小さい財布のはなし
その当時、小さい財布を持っている人が妙に輝いて見えた。
荷物を少なめに持つ人がオシャレに見えて、手のひらに乗せれるぐらいの小さい財布が流行っていた。
一方で私は、長財布を昔から愛用しており、それはそれで、大人な感じがして気に入っていた。ただ、長年使ってボロボロになってきた頃に、いっちょ、おしゃれな世界に参加してみますか! という気持ちで小さい財布を購入することに決めた。
ためしに買ってみると、当然なのだが、カード類が溢れだした。全部を無理やり入れると、せっかくの小さい財布がぱんぱんになって、膨らんだ。財布はサイズが小さくなっただけで、厚みが増した。
なので、財布に入れるスタンプカードを厳選した。心配性なので常に入れていた病院の診察券、寄るか寄らないかわからないけど、たまに行くパン屋さんのスタンプカード、スマホのアプリカードに変わっているけど、アプリを立ち上げるのが面倒で持っていたカードを切り捨てた。
なるほど、常に携帯しておきたいカードは結構限られているんだなと思うと同時に、とりあえず・なんとなく不安だからで持っていたカードも多くて、財布は性格が出るなあ……と感じる。
それから使ってみると……もちろん、財布のサイズが小さいのでカバンの中身にも余裕ができ、身軽になった。ウキウキになった。今までなら、カバンの半分を長財布が占領していたので、その空いた空間に文庫本なんか入れたり、もさもさと財布を取り出すこともなくなり、スマートになったじゃんと気分が良くなった。
ただ、お札が折れ曲がって出てくるのだ。
当然だ。財布が折りたたまれているのだから、その中にいれるお札は折れ曲がる。まさか自分が、折れたお札を店員さんに渡すのが申し訳なく思う程、小心者だと思っていなかった。
とりあえず、お札を出す前に、折れたお札を手で何度か伸ばし反対に折り曲げ直す。それでも、トレーに置かれたお札は、くりっと曲がっていて、情けない。
この折れたお札をレジに入れたりするのって、すごく面倒なのでは……と思ってしまって、お札を出すたびに「折れ曲がっていてすみません……」と小声で謝罪をする。店員さんは必ず「大丈夫ですよ」と応えてくれる。
改めて文章にすると、めちゃくちゃ生き難い感性を持っているな……と自分に対して涙が出てくる。
そんなもん当たり前だろ、と思うし、そこまで卑屈すぎると逆に店員さんにも気を遣わせている……と、また面倒な思考がよぎる。
そんな悩みを先日、友人にしてみると「んなもん、いちいち気にしてないって! レジ経験あるけど、お札が折れていることなんてめちゃくちゃあるんやから!」という一言をいただいた。
私はレジ経験がないので、店員さんの気持ちなんて想像したことがなかった。言われてみれば、そうか、そうだよな、いちいち気にしてなんかいないよな……と思う。
それでも、やっぱり折れたお札を店員さんに渡すのは、それなりに罪悪感が伴ってしまうので、余計なことを考えないためにも、長財布に戻そう。
あと、やっぱり財布がぱんぱんすぎて、小銭を入れている部分のボタンが千切れそうになってきているので、まあ、私に小さい財布は合わなかったということなのだ。
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