想いを寄せる人に限ってモテない

シィータソルト

冴えない告白

 あぁ、どうして振り向いて貰えないのだろう……好きな人に限ってさ。精一杯告白しても答えは興味ないので……。また、逆に嬉しいけど複雑な告白も男女問わずよくされる……バスケ部エース故に。それが好きな人ならば喜んでお受けするのだが、あたしは自分が好きになった人と結ばれたいのだ。おかげで中々成就しない。どうやったら、好きな人に振り向いて貰えるのだろう……。

 [[rb:榊冴 > さかき さえ]]は想い人に振り向いて貰えず悶々とした日々を送っている高校2年生になって3日が立った。背が170cm、ウルフカットなボーイッシュ。恋に夢中で学業が疎かになりそうだが、成績はなんとか平均上を維持している。青春短し恋せよ乙女。恋したいけど、想い人はいつも恋愛に関心が薄い人。何故だ。学生は皆、恋しているのではないか。冴が同性愛者であり難易度が高いから見つけられないというわけではない。冴のクラスにも同性同士でも付き合っているカップルはいる。ならば、私にだってできてもいいではないかと思っている。好きです!と告白しても、偏見はないものの、恋愛に興味ないんだよね、と言われて振られるのがオチ。

 何故、自分だけ……他の皆は幸せそうに寄り添う人がいるというのに……ほら、あそこなんか授業そっちのけでお手紙交換ときた。

「……榊、榊! 授業中に何ボーっとしているんだ」

「……はっ!! すみません。考え事していました」

「ちゃんと聞いてろよ。テストに出すぞ、ここ」

「……はい」

 授業中に、ルーズリーフでの手紙のやりとりをしているカップルを横目にしたせいで、冴は自身の恋愛コンプレックスに触れてしまいさらには先生から注意をされてしまう羽目になってしまった。トホホ……と思いながら板書をノートに写す。

 4月のうららかな日差しと春風が心地いい。窓際の席だから、これらをより感じられる。冴は何を努力すればモテるのか考え始めた。学生でモテる条件と言ったら、勉強ができることか運動ができること。社会人になったら、稼げることがモテる条件だろうけど、まだ私達はモラトリアム人間。今は勉学と運動がやるべきことである。2年生になったのだし、甘酸っぱい青春を味わいたいのだ。誰に告白すれば良いかな?同じクラスの人?違うクラスの人?先輩?後輩?あぁ、わかんないよ。告白してくるのは、同級生だから、同級生にしようかな。冴も付き合うなら同級生が良いと思っている。

 いつも仲良くしてくれている友達に告白しようか?でも、断られてしまった時の友情が破滅し、その後の生活への支障がでないか迷ってしまう。同じクラスにしても毎日顔を合わせるわけだし、難しい。じゃあ、違うクラスか。1年生の頃仲良かった子に話かけてみるか。

 と、考えている間に授業終了のチャイムが鳴る。板書も無事写し終わった。善は急げ。冴は2年A組から隣の2年B組へ移動する。前側の扉から入ると、クラスメイト達がお喋りしている。前側の席に居た。元クラスメイトの[[rb:皐萌依 > さつき めい]]がクラスメイトと話をしている。萌依は身長が150cmでポニーテールの髪型をしている。

「萌依~」

「ん? どうしたの冴、こっちに来るなんて珍しいじゃん。新しいクラスに馴染めてないの?」

「いや、そんなことはないけど……萌依に会いたかったから……」

萌依は、冴の濁した言い方から察し、話していたクラスメイトと別れ、冴のところへ来てくれた。

「いいよ、じゃ、2人で話そうか。そっちのクラスどう?」

「まぁまぁかな。一応友達はできたけど、私は浮いているような気がする」

「冴もそうか。私もそんな感じ。さっきはクラスメイトとだべっていたけど聞き役に徹していたし。あの子達、1年生の頃同じクラスだったんだってさ」

「あたしもそうなの。萌依と同じ。ねぇ、これからお昼一緒に食べない?」

「いいよ、私もなんか寂しかったんだよね」

「あ、休み時間そろそろ終わっちゃう。戻るね。ありがと!」

「こちらこそ、またね」

 萌依と恋人になったら楽しそうだな……。よし、お昼まであと1時限、頑張ろうと思う冴であった。

 だが、また始まったこそこそイチャイチャ。席が隣同士で恋人同士で手紙交換か。いいな。萌依がいてくれたら、私も授業そっちのけで手紙交換してるのに。萌依のこと意識し始めたら、萌依とこうしたいを考えるようになっている。でも、これで振られて友情にひびが入ったら……。萌依と恋バナをしたことがあるが、その時は勉強で精一杯だよね……って。一応進学校だから勉強が難しいのである。あと、部活。この[[rb:聖光 > せいこう]]学園では、あらゆる部活が強豪校と言われる。冴も強豪のバスケ部でしごかれている。一方、萌依は競争がない、文芸部に所属しており、コミックマーケットで同人誌を発売する活動をしている。

 休み時間になる度に、冴が萌依の席に訪れ、読書の邪魔をするちょっかいを出したり、お菓子を一緒に食べたり、勉強のわからないところを一緒に解くなどと楽しい1年間を過ごしていた。

 

 ただいまの時間は数学の時間であるが、数学は苦手だ。さっき、萌依のところに行ったのだから、萌依に今日のところ教われば良かった。だが、先生が体調が優れないとのことで自習となった。最近、数学の先生、よく体調を崩すんだよな。どうしたんだろう……。まぁ、おかげで、指されるというプレッシャーからは開放されたわけだが。あぁ、横の手紙のやりとりしているカップルが羨ましい。これは学生時代でしかできない青春だぞ……。何のやり取りしているんだろうな~。

「……榊さん、何考えてるの? 最近ボーっとしていること多いよね」

「うぇ!? 一瞬、先生に注意されたのかと思ったよ。びっくりさせないでよ~」

「だって、自習の時間だよ? お喋りし放題なのに黙っているのもったいないじゃん」

「いやぁ、数学難しいな~って考えていただけだよ~」

「嘘だぁ、絶対違うこと考えてたでしょ~」

「いやいや、そんなことないって」

 話しかけてきたのは、隣の席で、2年になってから仲良くなった斎藤さん。苗字呼びしている辺りが、まだ仲はそこまで深まっていない証。そういえば、萌依のことを名前呼びできるようになったのいつだっけ?

「ほら、また考え事している顔だ~」

「もう、いいじゃん!! 放っておいてよ」

「喋ろうよ~」

「それよりも、この問題教えて~わからない」

と言って、誤魔化した冴。自身の恋愛事情を斎藤さんにまだ話すつもりはないようだ。苗字呼びで一応友人とは呼べるがまだまだ他人行儀だから。

「ここは、この公式に当てはめて……」

「……説明聴いても理解ができない……」

「榊さん、数学苦手なんだね……私も説明これ以上上手くできないや、ごめんね」

「こちらこそ、理解力なくてごめんね」

事なきを得た。本当は説明でわかっていたが、萌依のことを考えたいから、わからないふりをして前を向いた。

 ノートに今の問題を解きながら、萌依のことを名前呼びするきっかけを思い出していた。確か、5月入ってからだったよな。いつまでも、苗字呼びだと堅苦しいから、名前で呼び合おうって……。1年生というのもあって入学したばかりで緊張していたのもあって、名前呼びになるのに1ヶ月もかかってしまった。なら、2年生になった、今、それができているかといったら結局できていない。斎藤さんと苗字呼びだ。

もう1人、このクラスに友人がいるけど名前は内田さん。斎藤さんと元クラスメイトだ。この2人で仲良く話しているから中々輪に入れない。付き合っているんじゃないかってくらいに入る余地がない。思えば、冴はこの2人を恋人にしたいと思わなかった。やはり、苗字呼びで他人行儀のところがあるからだ。それに現同じクラスメイト。振られた時の後が怖い。萌依といる時の方が安心した。萌依なら振らないで受け止めてくれそうな気がする。根拠は何もないのだけれど。それなら萌依とだって振られてしまえば後がなくなる。告白というものは、玉砕覚悟で行かないといけないものだなと思う。恋愛感情って甘いだけじゃなくて苦いってこういうところかーと思う冴。

 考え事をしていたら授業終了のチャイムが鳴った。いつもなら長い数学の時間が今日は短く感じた。これで萌依に会える。

「榊さん、お弁当食べようよ」

 隣の斎藤さんが昨日同様誘ってくれる。だが、今日は萌依と約束しているから

「ごめん、斎藤さん、今日は違う子と食べる約束しているから、内田さんにも言っておいて」

「え……わかった」

 驚いた顔をしていたが、笑顔で送りだしてくれた。萌依、早く会いたい。廊下に出ると萌依と鉢合わせた。

「萌依……どこで食べる?」

「冴、屋上行こう!」

 萌依に手を引かれ、階段を駆け上っていく。萌依も冴とのお弁当時間に浮かれているような様子が伺える。屋上には誰もいなかった。冴と萌依の2人きり。

「良い天気だね、風も気持ちいい~」

「そうだね、萌依、どこに座って食べる?」

「あそこ、日が当たってて暖かいんじゃない?」

「そうね、あそこにしよっか」

冴と萌依は横並びに座り、柵のある飛び出ている床に座り、お昼にすることにした。

「「いただきま~す」」

 お弁当の蓋を開けると、お母さんお手製のおかずが入っている。今日はハンバーグか。

「お、冴のお弁当、今日ハンバーグじゃん。いいな」

「食べる? 一口あげるよ」

「食べる~あーん」

「えっ!?」

「蓋の上に乗せようとして落とされたらやだから」

「あーんなんて恥ずかしいよ~」

冴の手が緊張で震える。あーんでハンバーグを落としそうだ。だけど、なんとか、萌依の口にハンバーグを運ぶ。

「もぐもぐ……美味しい!! ジューシー!!」

「そんな、大袈裟だよ」

「そんなことないよ、少なくとも我が家のハンバーグよりは美味しいね。お母さんの腕、凄いよ。1年の時はおかず交換したことなかったから知らなかった。1年の時もやっていれば良かった」

「さっさと食べて、ウノやトランプすることに夢中になっていたもんね」

「そうそう。また、あのメンバーで揃ってやりたいけど、理系コース行っちゃったもんね。誘いに行きにくいや」

「遠いしね。それに理系になったことで話が合わなくなっちゃったんじゃって」

「そんなことはないけど、でもなんか誘い辛さがでちゃったね」

 冴にとっては、2人きりなのは好都合であった。いずれ、告白をしようと思っているのだから。


「ねぇ、萌依……気になる人、できた?」

 単刀直入に聞いた。まるで、もう告白したかのように胸がドキドキしている。

「冴、恋愛に興味持ち始めたの~? まぁ、もう2年生になったし勉強にも余裕が生まれてきたよね。私は今のところ良い人いない」

「え、いや、クラスでさー、授業中に手紙のやり取りしているカップルがいてさ。羨ましいなって思って」

「へぇ、私のクラスと一緒じゃん!! ルーズリーフを折りたたんで渡してやり取りしているの」

「そうそう、こんなの学生の内しかできないじゃんって……だから、なんか恋人欲しいなって……」

「冴のタイプの人ってどういう人なの? モテるんだから、選り取り見取りじゃん」

「あたしは……あたしが好きだと感じた人とお付き合いしたい」

「はぁ、そういうことだからモテるのに恋人がいなかったわけだ。じゃあ、今は好きだと感じる人いるの?」

そう言われて固まる冴。だが、口をゆっくり開き応える。

「萌依……かもしれない」

「私!?」

 しばらくの間、2人は沈黙していた。顔を赤くして。

「私のこと、いつから好きなの?」

「……わからない。だけど、2年生になって離れてから萌依のことが恋しくなった」

「そ、そうなんだ。なんか冴えない告白だねぇ。もっと告白するなら堂々として欲しかったな」

「告白して玉砕して、友情がなくなるのが怖かった。同性同士だし」

「そりゃそうだよね……でも、私、嬉しかったよ。でもさ……私、恋愛ってよくわからないんだよね……」

「そういうあたしもよくわからないんだよね……」

「ならさ、試しに恋人になってみるのは?」

「試し……萌依はそんな軽い気持ちであたしと付き合ってくれるの?」

「冴とならいいかなって」

「萌依……じゃ、改めてこれからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします」

「堅いよ、冴。じゃあ、今度はあたしが冴にあーんしてあげる」

「え!? じゃ、じゃあ、唐揚げ貰っていい?」

「いいよ~これ私のお手製の唐揚げなんだよ。はい、あーん」

萌依は、自分の弁当箱から、唐揚げを取り出し冴の口へ運ぶ。

「そうなんだ……もぐもぐ……美味しい!」

「でっしょ~、料理得意なんだ!!」

「もしかして、1年からお弁当、自分で作ってきてた?」

「そうだよ~。凄いでしょ~?」

「うん、凄い。あたしはお母さんが作ってくれたお弁当だから……」

「別にいいじゃん。うちはお母さんが亡くなっているから、私が作らないといけないし」

「……そうだったんだ、ごめんね。悲しい話させちゃって」

「大丈夫、お父さんも弟もいるし、寂しくないよ。学校では冴がいるからね!」

「うん、萌依を寂しくさせないよ」

「ありがとう。じゃあ、お弁当食べちゃおっか」

「そうだね、昼休み終わっちゃう」

2人は急いで、お弁当を食べた。そして、残り時間をお喋りに費やした。

「じゃあ、そろそろ教室戻ろうか」

「冴、明日も……いや、これからもお弁当一緒に食べよう」

「そうしよう。その方が楽しい弁当時間になる」

 萌依と別れるのが惜しかった冴だが、違うクラスになってしまった為、それぞれのクラスに戻らねばならない。冴のクラスの5限目は歴史だ。歴史好きの先生のワンマンショー授業だが、冴にとっては睡眠導入剤である。冴に限らず、大半の生徒は居眠りをしている。どうせ板書をしない先生だから良い。教科書に書いてあることを読む、それに加えて自身の得た知識を披露してくれるのだが、それを真面目にノートに写している人はどれくらいだろうか。学生だって疲れる。寝たいのだ。寝る前にちらっと、手紙のやり取りをするカップルを見たが、寝ていた。歴史の時間は手紙もお休みらしい。カップルを見終えてからは、腕を枕替わりにして、突っ伏して寝る。萌依は確か、現国だったかな。萌依は指されても堂々と答えるから凄いよなぁ。音読も上手いし、先生の問題にも的確に答えるし……流石、文芸部。国語力がある。今日は指されたかな。

 終了のチャイムが鳴る。寝ているとあっという間に終わるんだよな。後は、6限目の生物が終われば、大好きなバスケに打ち込むことができる。また、ちらっと、カップルの方を見てみる。やはり、手紙のやり取りをしていた。歴史の授業以外は休みなしかー。よく話題が尽きないものだ。



 さて、ホームルームも終わり、いよいよ部活の時間だ。萌依は読書かな、小説書いているかな。冴は今日のメニューはひたすら筋トレ。今日は顧問が休みの為、各自で筋トレをする。

「また、筋トレ本買ったの? 冴ちゃん」

「そうだよ、強くなって、高みを目指す」

「いや、冴ちゃんだけ強くなっても皆がへにょへにょだったら意味ないじゃん。皆で同じメニューをこなそう。皆、集まって」

「あぁ、そうだね、これなんかいいんじゃないかな? 自重筋トレ」

バスケ部は体育会系と言っても、先輩後輩の間に厳しさはない。現に、冴は今話しかけてくれた3年の先輩にため口で話している。これは代々受け継がれている。だからか、先輩と後輩の間に壁がない。皆の意見が尊重されている。そのおかげでバスケ部内の仲はとても良い。試合に勝っても負けても切磋琢磨し合って高みを目指している。

「はぁはぁ、これキツイね。自重筋トレか。強くなれそう」

「これは、後世の後輩達にもやってもらいたいから、部でもこの本買おうか」

「自重筋トレってタイトルですよ」

「他にもオススメある?」

「これですかね。囚人筋トレ」

「囚人!? 囚人って犯罪で捕まった人の囚人?」

「そうですよ、牢屋の狭い仲で極限の筋トレをして最強の体を作り上げるという日本語訳された本です」

「外国の本だったの!? え、すご!!」

「これで、最強になれますね。屈強な体になれますよ」

「冴ちゃんは一体どこを目指しているの……?」

「最強」

「最強にこだわるのね……」


 地域の18時を知らせるチャイムが鳴る。この時刻と同時に学校のチャイムも鳴る。部活終了のお知らせだ。

「では、今日もお疲れ様でした!!」

「「お疲れ様でした!!!!!」」

さて、帰るかな。今日もくたくただが、大好きなバスケの為、筋トレも張り切ってやった。


部活メンバーと別れると校門に、萌依の姿があった。急いで自転車を押して、萌依の元へ行く。さりげなく車道側へ行き共に歩き出す。

「あれ、萌依じゃん。まだ帰っていなかったんだ」

「冴を待っていたんだよ」

その手には、ノートとシャーペン。

「待っててくれてありがとう。小説書いていたの?」

「そうだよ、こういう隙間時間に書かないと〆切に間に合わないからね」

「偉いなぁ、あたしだったら、スマホ弄って時間潰しちゃうなぁ」

「物語を創造するのって楽しいよ」

「え~、思いつかないよ~想像力がないから無理だよ~」

「そっか~妄想って楽しいのに」

「あたしは小説っていうか、本をあまり読まないからね」

全然タイプが違うのに気が合う友人、いや今はお試し恋人になれたのだから不思議だ。

「でも、私の書いた小説は読んでくれるじゃん」

「そりゃ、読むよ。萌依が頑張って作ったんだから」

「そうやって言ってくれると作者冥利に尽きるね」

「読書習慣のないあたしに話を読ませる文章なんだから惹きつける何かがあるんだね」

「もう、そんなに褒めたって何もでないよ」

 萌依は顔を赤くしてそっぽを向く。可愛い。何だかその顔を見たら抱きしめたくなった。けど、今は、周りには人がいる。そんな大胆なことはできない。

 冴は自転車通学、萌依は電車で通学している。冴の家は駅近くの家であるから、萌依を送ることにした。

「萌依、駅まで送るよ」

「え、悪いよ。帰るの遅くなっちゃうよ」

「いいって。一緒に居る時間長くしたいなーって」

「もう。早速恋人っぽいことしてくれちゃって」

「さっきなんか抱きしめたくなっちゃった」

「だっ抱きしめ!? 冴のバカ!!」

「やっていないのにバカ扱いされた!?」

「だって、そんな恥ずかしいこと考えているから……」

「抱きしめるで何を想像しているんだよ……」

「ちっ違、そういう意味ではないけど、でも密着して恥ずかしいじゃん!!」

「初々しいなぁ。運動部では勝利した時に称え合って抱きしめるとかあるけど、文芸部にはないもんな」

「ないわね」

「いや、それ以前に友達とぎゅーっとかしたことないのか?」

「それはあるけど……でも、今、冴は恋人だし……」

 萌依も冴のことを意識する深層が現れた。冴の萌依を想う名指しの告白が言霊となり、萌依の心にも冴が居着くようになった。またしても、2人の間に沈黙が流れる。

「あーっ黙ってても恥ずかしい!! 萌依、違う話題をしよう。今日、文芸部は何をした?」

「そうね。ビブリオバトルをしたよ」

「ビブリオバトル? 何それ?」

「まず、発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。順番に1人5分間で本を紹介する。それぞれの発表の後に,参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う。 全ての発表が終了した後に、どの本が一番読みたくなったか?を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い、最多票を集めた本をチャンプ本とする。これがビブリオバトル」

「本紹介ゲームみたいな?」

「簡単に言えばそう。だけど、5分間の中でいかに本の面白い部分を要約して話せるかっていうのが面白いところであり、難しいところ」

「要約か……完読するのも難しいのにさらに内容を覚えて面白いところをピックアップしないといけないのか」

「国語の勉強にもなるし、知らない本に出合うこともできる、面白いよ。今度一緒にやってみる?」

「いや、あたしには無理だよ。まず、本を完読するのに時間かかるし、要約するのも時間かかるだろうし」

「待つよ?」

「いや、もったいないからやめよ。違うことで萌依と遊びたい」

「そっか、残念。でも、違うことで楽しいことしようね」

「まだ、テスト期間じゃないし、どこか遊びに行かない?」

「いいね、カラオケはどう?」

「賛成!また、朝から行ってフリータイムで入ろう!」

「冴は歌上手いからなぁ。何時間でも聴いてられる」

「萌依だって上手いじゃん」

「冴みたいに、低音域から高音域まで出ないよ! 何、あの声の使い分け? 別人が歌っているみたいだもん」

「いやぁ、褒められると照れますなぁ。小さい頃から歌うことが好きだったからね」

「じゃあ、バスケ部じゃなくて、合唱部に入れば良かったのに」

「私の場合、大勢ではなく、1人やデュエットくらいがちょうど良い」

「そっか、大勢で歌うのは好きじゃないのね」

「そういうこと。酔いしれるみたいに自分だけの世界を歌いたい……みたいな?」

「確かに、冴は歌っている時、自分の世界に入っているような感じだわ~。ゾーンに入っているというべき?」

「確かに、無我夢中って感じだもんなぁ」

「将来、アーティストにでもなってたりして」

「まさか」

「じゃあ、冴は将来何になりたいの?」

「今の所バスケット選手かなぁ。体動かすの好きだし」

「最近のアーティストだって、激しいダンスしながら歌っているじゃん」

「それもそうか。なら、アーティストもありかもしれない」

「平成より前って、リズムや音程も一定でさらにダンスも簡易な曲ばかりだったけど、平成入ってからは、リズムや音程取るのもダンスも難しい曲って増えたよね」

「確かに、今の曲は覚えるのが大変だ。リズムも音程もダンスも」

「冴は、そんな難しい曲を本家越えしている時があるのよ」

「マジで!? ただ楽しく歌っているだけなんだけどなぁ」

「ネットで配信すれば、登録者も視聴数も爆上がりだと思うよ」

「そんなに!? 大袈裟だよ……」

「冴なら可能だよ! 今から始めてみたら?」

「あたしは動画見る専でいいよ……」

「もったいないな。じゃあ、今度のカラオケでこっそり録音して……」

「しなくていいからね」

「ちぇ」

ぷくーと頬を膨らませる萌依。こういうところは幼稚な女の子みたい。

「萌依が聴いてくれるだけで十分だから」

「本当、もったいない」

「そう思ってくれてるだけで嬉しいよ」

「話し、変えちゃうけどさ、バスケ部は何してたの?」

「今日は顧問いなかったから、皆でひたすら筋トレしていたよ」

「筋トレか~きつそう」

「あたしのオススメ本から抜粋して筋トレしてたんだよ!」

「どういう本?」

「これ!!」

部活の時のテンションで鞄から本2冊を取り出し、自重筋トレ本と囚人筋トレ本を

萌依に見せた。

「……ナニコレ」

「いや、だから表紙にも書いてある通り、自重筋トレ本と囚人筋トレ本だって!!」

「一般の女子高生はこんな本見ないし買わないよ」

「そりゃそうだよ、あたしみたいに最強という高みを目指す高校生なんて中々いないよ。正しいフォームでやらないと効果がないから動画も見るのもオススメ」

「いや、オススメされても……文芸部には筋肉、必要最低限で良いし。読書や小説書ければ良いし」

「体育の授業で一目置かれるよ!!」

「冴は何を目指しているのよ……」

「最強。……あれ、これ部活の時にも言ったような……デジャヴ?」

「あははっ!じゃあ、悪い奴が現れたら私を守って?」

「もちろん! 萌依は大切な人だから指一本触れさせやしない」

「……さっきまで筋肉バカだったのに急にカッコよくならないで」

「筋肉バカ!?」

「そうだよ、筋トレが脳内を占めているもの」

「ヒーローと言って欲しいものだな!!」

「そうね、私のヒーロー。頼りにしているからね」

「あ、ちょうど駅ついたね。名残惜しいけど……また明日ね」

「また明日ね……」

萌依は駅の階段を上って行った。


あ、カラオケ行こうって話をしたのに、いつ行くという約束をしてなかった。

スマホのSNSを開き、萌依に電話を掛ける。3コール目で萌依が出た。

「もしもし、冴? どうしたの?」

「あ、萌依、今大丈夫? カラオケの話したのにいつ行くって話をしてなかったじゃん? いつにする?」

「今週の土曜日でいいんじゃない? あんま後にすると来月は中間テストがあるんだから勉強に追われているかも……」

「ソウダネ……」

「テストの存在忘れてたでしょ?」

「忘れたかった。筋トレしていたい。部活一時期なくなるのも嫌」

「もう……しょうがない恋人ね……じゃあ、成績良かったら何かご褒美あげる」

「え、本当!? じゃあ、萌依を乗せて腕立て伏せやりたい!!」

「どんなご褒美よ!! 本当しょうがないヒーローね。じゃあ、それにしてあげる。カラオケ終わったら勉強も頑張るのよ?」

「うん! カラオケ楽しみだね」

「そうね、冴の歌声楽しみだな。また、レパートリー増やしておいてね」

「歌は聴けば覚えられるからなぁ。どんなジャンルの曲聴きたい?」

「J-POPとアニソン!!」

「OK! 動画サイトで最新の聴いて覚えておく!!」

「最新のでなくてもいいよ。とにかく今、聴きたいのがJ-POPとアニソンなんだよね」

「さて、何を歌えば萌依を射止められるかな」

「恋愛ソング歌う気になってる……」

クスクス笑う萌依。

「いやいや、そうとは限らないよ? ネタ曲を歌って笑いを誘いに行くかもよ?」

「そっか、とにかく、私を楽しませてくれようとしてくれてるんだね、ありがとう」

「そりゃ、お試し恋人ですから! いや、友人でもこの努力は惜しまないけどね!」

「本当、仲良くなれて良かった。じゃあ、お風呂入るから、また明日ね」

「うん、また明日ね」

電話を切る。もっと話したかったけど、宿題あるし、冴のクラスも宿題が出ているしで仕方ない。とりあえず、冴も風呂に入ることにした。

「何歌えば、萌依は笑ってくれるかなぁ~。ふんふんふーん♪」

 鼻歌を歌いながら入浴をする冴。頭を洗う時も、体を洗う時も萌依のことばかり考えていた。お試しでお付き合いとはいえ、意識をすると脳内が好きな人のことで占めていく。宿題なんかほっぽりだして、歌のこと考えていたいけど、ご褒美貰えるからまずは宿題頑張んなきゃ!!

 冴は風呂から上がり、体をバスタオルで拭き、化粧水、乳液を顔に塗り、下着、パジャマを着た。そして、部屋に戻り、机に向かう。宿題を済ませ、寝るまでSNSを開き流行りの曲を聴いていた。

「今は、こんな曲が流行っているのかー。覚えよう」

Twitter、Tik Tokで話題になっている曲は一通り聴いた。今日は木曜日。明日、学校が終われば、もうカラオケだ。さて、そろそろ寝るか。お休みなさい。

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