第2話
昨日はまだ本格的に委員会の仕事が始まったわけではなかった。今日、委員会の集まりでメンバー確認などを行ってから本格的な活動が始まる。
昨日は下見がてら寄ってみて、野木さん一人しかいなかったから手伝っただけだ。
「……図書委員の作業はざっとこんな感じです」
昨日野木さんに聞いた内容を先生が軽く説明してから、二人一組のペアを決めるよう言われた。
図書委員は一年生を含め、十名ほどしかいなくてちょうど誰も余らずにペアが決まる。私は一年生だから同じ一年生と組むと思っていたが、一年は三人。私以外の二人はもう仲良さそうに会話を弾ませている。
つまり、私は余り。これだと先輩の誰かと組まなきゃいけないことになるが……
周りを見渡すと、野木さんがきょろきょろと胸元に手を置きながら一人で立っていた。あの様子だと野木さんも一人取り残されてしまったのだろう。
私は野木さんのもとに駆け寄り声をかける。
「野木さん。よければ、私とペア組みません?」
さっきまでガチガチになっていた野木さんの小さな体は緊張が解けるように柔らかくなる。顔は前髪越しからでもわかる程度には明るくなった。
「……花守さん。ありがとうございます、よろしくお願いします」
きっと去年は図書委員の人数が奇数で野木さんは一人になってしまったんだろうな。
「では、新しい一年を迎えた図書委員のメンバーはこれで行きます」
先生はそう言うと、解散、解散と自分の教室へ戻るよう促した。
「じゃあ野木さん、また明日ですね」
私たちは、水曜日を担当することになった。だから用がないかぎり野木さんに会うのは週に一度、図書委員の仕事をする時だけ。
「……はい。では、また明日」
彼女の顔はどこか切なくなっているように感じた。多分私の勘違いだろうけど。
私は教室へ戻ると、次の教科の準備をしてから席に着く。
すると後ろの方から、子供の様に元気な声が聞こえてきて後ろを振り向く間もなく、私は捕まった。
「こよいー! 委員会どうだった? いじめられたりしてない?」
席に座る私を後ろから抱きしめながら頭を撫でまわしてくるその人は、幼馴染の
小さい頃から一緒に育ってきた彼女は私の性格がこんなになっても変わらずに接してくれる唯一の人間だ。
「離して。暑い」
由芽の抱擁から逃げ出すため腕をどかそうとしたが、彼女の抱擁は強くなっていく。少し力が強すぎやしないか、と思ったが多分そう言っても離してくれないだろうから諦めた。
「一人ぼっちになったりしてない? 大丈夫?」
由芽は少しお節介なところがある。お母さんみたいにあーだこーだ言ってきて……でもそんな彼女の性格は嫌いじゃない。
「なってないよ。少し仲良くなった先輩居るし」
「え!? こよいに私以外の友達が……!?」
彼女は私の体から腕を離すと口元に手を当て、感涙でも流すのかという顔をしている。ほんと由芽は色んな顔をする人間だなと思う。
「友達とかじゃないよ。先輩なだけ」
そう、私と野木さんは先輩と後輩。ただそれだけの関係。少しでも彼女と関わりたいと思うのは私らしくない。どうせきっと悲しい思いをする。ならいっそただの委員会が一緒な先輩と後輩の関係でいいと思う。
「まあ、それでも今宵が一人じゃないなら私は嬉しいよ」
由芽は満面の笑みでそう答えた。そこには嘘など到底含まれておらず、ただ純粋な由芽の気持ちなんだなと思った。
こんなに優しくしてくれる彼女に冷たい態度をとってしまう私はきっと薄情な人間だ。でもそうでもしないと突然いなくなってしまった時に胸をえぐらるような思いをするのは私自身だ。母が亡くなった頃のように。
「おっと、そろそろ席に戻らないと」
由芽はそう言うと、ひらひら私に手を振りながら自分の席へ戻って行った。
そこから一日の授業は真剣に聞いていたはずなのに、頭には何も入ってこなかった。そんな感覚だった。
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