サワガニと人生

 サワガニが我が家にやってきて一週間。

 毎年、良い時期になると近所のスーパーでサワガニが売り出される。その年によって、サワガニのPOPは変わるのだけれど、今年は「食用にどうぞ!」というPOPだった。確か、去年は「ペットにも!」という表現だったはずなんだけどな、と思いながら様子を見ると、案の定、子どもたちは「かわいい!」といって買う(飼う)気満々。

 私自身、魚など水生物が好きなので、なぜかその瞬間は「じゃあ、飼おう!」という気前のいい返事でご購入。

 レジのお姉さんに「サワガニいいですねえ」と声を掛けられたので「ペットとして飼うんです」と返事をすると「えっ!」と驚かれた。子どもたちは、新しいペットに大興奮で、すれ違うお客さんに自慢をしていた。

「子どもたちが喜んでるんで、食用じゃなくてペットとして飼おうと思いまして」

「そうなんですねえ、お子さんたち喜んでますね」

「ええ、まあ、私も結構楽しみなんです」

「最高じゃないですか」

 レジのお姉さんが満面の笑みで笑ってくれた。


 最高じゃないですか。

 

 すごくいい響きだなと思った。

 思えば、やりたいことも、やってみたいことも、なんとなく時間がない、お金がない、余裕がないで、諦めてきたことも多い。最近は、どうせやってもな、という気持ちも湧きやすい。

 それでも、自分の中でぽつぽつと灯る、小さな「やってみたい」や「楽しそう」という気持ちに、耳を傾けてみる。そして、考える前にえいやとやってみると、意外と出来るということに気づいた最近。

 サワガニは、今もカリカリ動きながらエサの鰹節をちびちび口に運んでは、石の裏に隠れている。めちゃくちゃかわいい。


 最近は、休職明けの仕事も少しずつ慣れ、生活のサイクルもなんとなく整ってきた。昔なら考えられなかった、毎日文章を書くということも、実はちびちび続けている。

 私が休職中に心の支えになった書籍の数々。そんな本をつくっている方と、お話しする機会があったというのもあって、はじめてちゃんと文章を学びたいと思った。ので、今は文章講座を受けている。

 本をつくっている人と直接話をさせていただいて、自分の中で諦めていた部分や、どうせという気持ちでやってこなかったこと。その泥みたいな部分を一度、ざばっと洗い出してみたら、驚くほど、やりたいことが沢山見つかった。

 文章を書くのは、やっぱり楽しい。

 それから、参加できる機会があれば大好きな作家さんの講演会に参加してみたり、直売会に行って直接感想をお伝えしている。

 自分が動くと、世界も動くというのは本当にあるようで、本の感想をただひたすら投稿しているSNSにご本人からメッセージをいただけることもあった。こんな奇跡みたいなこともあるんだなあと思っている。


 今は、文章の書き方を改めて学んでいて、講座が終わったら、また面白いと思ってもらえる作品を書くことを目標にしている。


 サワガニから人生まで、かなり話題が大ジャンプしましたが。

 休職したことも、自分が適応障害になったことも、自分の今までの人生を振り返ることができたという点で、これでよかったのだと今なら思える。

 いまだに続く通院も薬も、たまにくる絶望も、ひっくるめて、私は生きていきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皆さん、どうやって日々を生きておりますか? 小辞ゆき @shojiyuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ