カラオケ

 金曜日になった。明日はいよいよ萌依とお試し恋人になってからのお出かけ。デートと言っても良いかもしれない。自転車でウキウキしながら登校をしている冴。

学校の駐輪場に着くと、自転車を止め鍵をかける。

「おはよう!」

「おおわ!! びっくりしたー! 何でここに萌依が!?」

「えへへ、冴を驚かせようと思って早く来て待ってたの」

「全然気付かなかった、どこに隠れてたの?」

「内緒」

「ええー。あぁ、そういえば言ってなかった。おはよう」

「教室まで一緒に行こう」

「うん」

朝から萌依に会えて嬉しい冴。2階まで一緒にいられる。

「じゃ、また昼休み」

「え、10分休みは来てくれないの?」

うるうるとした目になる冴。それを咎めるように、「クラスの子とも仲良くしなくちゃ。ハブられちゃうよ?」と萌依。

「そうだね、友達は大事だね。じゃあ、また昼休みに……」

「冴」

ちょいちょいと手招きして耳元で囁く。

「会えない時間が愛を育てるんだよ? お試しとはいえ、あたし達付き合ってるんだし、愛の糸で結ばれているんだよ?」

「愛……わかった。ありがとう、萌依」

冴はA組に入って行った。萌依も冴がA組に入ったのを見届けてから自分のクラスに入って行った。

「「おはよう、榊さん」」

「おはよう、斎藤さん、内田さん。2人共いつも早いね」

「電車通学だからね。早めに来てるんだ。あと、私達同じ小中学校だしね」

と、斎藤さん。

「ということは住んでいる地域も近くってことかもう幼馴染だね」

「まぁ、腐れ縁だよ~」

と、内田さん。

 なるほど、2人は1年前どころかそれ以前から仲が良かったんだ。だから、入る余地がないと感じていたんだ……幼馴染だよ。どうやって仲良くなっていこう。私、今までどうやって友達作ってたっけ?とりあえず、席近い子とか、出席番号近い子とかだったな。深い仲になった子いなかったな……。恋愛もそれで興味持てなかったんだっけ……。

「そういえば、今日は1限目体育だね。はぁ、怠いなぁ」

「体育!? 筋肉が鍛えられる……」

「榊さん……? キャラ急に変わった?」

 友情のことで憂鬱になっていた冴であったが、体育の言葉で心が晴れた。

「早く着替えないと!」

「あ、そうだね。榊さん来るの待ってたんだから、一緒に行こう」

「うん!!」

 2人は体操着に着替えずに待っていてくれたのだ。いつか、この2人も下の名前で呼べる程、仲が深まれば良いなぁと思う冴であった。


 そして、始まる体育の授業。体力測定である。あらゆる競技で個人の能力を計りにくる地獄のような寄せ集めである。

 まずは、50m走。

「はい、2人以上のペア作って~。一斉に測定するから」

と、担任の先生が言う。斎藤さんと内田さんと組もう……

「冴、私と組もう」

「萌依!? あ、そうかA組とB組混合だったね。すっかり忘れていたよ」

 やったよ、萌依と2人……と思いきや。

「榊さん、ペアいるみたいだね」

「せっかくだから、4人で走らない? 私は斎藤、よろしくね」

「私は内田だよ~よろしく~」

「あたしは皐萌依です、よろしく!」

あぁ~、萌依と2人きりの50m走りが~。

「って、萌依、組んでくれるのは嬉しいけど、萌依はクラスの友達と走らなくていいの?」

「あぁ、いいんだよ。私が冴と走りたかったから。この後のペアも一緒にしよ?」

「うん!!」

 50m走は2人きりにはなれなかったが、その後は……

「ふふっ」

思わず、にやけてしまう冴。

「榊!! 笑ってないで早く位置につけ、後が控えているんだから!!」

「はい、すみません!!」

 自分の世界に入り込んでしまう癖があるようだ、気をつけねばな……

「位置について……よーいドン!!」

 冴はバスケ部で鍛えられた脚でどんどん友人達を追い抜いていく。

そして、1番でゴールする。タイムは7.2秒。その後に、斎藤、内田、最後に萌依が続く。

「やっぱ、榊さんはバスケ部で鍛えているから早いね~」

「私も運動部なのになぁ~バスケ部ってどうしてこんな脚早い人ばかりなんだろ」

「あたしは文化部だし、勝てなくて当然だよね……はぁはぁ、疲れた」

 萌依が息が上がっている姿、なんかエロい。そんな目で見てしまう冴はすっかりまた自分だけの世界に入り込んでいた。

「冴? 次は立ち幅跳びだよ」

「はっ! ううん、何でもないよ。立ち幅跳び行こうか」

「うん、さっさと終わらせてしまおー!」

 砂場へ行くと、砂ならしで砂を綺麗にして、まず冴から跳ぶ。

1m90㎝だった。

「冴、すごーい! よし、あたしも」

 砂ならしで砂を綺麗にして、萌依も跳ぶ。1m60㎝だった。

「身長と同じくらい跳べた~!! 冴は凄いね、身長以上跳べてさ」

「バスケはジャンプもするから跳躍力が鍛えられるんだよ」

「跳躍力より、身長もっと欲しかったな。せめて170㎝あったらなー」

「いいじゃん、今の身長、可愛いよ」

「冴……冴は身長高くてカッコイイよ」

「へへ、ありがとう。じゃ、次行こうか」


チャイムが鳴った。

「はーい、残りはまた次回やるからね~お疲れ様~」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 体育が終わり、急いで教室に戻る。制服に着替え2限目に備える。2限目は現代文だ。体育で疲れたところに読書は効率が悪いと思うが、強制的に組まれているから仕方ない。また、寝てしまおうかな。国語の勉強なんてしたことないし。だが、現代文は寝るわけにはいかない。というのは、美人新人女性講師の[[rb:小鳥遊 > たかなし]]先生が授業をしてくれるからである。身長160㎝、髪は肩より下のロングな目の保養である小鳥遊先生を見届けなければ!! それに、現代文をしっかり学んでいれば、萌依の小説もより面白く感じられる教養が身につくはず!! お願いしますよ小鳥遊先生!!



 あぁ~小鳥遊先生の授業は最高だったんじゃ~。指名された時は思わず、

「ひゃい!!」なんて声がうわずったけど、なんとか音読できた。おかげで目が覚めた~。もう、全部、小鳥遊先生の授業になって欲しいくらいだよ。3、4限目もこの調子で過ごし、いよいよ昼休み。

「榊さん、今日はお弁当どうする?」

と、斎藤さん。

「あー、昼休みはどうしても一緒に過ごしたい人がいるから、これからはそれでよろしく!」

「恋人?」

「ここここ、恋人というか、お試しで付き合っている」

「へぇ、そうなんだ。上手く行ったら教えてね」

「う、うん。じゃ、待たせてるから行くね」


 屋上へ向かうと、萌依が座って待っていた。

「萌依、お待たせ~!!」

「もう、冴遅かったじゃん!!」

「クラスの友達に説明してたら遅くなっちゃった」

「昨日の内に説明しておけば良かったじゃん。私はしたよ」

「通りで早いわけだ。さ、食べよ」

「あ、冴。良かったらなんだけど、お弁当作ってきてから食べてくれない?」

「え、本当!?」

 正直、母親のお弁当だけでは、物足りないと思っていたのだ。運動しているとどうしてもお腹が空いてしまうのだ。

「わぁ、肉に野菜に魚……豪華じゃん」

「冴、部活終わってからお腹空いた~とか言っているから、栄養補給にね。部活の合間とか終わってからでも食べてよ」

「え、今食べちゃダメなの!?」

「え、今食べられるなら食べても良いけど……お母さんのお弁当もあるんでしょ?」

「あるけど、足りないっていつも思ってたから、5時限目終わってから購買に菓子パン買いに行ってたんだよね」

「凄い食欲……それでこの体型維持しているんだから、運動部って本当カロリー消費が半端ないんだな……」

「いやぁ、それほどでも。早く食べよ!! いただきます!!」

「いただきます」

 冴は萌依が作ってくれた弁当から、エビフライを取り出しよく噛んで食べた。

「おいしーい!! 衣がサクサク!!」

「良かった。どんどん召し上がれ」

「うん!!」

 昨日褒めた唐揚げもまた入っており、貪る。肉汁がジューシー。ミニトマトも甘酸っぱい。

「ちなみに、今食べたミニトマトは、うちで作ったミニトマトなんだよ」

「へぇ、家庭菜園しているんだ」

「他にもね、きゅうり、茄子、枝豆、じゃがいも、ほうれん草、とうもろこしも育てているんだよ! 我が家は農家であるから」

「そうなんだ! 凄いね! 将来、農家継ぐの?」

「そうだね、仕事見つからなかったら、継ぐのもありかもね」

「萌依は将来何になりたいの?」

「何だろう? あ、でも昔から看護師さんに憧れがある」

「看護師か、いいじゃん! 素敵な看護師になると思う。萌依優しいし。あたしがバスケで怪我したら治療してね」

「憧れだから、まだ進路決定ではないんだよ~。栄養管理士とかも憧れるし……」

「夢がいっぱいあるね~。でも、あたしもそうなんだよな。自分が選手になるのではなく支える立場になる……例えば理学療法士とかね」

「コーチになるのもありだしね」

「そうそう。はっ! 萌依のお弁当もう食べ終わってしまった!! ゆっくり食べてると思ったのに」

「いや、十分ゆっくり食べてくれたと思うよ。さぁ、お母さんのお弁当も食べちゃいなよ」

「うん、そうだね。お母さん、いただきます。もぐもぐ!!」

 早く食べ終えて、萌依とゆっくり話したい冴。噛むスピードを上げる。

「冴、何か急に早食いになったけど、喉に詰まらせないようにね」

「もぐもぐ、ごっくん。大丈夫、大丈夫……うぇ、ゴホッゴホッ!!」

「ほら、言わんこっちゃない、これ飲みな」

萌依は自分が飲んでいた水のペットボトルを冴に渡す。冴は受け取りごくごく飲む。

「ふー、詰まってたのが取れた。ありがとう。萌依」

冴は水のペットボトルを萌依に返す。

「どういたしまして……あっ」

「? どうしたの?」

「……間接キスだなって思って」

「……今までだってしてたじゃん」

「いや、今までは友達だったから意識しなかっただけで……今は……お試しとはいえ、恋人同士なわけだし……」

「じ、実際にしているわけじゃないんだから、ノーカンだよ。実際にするのは、いつだろうね~」

 冴はのん気に言う。だが、それを聞いた萌依は顔が赤く染める。

「冴、自分が何言っているかわかってる?」

「いやぁ、私だって、照れくさいよ? でも憧れでもあるから、楽しみで」


というところで、予鈴がなった。

「とにかく、お弁当ご馳走様!! これで勉強も部活も乗り切れるよ! 

じゃあ、また、帰りね!!」

「うん……」

 今日は気恥ずかしくて、冴がクラスに戻った後に、萌依がクラスに戻った。


 いつもは、気怠さと眠気が襲う5、6限目も難なくこなし、放課後。部活が始まる。

「部活だー!!」

「冴ちゃん、気合入っているね」

「はい、部長、体が動かせるので!!」

「今日はとことん動かせるよ~。皆、模擬試合やるよ!!」

「「「「「はい!!!!!」」」」」

「はい、いつもみたいに分かれて~、試合、始め!!」


「「「「「お疲れ様でした!!!!!」」」」」

「あーしごかれた」

「今日、冴ちゃん、間食しなかったね。お昼いっぱい食べたの?」

「ええ、友人が美味しい弁当を作ってくれたのでね」

「へぇ、そのお友達と仲が良いんだね」

「1年から仲が良いんです」

「そっか~」

「あ、じゃあ、その友人が校門で待ってるんで、お疲れ様でした!」

「うん、お疲れ様!」


冴は急いで、自転車を押し校門へ行く。だが、萌依の姿はまだなかった。

「今日はあたしの方が早かったか~」

何して待ってようか。オススメされた本でも読んでいるか。ガサゴソと鞄の中を物色し、オススメされた単行本を取り出す。昼休みに別れる直前、「これオススメ!!」って急に渡してきたから何の本だろ?裏のあらすじを読んでみる。

「お待たせ~! あ、本、さっそく読んでくれているの?」

「うん、裏のあらすじ読んでた」

「面白いライトノベルだから読みやすいと思うよ~」

「そっか~。じゃあ、帰ろうか」

 冴は鞄に本をしまい、萌依と共に歩き出す。

「いよいよ、明日、カラオケだね」

「そうだね、冴の歌が聴ける~」

「あたしだって、萌依の歌楽しみだよ」

「そういえば、何時集合? カラオケ店はいつものところでいい?」

「朝8時にいつものカラオケ店に集合!! それでフリータイムで夜まで歌いまくるわよ~!!!!!」

「おわ~マジか。喉潰れそう……」

「持ち歌は増えた? 冴?」

「TwitterやTik Tok で調べたよ。かなり増えた」

「じゃあ、明日は、冴のワンマンショーで」

「いやいや、交代で歌ってくれないと、それこそあたしの喉やられちゃうよ!?」

「冗談だよ。私だって、歌いたいし。下手だけど聴いてね」

「下手じゃないよ、可愛いよ。聴くよ」

「遅刻してくるんじゃないよ?」

「運動部では10分前行動が当たり前だから大丈夫だよ。萌依こそ、遅刻しないでよ?」

「私だって楽しみで30分前にはカラオケ店の前にいるかもしれない!」

「そんなに!?」

「なら、あたしももっと早く来るよ、部活で早起きしているし、カラオケ店は24時間営業だし」

「あー早く明日来い!! 今日は早く寝よ」

「夜中に起きないようにね」

「じゃあ、また明日ね~」

「うん、また明日ね~」

駅につき、萌依は階段を上がっていった。


「~♪」

 冴は、家族にうるさいと言われない音量で歌を歌っていた。萌依が楽しみにしてくれている。クオリティにもっとこだわらなければ。歌で好きな人の気持ちを惹こうとしているところが動物の求愛行動みたいだ。だが、絶賛してくれていた。ならば、その気持ちに報いるのが恋人でしょ。音程を外してしまったところを何度も戻しては同じところ繰り返し歌う。本当、最近の曲は難しい。転調したり、1番と2番でリズムが変わったり、高音域が続いたり等々……。本当、私は何を目指しているんだろう。だけど、これだけは言える。目の前の好きな人の笑顔の為の努力は惜しまない。

萌依の笑顔が見たいんだ。その為に私は今、歌う。明日はもっとこれ以上の実力で臨まねば。萌依は何を歌ってくれるのかな。選曲が恋愛ソングばかりで可愛いんだよね。私は様々なジャンル歌うから十八番はどれ?と聞かれてもどれだ?ってなるけど……。萌依は、失恋したわけでもないのに、やたらと失恋ソングを歌う。けど、雰囲気が合っているんだよね。憂いを帯びたところにドキッとしてしまう。さて、練習もここまでにして私も早寝しますか。お休みなさい。


 ジリリリリリリリリリッ!!!!!

 目覚ましが6時に鳴る。いつもみたく気怠く手探りで止めるのではなく、ぱっちり目が覚めて体を起こし目覚まし時計を止める。今日はいよいよ、萌依とお出かけ、否、デート!!!!!

 お気に入りのシャツに、下はジーパンに着替えという理系男子みたいな恰好はいつものことだ。私はお洒落に疎い、もとい興味が薄い。萌依はどんな恰好で来るかな? 女子力高いから、きっとお洒落な恰好で来るのだろう。着替えたし、朝ごはん食べよ。

「お母さん、今日は萌依とカラオケ行ってくるから、昼飯と夕飯いらないよ」

「あら、そう、わかったわ。楽しんでおいで」

「はーい」

 今日、部活休みで良かったなぁ。顧問の先生がいないからまた筋トレやるかと思いきや、最近詰め込み過ぎてたから英気を養おうってことになって。おかげで、萌依と1日ずっと過ごせる。ゆっくり朝ごはんを食べてもまだ7時。遅刻したくないし、もう行きますか。

「行ってきます!」

「はーい、いってらっしゃーい!」


 現在、7時30分。萌依は本当に30分前に来ていた。

「あ、冴じゃん!! おはよう!!」

「おはよう!! もう揃ったし入っちゃおうか」

「そうだね、やった、30分得した!」


 2人はカラオケ店に入店し、冴が受付の人に声をかけ、呼び出し鈴を押す。

「すみませーん」

「お待たせ致しました。いらっしゃいませ。希望の時間はございますか?」

「フリータイム、2人で」

「かしこまりました。希望の機種はございますか?」

「JOYSOUNDで」

「かしこまりました。では、10番の部屋です。ごゆっくりどうぞ」

マイクとリモコンの入ったかご、それに飲み放題のカップを渡される。

受け取り、2人は10番の部屋へ向かう。

「よし、ジュース取ってこよう」

「抜かりないようにしないとね!」

 冴はオレンジジュース、萌依はメロンソーダを入れると部屋へ戻る。

向かい合って座ると、ジュースを一口。

「じゃあ、冴。さっそく歌ってくださいな。アニソンかJ-POP」

「あいよ」

 リモコンを操作し、曲名で検索し、送信。画面には、リクエスト曲が映り、

BGMが流れ始める。映像はアニメが流れているが音楽は切ないバラード。冴はマイクを持った。

「まずは、これだ~!! 私の歌を聴きやがれ~!!」

「うわ~い!!!!!」

「~♪愛している 愛している 100万本のバラよりも贈りたいもの~♪」

「これ、ドラマの主題歌の奴じゃん! ひゅー!」


「さ、次は萌依の番だよ。何歌うの?」

「冴の歌に聞きほれてしまって決めてなかったよ~。やっぱり上手いわ~。いよっ!! 歌うま名人!! 最初から飛ばしていく~!!」

「だから、大袈裟だって……早く曲決めなよ」

「決まんないから、もう1曲歌って、冴♡」

「え~、交代で歌おうよ~」

「あたしは冴みたく真面目にリスト作ってきてないのよ。スマホの音楽リストから探しておくからもう1曲お願い♡」

「わかった。じゃあ、次はこれ」

「ほほぉ、次はアニソンか」

「~♪燃え上がれ闘魂 呼応して武者震い 解き放て正義~♪」

「熱いぜ!!!!!」


「ふー……連続は疲れるね。さ、そろそろ決まったでしょ?」

「はいよ~! 決まったよ、萌依、歌います!」

「わ~!!」

「~♪どうして私だけを見てくれないの? 2番は嫌なの どうか今すぐ抱きしめて離さないで~♪」

「やっぱ、萌依には失恋ソングが合うわ……失恋していないのに」


「切ない曲って好きなんだよね。キュンとしちゃう」

「普通は恋愛が上手く行っている曲に対してキュンとするならわかるけどなぁ……そういえば、萌依って恋人いたことあるの?」

「ないよ?」

「じゃあ、仮とはいえ、私が最初なの?」

「そうだよ。あたし、恋愛に関心薄かったし」

「何で? 良い人いなかったの?」

「そうだね、ときめきを感じる人がいなかったというか」

「そうなんだ……でも、私の告白に応じてくれたのは何故?」

「だから、前にも言ったけど、冴ならいいかなって思って」

「同性でも良いって思ってくれたんだ」

「あたし、そこに偏見ないし」

「そっか、萌依と友情壊れなくて良かった」

「それどころか、親密度上がってるよ……」

 顔を赤くしてそっぽを向く萌依。可愛い。抱きしめたくなった。冴は立つと、反対の席に行き、萌依の隣に座り抱きしめた。

「ひゃっ!!」

 顔をさらに赤くして固まる萌依。冴はもっとぎゅっと強く抱きしめた。

(萌依、良い匂い。知らなかった。近くにいたのに)

「……萌依……離したくない」

「……冴、あたしも今はこのままが良いかも」

 萌依も冴の方を向き、お互い向き合うように抱きしめ合っていた。


「……惜しいけど、歌、歌おう?」

「うん」

「次はどっちだっけ?」

「冴の番だよ」

「では、この曲を歌おう……~♪振り向いて欲しい 君の瞳は誰を追っている 私は君から目が離せない~♪」

「これは……切ない片思いの題材アニメのOP!!」


「恋愛ソングが最近、自分と重なることが多いんだよね。あたしも恋しているということなのかな?」

「そうだよ。私も失恋したとしたらこんな気持ちになるんだろうなって思いながら歌っている。今は、こんなことになることはないだろうけど」

「萌依とはこれからもよろしくしたいからね。別れないよ」

「ありがとう。失恋するのは歌の中だけでいい」

「では、歌っていただきましょうか。萌依の番ですよ」

「~♪ 私はただの飾りだったの? ただの飾りでも構わないから磨いて綺麗にしてよ そうすればあなたに相応しくなれるから~♪」



「うーん、切ない。どうして、失恋ソングって、2番目でも構わないって言うんだろうね」

「2番目でもいいから選ばれていたいという欲求があるからじゃない?」

「自分が1番大切にされないというのに……」

「無関心よりはマシってことなんじゃない?」

 ジュースを飲みながら失恋ソングの考察をする2人。よく歌う萌依は、失恋ソングで女心が育っていると思う。とにかく悲しませないようにしないと。萌依には笑っていて欲しいから。


 さて、次は何を歌おうか。歌のリストを作ってきているとはいえ、迷いはするのだ。雰囲気の流れみたいなのを察知して、それに見合った曲を選曲して歌う。そうすることでカラオケは盛り上がる。ってか……

「もうお昼ご飯の時間だね、何頼む?」

「もうそんな時間か~時の流れは早いな~たこ焼き食べたいな」

「奇遇だね。私もたこ焼き食べたいと思ってた。味は?」

「どうせなら、色々な種類のたこ焼き頼もうよ。チーズ味とかキムチ味とかさ」

「いいね。じゃあ、このタブレット端末で注文しようか」

「今は電話じゃなくていいもんね。気が楽。電話だと緊張しちゃうし」

「そうだよね。それに端末の方がスタッフさんも何注文したかが端末でわかるしね」

「普通のうま塩味とチーズ味とキムチ味以外はいらない?」

「あと、ポテト食べたい!」

「いいね、じゃあ、たこ焼きのうま塩味とチーズ味、キムチ味、それにポテトね。デザートは?」

「パフェ食べたい」

「私もパフェ食べたいなじゃ、2つ……と。じゃあ、注文完了するよ?」

「うん!」

そして、料理を待つ間雑談することにした2人。

「ねぇ、萌依。さっき急に抱きしめちゃったけど、どうだった……?」

「……ドキドキした。告白は冴えなかったけど、愛情表現は大胆なのね」

「私だって、意識した途端、急にしたくなっちゃって……」

「もう1度してもらいたいくらい……」

「じゃあ、もう1回する?」

「今、料理来るから、全部来たらして欲しいな」


コンコン

「お待たせしました~、たこ焼きのうま塩味、キムチ味、チーズ味になります。デザートのパフェも今、お持ちします~」

「「はい、ありがとうございます」」

 店員が一旦部屋から出て行った。

「ふー、なんか会話聞かれたのではないかと別の意味でドキドキした」

「いや、ちゃんとノックしてから入ってきてくれているし、あたし達そんな大きい声で話してないし」

「だよね、でもなんか浮かれて大きい声になっていないか心配で」

「大丈夫だよ、多分……」

「カラオケ店だから防音なっているか」

「そうだよ」

コンコン

「お待たせしました~、パフェ2つになります~」

「「はい、ありがとうございます」」

「では、ごゆっくりどうぞ」

 店員が部屋から出て行った。

「じゃ、じゃあ、する?」

「や、やっぱり、料理食べてからにしよ。たこ焼き冷めちゃう」

「そうだね」

冴はうま塩味から、萌依はチーズ味からたこ焼きを1つ取り、頬張る。

「美味しい~」

「美味しいね~。これ、有名な店のたこ焼きとコラボしてるもんね」

「だからこそ、このクオリティ」

「お店で食べるのも良いけど、それをあえてカラオケで食べるのも乙なものよね」

 2人はあっという間にたこ焼きを平らげ、パフェを食べ始める。

「大きいパフェだよね~、これで500円ならお得だわ~」

「だよね~」

生クリームをスプーン一杯に取り、口に含む。甘い味が口の中に広がる。チョコソースもかかっているからチョコの味も一緒に広がる。生クリームを食べ終えると、下には、チョコレートソースにコーンフレークとコーヒーゼリーが混じった層が現れる。2人はぺろりと平らげる。



「さて、腹ごなしに歌いますか!!」

「そうだね、冴の番だよ。次は何を歌ってくれるのかな?」

「~♪悲しくて 寂しくて 昨日まであなたは隣にいたのに 今は別の女の隣に~♪」


「冴が失恋ソング歌うなんて珍しい」

「Tik Tokで流行っているらしいよ。何の曲かはわからないけど」

「アニメのキャラソンだよ、これ」

「キャラソンなの、これ!? 信じられない……アニメキャラも失恋するか」

「私、ハマって見ているアニメだもん」

「失恋もの、歌だけじゃなくて物語でも好きなんだ!?」

「そうだよ、失恋もの見てると失恋しているわけじゃないのに感情移入しちゃって……自分はこうなりたくないなという反面教師的な?」

「いや、そこはハッピーもの見て、私もこうなりたーいとなるとこでは?」

「もちろん、ハッピーものも好きなんだけど魅かれるのは、失恋ものなんだよね。切なさ、憂いさ、報われない思い、やるせなさ……でも、自分はなりたくないけどね。あくまで空想上で」

「最初、失恋もの好きだと聞いた時は、失恋したから感情移入してハマっているのかと思ったよ」

「だと思うよね~。でも、私は違う。失恋にもロマンスがある」

「……うーん、よく、わからないけど、失恋ものに興味あるなら、自分の恋愛に興味薄いのは何故だろう?」

「本当は興味あるけど、傷つくのを恐れているとか……」

「……あーそういうことか。だから、失恋もの見て、こうならない為の予防線みたいなのを張っているのかもしれないね」


 その後、2人は、ひたすら歌い続けた。別れ際に、萌依から

「明日からはテスト勉強頑張りなさいよ」と言われ、浮かれ気分が萎えた。だが、ご褒美を思い出し、文武両道で行こうと思った。

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