない。萌依から、おまじないを貰ったのだから。

「冴、私達に勝てるかな? 部長候補としているけど、現部長である私と副部長の、さらに、運動部所属の3人の連携に敵うかな?」

冴が予感していた通り、部長と副部長以外の3人は運動部であった。これは、接戦になるか……?

「こっちだって、バスケ部が3人いますし、あとの2人も運動部で連携は取れます。遅れを取るなんて言わせません。勝つのは、あたしたちです! それに、あたしにはおまじないがあるんで!」

「おまじない? 何だかわからないけど、実力で圧倒的な差を見せつけてあげる!!」

 試合開始のホイッスルが鳴る。ジャンプボールの為、サークルの中心に生徒が対峙する。冴と部長である。審判の教師がボールを真上に投げる。身長で有利なのと、筋力の差でジャンプ力のある冴がボールをキャッチして、同じバスケ部にパスを回す。

「やるね、冴! だけど、奪うよ!!」

 部長と副部長がディフェンスをしてくる。そして、部長が、ボールを奪った。そして、あっという間に、ダンクシュートを決められる。部長も169cmと冴と身長が1cm違いであり、ジャンプ力も負けないからダンクシュートを決めることができる。2点を先取されてしまった。

「ごめん、冴!!」

「ドンマイ! まだ、終わってないよ! 部長と副部長が相手だからって、気負うな!! 他の皆も勝ちに行くぞ!!」

 冴は、ホイッスルが鳴る前にキョロキョロする。萌依を探しているのだ。見つけた。萌依と目が合うと、萌依が口パクで

が・ん・ば・れと言っているような口の動きを見せてくれた。冴は闘志を燃やした。そして、おまじないのことも思い出し、絶対勝つという気迫を出す。部長と副部長は、冴の雰囲気が変わったと一瞬たじろぐが、ホイッスルが鳴り試合が再開される。

 2年からの攻撃である。冴がドリブルをして、一気に駆け巡っていく。部長も副部長も追いかけるが、いつもの冴より俊敏に動くため追いつくことができない。まるで別人になってしまったかのように、超人となった冴は3Pシュートを決める。啞然とする、部長と副部長。他の3年も戦慄を覚えた。チームメイトからは、拍手喝采。

「冴、さっすがー!!」

「でも、榊さん、何か人変わってしまってない?」

「冴、バスケのことになると夢中になるからなー! 気にしない気にしない」

「油断するな! まだ、1点差!! どんどん差をつけていくぞ!!」

「……やっぱり、榊さん、人変わってない?」

「……かもしれない。あそこまで、本気な冴、初めてみたかも」

「何が冴をあそこまで奮い立たせているんだ?」

 チームメイトは頭にはてなを浮かべながら、だけど、鼓舞されたからには負けられないと思い、次に備える。

「やるねぇ、冴。3P決めてくるとは……これ以上は取らせないよ!」

 


 試合終了のホイッスルが鳴る。20-18で2年A組の勝利で終わった。

「いや~まさか、負けるとは……部長は冴に決めた!! この私達を負かしたんだもん!!」

「部活で皆から承認されてからじゃないと決められませんよ……だけど、先輩方と勝負できて楽しかったです!」

 部長と冴は固い握手を交わした。冴は、萌依の方を見た。萌依はもうどこかへ行ってしまったようだ。思えば、もう全試合は、終わったのだから、閉会式か……バスケは、2年A組の勝利に終わったけど、他の競技はどうなったのだろう? 応援には行ってたけど、萌依のことを考えていて上の空だったからよく覚えていないのだ。

「冴、頑張ったね! 私の口パク応援わかった?」

「うわぁ! 萌依!? 来てくれたの? うん、わかったよ! ありがとう! それとおまじないのおかげで頑張れた!」

「A組、バスケ優勝じゃん!! おめでとう~」

「チームメイトと萌依の応援のおかげ!! ありがとう!! これで総合優勝も取れたらいいけどな。他の競技どうだったんだろう?」

「自分のクラス、応援に行かなかったの?」

「いや、行ってはいたんだけど、考え事してたからよく覚えてないんだよね……」

「何、私のことでも考えてた? なんて」

「え!? そ、そんなことないよ……!!」

「あら~もしかして、図星? ふふっ。嬉しいかも。じゃあ、閉会式だし、もう行くね。結果発表でわかるよ。また、あとでね」

「う、うん。また、あとで」

 何で、萌依はわかったんだろう? 顔に出てたかな? エスパー? 見透かされたみたいでもやもやする冴。だが、閉会式が始まるから、渋々、クラスの列に並んだ。閉会式も体育館内で行われた。

「ただいまより、閉会式を始めます」

 冴は疲れがどっと寄せて、欠伸が出そうになったが、ぐっと堪えた。教師が見張っているからだ。

「それでは、結果発表に移ります。まず、ドッチボール。優勝は、2年A組!」

 拍手喝采が起こる。冴は内心驚いてた。杏と夏実を応援してたはずなのに、覚えていないなんてどれだけ上の空のだっただろう。出席番号順で近くにいた、夏実がこっそり冴に話しかけてくる。

「冴ちゃん、私達の活躍見ててくれたもんね。やったよ、私達!! 冴ちゃん達も勝ったもんね!! 総合優勝、私達かもね!!」

「う、うん。そうだね……」

「あれ、嬉しくないの?」

「いや、違う。ちょっと張り切り過ぎて疲れちゃって」

 本当は考え事してたから上の空だったなんて、口が裂けても言えないと罪悪感が込みあがっていた。

「冴ちゃん、人が変わったかのように張り切ってたもんね~、普段の部活の時もあんな感じなの?」

「え? どうだろ? 自分じゃ、わからない。けど、今日は球技大会だし、優勝賞品もかかってたから張り切ったのかも」

 本当は萌依の応援パワーが炸裂して、自分でも驚くほどの力が出たのだが、これも口が裂けても言えない。頬にキスされて、浮かれて昇華できてたのが奇跡なくらいだ。

「そっか~。そうだ、優勝賞品かかってたの忘れてた。バスケも私達だけど、バレーボールはどうだったんだろう? 試合被ってたからわからないや、冴ちゃん、見てた?」

「あたしも疲れてたから、見てないや」

「そっかーじゃあ、結果発表楽しみだね」

「次は、バスケットボール。優勝は、2年A組!!」

 拍手喝采が起こる。

「やっぱり、私達だったね! おめでとう! 冴ちゃん!!」

「ありがとう!! 頑張った甲斐があるよ」

「いよいよ、バレーボールだね。ドキドキ」

「もう総合優勝で私達の勝ちでしょ」

「そうだけどさーどうせなら制覇したいじゃん!!」

「まぁ、そうだね」

「最後にバレーボール。優勝は、3年B組!!」

 拍手喝采が起こる。

「バレーボールは3年か~残念だったね……」

「そうだね。だけど、総合優勝は私達でしょ」

「では、総合優勝の発表です。2年A組!! 学級委員長は檀上に上がってください」

 2年A組の学級委員長は緊張しながらも、確かな足取りで檀上へ向かい上がっていく。そして、賞状と優勝賞品が入っているであろう祝儀袋が校長から渡され受け取った。拍手喝采が起こる。委員長は檀上から下りてくる。2年A組は皆でわーっと歓声を上げて喜んだ。

「はい、静かに。それでは、閉会式を終わります。各自、静かに教室に戻るように」



 冴達は教室に戻ってきた。委員長が立ち上がり、

「皆、よく頑張った!! 優勝商品を勝ち取ったぞー!!」

わーっと体育館でも起こした歓声を上げる。そこへ担任教師が入ってくる。

「おぉ、あまり騒がしくするなよ。優勝して喜んでいることは伝わるが。他のクラスに聞こえたら騒音騒ぎになってしまうからな。では、委員長。さっき閉会式で校長から渡された祝儀袋を先生に渡してくれ。今から皆に配るから。賞状は、委員長が教室の良さげな場所に飾っておいてくれ」

「はい!」

委員長は、祝儀袋を教壇にいる担任のところへ持って行く。担任は受け取ると、祝儀袋を丁寧に開け、中も1枚ずつ、祝儀袋で包まれていた。

「では、配っていくぞ~。前の席から後へ渡していってくれ~。どれも中身は一緒だから選んでも意味ないからな」

 冴はドキドキしながら、前の席の生徒から受け取る。自分の分を取り、後ろへ回す。

「よし、全員に行き渡ったかな? 開封していいぞ! 優勝おめでとう!! 学校からのご褒美だ!!」

 A組生徒は全員一斉に優勝賞品を開封した。生徒達は、がっかり生徒が大半だった。その中身は図書カード500円分であった。

「どうだ? 学校の予算ではこれが精一杯だ。これで、参考書でも、好きな本でも買う足しにしてくれ!!」

 冴は、本あまり読まないし、萌依にあげようかなと考えた。だが、筋トレ本は欲しいなとも考え、やはり自分に使うかと決めた。

だけど、参考書とか買って頭良くなって、萌依と同じ進路先に行けたらいいなという考えも浮かんだ。何か勉強に関する本を買うかと決めた。脳も鍛えよう。

「じゃあ、優勝賞品も受け取ったことだし、改めて、優勝おめでとう! さて、来月は期末テストだ。浮かれ気分は今日で終わりにして、勉強頑張れよ~。制服に着替えて下校するように。では、月曜日は振替休日だから、火曜日だぞ~間違えるなよ。またな~」



 制服に着替え、校門で萌依が先に待っていた。

「お疲れ様~優勝おめでとう!! 冴~!! 何回も言うけど、活躍すごかったよ!!」

「お疲れ~ありがとう!! 萌依のおかげだよ。さぁ、帰ろう。もうヘトヘトだよ……」

「あんなに本気で取り組んでたもんね!! でも、私も疲れた~文化部には体育系の行事は疲れるよ~」

 しばらく、無言で歩いていて、ふと思い出したように萌依が口を開いた。

「そういえば、冴。優勝商品って何だったの?」

「あぁ、図書カード500円分だったよ」

「えぇ、図書カードなんだ~いいな~。何に使うの? やっぱり筋トレ本?」

「いや、参考書とかに使おうかなって。萌依と同じ進路先に行ければと思って……頭も鍛えようと!!」

「あはは! そうだね、一緒の進路先に行ければ、楽しい大学生活が待ってそう」

「萌依、進路、大学なんだね。じゃあ、大学目指さなきゃ!! 頑張るぞ!! 同じ偏差値にならなきゃ!! また勉強教えて~。来月、期末テストじゃん?」

「いいよ。また、勉強会しようか。また、冴の家にお邪魔してもいい?」

「もちろん!! あたしが教えてもらうんだし!! お菓子いくらでも食べて!! それくらいしかお返しできない!!」

「あはは……体重増えちゃうからお菓子は程々に貰うけど、勉強頑張ろうね! 勉強習慣は社会人になっても必須な習慣だし!」

「えぇ~。学生で勉強終わりじゃないの~?」

「違うよ~生涯勉強だよ~。学生の内に社会人に求められるスキル身につけてるなら別だけど……冴なら、プロバスケ選手になれるかも!!」

「そうか!! バスケを極めれば、勉強しなくていいな!! バスケ頑張ろう!! あたしは脳筋だ! だけど、萌依と同じ進路行きたいから、勉強も頑張る!!」

「勉強して損することはないよ! 一緒に頑張ろうね!! じゃあ、ちょうど分かれ道だね。また、火曜日ね、冴!」

「うん、またね! 萌依!」

 また、萌依とテスト勉強ができる! しかも、今度は図書館を利用しないで、最初から私の家で……。理性保てるかな? 今日あんなに誘惑されて、自分の部屋の中に招き入れて、何もせずにいられるだろうか?

 でも、期末テストで良い点数を取ればご褒美に唇にキスを貰える。もう、これは確約だ。これを糧に、冴は家に帰ってから、自主勉強を再開した。萌依のおかげでついた勉強習慣のおかげで勉強することが苦にならなくなった。これならいける!! という自信で溢れている冴であった。


[chapter:期末テスト]

7月に入り、球技大会が終わると期末テストの時期が来た。中間テストと期末テストとの点数で総合されて、1学期の成績が決まる。中間テストは、全部80点以上取ることができた。期末テストは、学習範囲が広くなって中間テストより難易度が上がる。成績が維持か向上させることができるだろうか? いや、しなきゃダメだ。萌依と同じ進路に行くには、偏差値を上げなければならない。萌依と同じくらいの成績を取らないといけない。萌依はまた、90点台を取ってくるだろう。あたしも目指すんだと意気込む冴。

「おはよう、冴~」

「うわぁ! なんだ、萌依か。おはよう」

「考え事? 上の空になっていると危ない人に狙われるよ?」

「あたしの筋力なら、負けないよ」

「いや、やっぱり男性には勝てないよ。危ないから、外で考え事する癖はやめた方がいいと思うな」

「わかった。気をつける。じゃあ、学校行こうか」

 自転車を押し歩きながら、また萌依のことを考えそうになった。隣にいるのに。先程、外で考え事する癖やめた方がいいと言われたばかりなのに。部屋に招いたら、萌依とキスしたいことばかり考えてしまいそう。あわよくば、それ以上にも進みたい。

 だけど、せっかく、萌依から冴の部屋で勉強しようという提案をしてくれたから無下にしたくない。それに、萌依がキス以上を望んでいるかをわからない。本当、初めての恋人だから、ステップアップの仕方がわからない。保健体育では、恋人との付き合い方なんて教えてくれないし。

「……え~、冴~。また、考え事してたでしょ? 私の話聞いてた?」

「はっ!! う、うん。また、してました」

「はぁ、危ないからやめてって言ったでしょ? 7月に入ったから、テストまでちょうど2週間だねって話だよ」

「う、うん。そうだね。萌依との勉強会が楽しみだなぁと思ってさ」

「本当はご褒美のこと、考えてたんじゃないの?」

 また、見透かされた。冴の顔は赤くなり、熱くなる。

「そ、そんなことないよ……」

「冴~顔赤いよ? 図星だったんじゃない? 私も冴が良い点数取れること楽しみにしているからちゃんと、ご褒美受け取ってよね」

「うわ、バレてる……はい、ご褒美にもう浮かれておりました。しっかり勉強して点数取りたいと思います……よろしく、萌依先生」

「任せて!! 私も冴に点数追い抜かされないよう頑張らなきゃ!!」

 なんて話している内に学校に着く。上履きに履き替え、2階へ上がっていく。

「じゃあ、また昼休みね」

「うん、またあとで」

 冴は教室へ入ると、杏と夏実が座っていてテスト勉強していた。

「おはよう、杏、夏実」

「ん? 冴か! おはよう!」

「おはよう、冴ちゃん」

「2人共、早いね。テスト勉強してたの?」

「そうそう、中間テストで平均点が高かったからって期末テストでは難易度が高くなるって噂を聞いたから、テスト対策してたところ~」

「そうそう、冴ちゃん、今回難しいみたいだよ?」

「え、マジか!? ご褒美がかかっているのに!!」

「ご褒美?」

「え、誰から? 例の恋人からとか……?」

「う、うん、そうなんだ……。ま、何くれるかは内緒って言われたけど」

 嘘だ。もう知っている。だけど、教室内でキスの話をするなんて、さっきみたいに顔が熱くなってしまう。

「え~気になって、勉強どころじゃなくなっちゃうんじゃない?」

「私も妄想に浸っちゃいそう……」

「あはは、実は、今朝も指摘されて……だけど、点数下がったらご褒美お預けだから、難易度が上がろうと頑張る!! あたしも一緒に勉強していい?」

「もちろん、今は、古典の勉強していたよ」

「古典面白いよね~」

「あたしは本、あまり読まないから国語の時間は眠くなるなぁ」

 と、わいわいしながら予鈴が鳴るまで、テスト勉強をしている3人。クラスメイトもぞろぞろと集まりだし賑やかになっていく。そして、予鈴が鳴る。

「ん~なんだか、時間があっという間だったね」

「それだけ集中していたってことだよ」

「そろそろ本鈴鳴るし、やめようか。また、10分休み利用して勉強しよ」

 本鈴が鳴り、担任教諭が入ってくる。委員長が起立、気をつけ、礼と挨拶して、着席させる。

「おはよう、皆。7月に入ったな。期末テスト2週間前になった。テスト範囲が各教科配られる。だが、テスト範囲に縛られることなく、まんべんなく勉強するように。中間テストが平均点高かったから、期末テストの難易度が高くなる。これも、進学の共通テストの練習だと思って真剣に取り組むように」

 朝からうんざりする話をする担任にため息をつきそうになる冴。だが、我慢。担任がクラス中を見渡しているから。欠伸とかもすぐ発見されて注意されるから。目が2つ以上あるんじゃないかという動体視力だ。予鈴が鳴る。

「じゃあ、ホームルーム終わりだ。1時限目の準備しとけよー!!」

 担当教諭は教室を出ていく。杏と夏実が、冴の席の方に振り返り、

「さぁ、テスト勉強だー!!」

「頑張ろう、冴ちゃん、杏ちゃん!!」

「うへぇ、1時限目、古典じゃん。だから、さっき、古典やってたの?」

「まぁ、予習も込めてね」

「寝ちゃわないようにね、冴ちゃん」

「この時期に寝たら、成績に響くぞ、冴」

「授業態度も成績に関係あるからなぁ。起きてないと!」

 冴は頬をパンっと叩く。唐突の動作に驚く、杏と夏実。

「もう、眠いのか~?冴?」

「違うよ、気合入れたんだよね? ね、冴ちゃん?」

「そう、夏実、正解~」

 本鈴が鳴る。

「あぁ~休み時間が、冴の気合入れタイムで終わった~」

「まぁまぁ、朝、予習もしたから大丈夫だよ~」

「なんか、ごめん……」

 古典の教諭が教室に入ってくる。冴は眠気と戦いながら、授業を受けた。


 そして、昼休み。

「冴~昼休みも勉強しながら弁当食べよ~」

「ダメだよ、杏ちゃん。昼休みは冴ちゃん、恋人さんと過ごすんだから」

「うちったらうっかりしてた。恋人さんによろしく~」

「行ってらっしゃい、冴ちゃん。また、後でね」

「ありがとう!行ってくる!!」


 屋上へ行くと、誰もいなかった。今日は先に冴が着いたようだ。思えば、いつも先に萌依が待っててくれてる気がする。いないと不安になる。萌依に何かあったのではないか? まさか、早退したとか……でも、そうすれば、スマホにLINEでメッセージを残してくれるはずだ。来るのを大人しく待っていよう。普段、萌依もこんな不安を抱きながらあたしのことを待っていてくれてるのだろうかと考える冴。そこへ、

「はぁはぁ、冴まだ来てないかな……あ、いた! 今日は冴が先だったね」

「萌依……」

 冴は不安を解消すべく、萌依の元へ歩いていき抱きしめた。

「萌依、走ってきてくれたんだね、いつも先に待っていてくれてありがとう。あたし、1人の時、不安になって……萌依に何かあったんじゃないかと思って……」

「いつも、授業が終わったら、ダッシュで来てるからね。不安だったのか、よしよし。私も1人で待ってる時は不安になるよ。一緒だね」

 そう言うと、萌依が自分より10㎝も高い冴に背伸びして、頭をよしよしと手を伸ばして撫でる。冴は、目を瞑り、その感触に身を委ねる。しばらくそうしていると、冴から

「名残惜しいけど、お弁当食べようか。勉強する時間もなくなるし」

「そうだね。冴の意外な一面を見られて私は嬉しいよ」

 2人は、いつもよりペースを速めてお弁当を完食して、テスト勉強に励んだ。冴の苦手な数学の勉強をした。昼休み明けの授業の単位でもある数学の予習も萌依は見てくれた。おかげで、指名されてもびくびくせずに済んだ。

 予鈴が鳴る。

「今日は抱きしめている時間もあったからか、あっという間だったね」

「言うなよ、恥ずかしい。だけど、萌依、温かった。夏だけど、まだくっついていたいくらいだった。勉強も見てくれてありがとう。これで、指名されてもばっちり。あ、今日、日直だから指されやすいかも」

「数学の先生、出席番号か日直を指しやすいもんね……頑張って!」

「萌依も……まぁ、あたしが言わなくても優等生様は頑張るか!」

「いや、そこはちゃんと言ってよ」

「わかった。萌依も頑張れ!」

「うん! じゃあ、急いで教室戻ろう」

「そうだ、予鈴鳴ったんだった!」

 2人は急いで、屋上を出て、2階で別れた。冴が教室に入ると

「冴~お帰り~。ギリギリだったね~。何、恋人さんとイチャイチャでもしてた?」

「わ、私も気になっちゃうかも……」

「い、いや。そんなことないよ! ほら、5限目始まるから用意しないと。次は数学だ。予習は見て貰ったからバッチリ!!」

「恋人さん、勉強得意な人なんだね、いいなぁ」

「羨ましい~」

 本鈴が鳴る。数学の担当教諭が入ってくる。予習したところは役に立った。冴は指名されたが、難なく答えられた。


 そして、放課後。テスト2週間前なので、部活はない。校門で萌依と待ち合わせて、冴の部屋で勉強することになっている。

校門前で、萌依が読書をして待っていた。冴は自転車を小走りで押しながら、萌依の元へ行く。

「萌依、お待たせ!! 急いで帰ろう!! そして勉強しよう!!」

「わぁ! 冴! 読書に集中してたから驚いちゃった。うん、早く帰って少しでも多く勉強時間に当てよう」

「あ、それなら二人乗りすればいいんじゃない? 萌依、後ろ乗んなよ。ヘルメットもあるし」

「え? いいの? 重くない?」

「だから、萌依は重くないって。前、乗せながら腕立て伏せしただろ? 軽かったよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて乗っちゃおう♡」

 冴の自転車の荷物置きに腰を下ろした萌依は、ヘルメットを着用し、冴の腰に腕を回す。それにドキっとする冴。さらには、体を委ねてくる萌依。

「くくくくっつかれると、動揺してしまうな……」

「ちょっと~事故起こさないでよ?」

 昼休みに萌依を抱きしめたことを思い出した。あの時は不安で一杯一杯でドキドキするなど微塵もなかったが、今は余裕が

あるから、意識してしまう。萌依の温もりを。暑いけど、密着してて欲しい。背中に汗が滲んできたけど、萌依に汗臭いって思われていないかな……と考える冴。



 冴の家に着いた。自転車置き場に自転車を置き、玄関を開ける。両親は共働きし、兄弟姉妹もいないから誰もいない。

「お邪魔しまーす」

「あぁ、いいよ。あたししかいないから。自分の家だと思ってくつろいで。先にあたしの部屋に行ってて。飲み物とお菓子持って行く」

 萌依は紅茶が好きだから、ストレートティーを持って行くか。ペットボトルの出来合いのだけど。お菓子は、チョコ菓子、ポテトチップス、グミがあった。全部持っていくことにした。

「お待たせー、萌依、紅茶好きでしょ? ストレートティーがあったから持ってきた。お菓子はチョコとポテチとグミだけど……食べて!! 好きなだけ食べてテストまで毎日、勉強教えてください!!」

「紅茶はノンカロリーだから、たくさんおかわり貰っちゃうかもしれないけど、お菓子はほどほどにしておくよ……太っちゃうから……私、太りやすいし……」

「萌依は痩せているじゃん。軽すぎだよ。ご飯もっと食べるべきっていつも思ってる」

「標準体重だけど、超えないように節制してるの! 冴は運動してるからカロリー消費するけど、私はほとんど動かないから……」

「まぁ、文化部だからねぇ。さて、そろそろ始めますか。萌依といると楽しくてつい雑談に走ってしまう」

「そうだね、全教科、まんべんなく行くよ!!」

 期末テストは主要教科の国語、数学、理科、社会、英語と副教科である、家庭科、技術・情報、保健体育、美術がある。

今日は、主要教科の勉強をすることにした。時間は残酷に早く過ぎ、萌依との別れの時間を告げる。

「駅まで送るよ?」

「大丈夫! まだ夕方だから明るいし! 冴も夕飯やお風呂、自主勉強があるでしょ? また明日ね~」

「そっか……もっと一緒にいたかったけど、ご褒美かかってるから、また明日!!」

「ふふっ♡ そんなに、ご褒美楽しみなんだ……私もだよ……だから、今回のテスト難しいらしいけど、頑張ろうね」

「うん、頑張る!!」

 萌依が見えなくなるまで、手を振り続けた冴。そして、家に戻り、お風呂に入り、簡単な夕飯の支度をし、先に1人で食べる。共働きの両親は残業続きで帰りがいつも遅いのだ。そして、歯磨きをして、部屋へ戻り、机の前の椅子に座る。勉強をしよう。

萌依としたところの復習をしている内に寝る時間となった。睡眠も大事だから、大事を取って、ベッドに入った。


 そんな、ルーティンを繰り返し、刹那のごとく訪れた期末テストの日。日程は、4日間かけて行われ、制限時間は50分である。

1日目は国語と理科、2日目は社会、英語、数学、3日目は、家庭科、保健体育、4日目は技術・情報、美術となっている。

 冴はいつもの時間に家を出て、自転車で走る。待ち合わせ場所に萌依がノートを見ながら待っている。

「おはよう! 萌依! テスト頑張ろうね!」

「ん? おはよう! 冴! 頑張ろうね!」

 萌依はノートをリュックにしまい、背負い直し、自転車から降りて押している冴と共に歩き出す。

「私との勉強はしっかりやってたけど、自主勉強もしっかりやってた?」

「バッチリだよ!! 勉強もしたし、休憩中に筋トレも抜かりないし、あたしは今回もやり抜く!!」

「おぉ、それは心強い!! 私より点数取れそう?」

「いやぁ……それは……萌依には敵わないと思うよ……」

「最強を目指すんじゃないんですかー?」

「勉強での最強の道のりはまだまださ……」

 なんて、わいわい雑談している内に学校へ着く。上履きに履き替え、2階へ上がっていく。

「じゃあ、検討を祈る」

「そっちこそ。ご褒美のこと考えて上の空にならないようにね♡ なんてね」

 手をグーにして、ぶつけ合いお互いの検討を祈って、それぞれの教室へ入っていく。冴が教室へ入ると、杏と夏実が最後の追い込みをかけていた。

「おはよう、杏、夏実」

「「おはよう、冴(ちゃん)」」

 同時に返事をするが、その目線は自分達のノートを見たままだ。真剣に復習に取り組んでいる。冴もリュックからノートを取り出し、復習する。今日は国語と理科。理系が苦手だから、理科を重点的に勉強する。わからないところは、全部、萌依に聞いてあるから大丈夫。苦手部分には付箋も貼って、何回も見直せるようにしてある。3人は挨拶をしてからは黙ったまま、自分の苦手分野の復習に勤しんでいた。

 予鈴が鳴り、やっと、3人の目線が合う。

「いやぁ、目線合わせちゃうとつい雑談しちゃいたくなりそうだからノート見てたよ」

「私も! 頑張ろうね!! 2人共!!」

「おー!!」

 本鈴が鳴り、担任教諭が入ってくる。

「皆、おはよう。全員揃っているな。よしよし。今日から4日間期末テスト期間だ! 中間テストが良かった者も悪かった者も気を引き締めて取り組むように。総合成績が、内申点に関わってくるからな。では、復習したいだろうから、先生からは以上だ。カンニングなど卑怯な行為はするなよ~」

 と言い、かつかつと教室を出て行った。そして、クラスメイト達は再び、ノートを見たり、教科書を見たり、参考書を見たりなど自分なりに復習する生徒で溢れる。冴達も再び、ノートと向き合う。

 本鈴が鳴る。監視教諭が入ってきて、テスト用紙を配っていく。冴に緊張が走る。他の生徒達からもピリピリした感覚が伝わってくる。今回のテストの難易度は高いらしいとのこと。どれくらい点数が取れるだろうか?だが、平均点以上の成績を修めねば……!! 萌依と同じ進路に行く為に……!!

「では、全員に用紙行き渡りましたね。開始まで、あと、10、9、8……開始!!」

 裏返っている用紙をひっくり返し、名前をまず記入する。深呼吸して、問題文を読んで回答を書いていく。萌依とやったところが回想されて、回答用紙がスラスラと記入されていく。気付いたら、1日目が終わっていた。

 怒涛の4日目まで、回答用紙を埋めていった。今回は、空欄のところがなかった。あとは、点数が良いことを祈るだけ……各教科のテストの用紙が返ってきた。なんと、全ての教科が90点以上だった。平均点を越えるどころか、最高点を叩きだせたのだ。

萌依とのご褒美は貰った……やったと思わずガッツポーズを上げそうになる冴。顔もにやけてしまいそうだ。学年順位も大分上がった。これは、自己最高記録だ。これを維持するか、さらに高みを目指していかないと萌依と同じ進路に行けない。頑張らねば。


 そして、帰りのホームルームの時間。担当教諭の話。

「皆、お疲れ~。点数良かった者も悪かった者も、テストが終わったからと言って、普段の授業の予習、復習。そして共通テストに向けての勉強をするように。だが、今回、難しかったにもかかわらず、点数が上がった者が多かった。先生は嬉しいぞ! この調子で頑張ってくれ! もう少ししたら夏休みだ。勉強と部活、遊びなど青春を謳歌してくれ。では、疲れているだろうから、話はここまで。皆、さようなら!」


 早く、萌依のところに向かわなくちゃ!! この喜びを共有したい!! そして、今日打ち上げしよう!! 部活はなく早帰りだから。校門のところには、小説を書いている萌依の姿があった。

「萌依!! お疲れ様~!!」

「お疲れ様、冴。その様子だと点数良かったのかな? 帰りながら聞かせて?」

「いや、詳しい点数はうちに来てから話すよ! 今日、遊びに来れる?」

「え、私は冴が良ければお邪魔するけど……」

「じゃあ、お疲れ様会をしよう!! お菓子と紅茶は買ってあるから!!」

「えー、私を太らせる気? でも今日は羽目を外して食べちゃおうかな!!」

 2人は足取り速く冴の家に向かった。

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