第31話 二郎、行くか

 週明け月曜日。

 休みが終わって憂鬱なところだが、今日はなんと色々あって午前中で学校が終わりという素晴らしい日だ。


 毎日こうであってほしい。

 エブリマンデー、半ドンで頼む。


 午前の授業を終えて解放された。

 腹が減ったので何か食べに行こうか。

 俺は後ろの席にいる晴人に声を掛ける。

 

「晴人、ラーメン食べに行こう」

「いいね、ちょうど今日は部活休みだし、久しぶりに行こうよあそこ」

「おお、行こうぜ行こうぜ」


 晴人の言う「あそこ」とは、『ラーメン荘 空を見上げろ』という独特な屋号のラーメン屋。


 いわゆるアブラニンニクヤサイをマシマシする感じのお店で、量が多いので体育会系の学生を中心に人気がある。

 胃袋の容量には自信無いが、腹ペコの今日ならイケる気がする。


 一刻も早く行列に並ぶため、俺と晴人はダッシュでお店に向かう。

 息を切らせながら走って向かうと、すでに店外まで行列ができていた。


「はぁ……はぁ……」

「全力で走ってきたけどもう行列ができてるねー」

「は、晴人……速すぎるって」

「鍛えてるからねー。朝陽も運動したほうがいいよー?」

「か、考えとく……」


 晴人の走るスピードはめちゃくちゃ速い。

 背が高くて足も長いので、トップスピードに乗ってからもその速さが持続するのだ。

 凡人の俺は追いつけない。コーナーで減速するタイミングを狙って差を縮めるしかないということだ。

 コーナーで差をつけろっ……!


「それにしても並んでるねえ。みんな午前授業って感じかな?」

「そうかもな。さっき西目屋さんから聞いたけど、市内の学校はみんな半休らしい」

「じゃあ混んでもしかたがないかあ。お腹ペコペコだけど、並んで待つしか無いね」

「空腹は最良の調味料って言うから、ちょうどいいだろ」


 二人で行列の最後尾に並ぶ。

 ざっと三十分くらいは待つだろうなと列の様子を見ていると、突如自転車の急ブレーキ音が鳴り響いた。


「やあやあお二人さん。偶然だね」

「そ、外ヶ浜さん? どうしたの?」

「いやー、偶然二人を見つけたからね」

「お、おう……偶然ね……」


 愛車の自転車でドリフトを決めるように現れたのは凛々亜だった。

 そして例のごとく、その風圧でスカートがめくれてパンツが見えてしまうことに対して、なにも恥じらう様子はない。


 今日はブラウンの生地にターコイズブルーのレースがついたやつだった。

 バレンタインデーの時期になるとデパートの地下で売っている高そうなチョコレート感がある。

 パンツだけでこんなにバリエーションあるんだな、凛々亜って。


 偶然だと彼女は言うが、おそらくSENLYのアプリで俺の位置情報を見てついてきたんだろう。

 晴人と凛々亜はまだフレンドじゃなかったはずなので、俺と一緒にいるのを見越してヤマを張ってきたに違いない。

 なんとも勘の鋭いやつめ……


「へえ、ラーメン食べに来たんだ」

「まあね。ここのラーメン、ボリュームがすごいから腹が減った今なら間違いなと思って」

「なーるほど……私もご一緒していい?」

「えっ、いいけど、結構すごいボリュームだよ? 外ヶ浜さん大丈夫?」

「任せなさい。今日はチートデイだから」

「カロリー管理の話じゃなくてね……胃袋の容量の話……」

「ああ、そっちね。大丈夫っしょ!」

 

 そう満面の笑みを見せた凛々亜は、俺と晴人の後ろに並んだ。

 

 いつも昼休みに下衆な話をしている彼女のことが苦手だと晴人は言っていたが、いざ会話してみると打ち解けるのは早かった。

 凛々亜の持ち前のコミュ力で雑談をするくらいにはなった。すごいな凛々亜、どうやったんだ?


 お喋りをしているうちに列は進み、食券を買い、カウンターに着席することができた。


 各々コールを済ませてしばらく待つと、目の前にはかなりボリューム感のあるラーメンが現れた。


「うお……今日はまた一段とすごいな……」

「そうだね……僕、ヤサイマシマシにしちゃったけど、食べきれるかなあ」

「へぇー、なかなかやるじゃない。これくらい余裕よ」


 着丼と同時に三者三様のリアクションをとったあと、各々割り箸を手に取りラーメンをかっ込み始める。


 ――うん。最初にパンチのあるアブラと麺で殴られるのがたまんないんだよな。

 だんだん食うのがしんどくなるんだけど。


 黙々と食べ進めて、俺はなんとか完食。

 晴人は涼しい顔でヤサイマシマシを食べきった。さすがである。


 一方の凛々亜はいうと……


「ふんっ、このくらい余裕ね。次は大豚ダブルくらいイケるんじゃない?」

「すげえ……食べきっちゃったよ、あの量を」

「本当だ、女の人でもあんな量食べ切れるんだね」


 ニンニク抜きにしたものの、ほぼ晴人と同じ量を注文した凛々亜。


 これは食いきれずに「店主への土下座確定! その様子はサブチャンネルでご覧ください!」ルートかなと思っていたが、彼女は箸を止めることなく食べきっていた。


 おいおい、ここは食べ切れずに残すところだろうよ。

 土下座は凛々亜おまえのお家芸だろ……?


 驚きを隠せないまま店を出る。


 戦ったあとに浴びる春の風は、とっても心地よい。


 ……ただし、身体じゅうからニンニクの芳しい香りがすることには目をつぶっておこう。

 いや、鼻をつまんでおこう。 

 

「ふうー、たまにはこんなジャンキーなものを食べるのもいいわね」

「外ヶ浜さんがあんなに食べると思わなかった。良い食いっぷりだったよ」

「でしょ? 一軍女子イツメンでスイーツ食べ放題とか行っても、私が一番食べてるしね」

「ひえっ……カロリーのお化け……」

「まあ、私にかかればあれくらいは余裕のよっちゃんって感じ? ああいうのはやっぱり原価率の高い――」


 凛々亜は得意げにスイーツ食べ放題での武勇伝を語り始めた。

 初めてだよ、話を聞くだけで胸焼けしてくる感覚は。


 俺ははいはいと聞き流していたから無事だったが、甘いものがあまり好きではない晴人は、凛々亜のスイーツ武勇伝で本当に胸焼けを引き起こしてしまったようだ。


「ご、ごめん、僕ちょっと気持ち悪くなってきた……」

「晴人、大丈夫か?」

「う、うん。さすがにちょっと食べすぎた後だから余計に胃が重いかも」

「あまり無理はするなよ。なんてったって晴人はバスケ部のパワーワードなんだからな」

「……パワーフォワードね」

「……なんかすまん」


 これ以上凛々亜のスイーツ話を聞くのは危険だと判断した俺は、晴人に帰宅して静養することを促した。


 まだ大会をいくつか控えている彼は、どこか申し訳なさそうに帰っていった。

 ……そんなに気にしなくてもいいんだぞ晴人、スイーツ武勇伝を止めようとしない凛々亜が悪い。


「ああ……藤崎くん、帰っちゃった」

「外ヶ浜さんが甘いものの話をするから」

「だって本当のことだもん! なんなら今度『スイーツシャングリラ』に行って証拠を見せようか?」

「いや、話の真偽は疑ってないよ! よくも晴人が甘いもの苦手なのにスイーツの話を続けられるなって思っただけ」

「……えっ、そうだったの?」

「今までの流れ見ててわからなかったのがさすが外ヶ浜クオリティって感じだよ……」

「ちょっと待って、それじゃあ藤崎くんとスイーツシャングリラスイシャンデートは無理ってこと!?」

「無理だろうなあ。あいつショートケーキ一個でギブアップするから」


 あからさまにショックを受ける凛々亜。


 どういうデートコースを想定していたのかわからないが、晴人に甘いものは厳禁だ。


 あのあやめさんですら晴人にはバレンタインデーにチョコレートを贈らない。代わりに肉ケーキを贈るのだとか。


 なんだよ肉ケーキって。


「藤崎くんともっとお喋りしたかったけど仕方がないか……」

「あいつの前で甘いものの話は厳禁だからな」

「わかった、気をつける。ところで、平川くんはこれからヒマ?」

「……まあ、暇だな」

「それじゃ、たくさん食べたわけだし腹ごなしのをしに行かない?」


 凛々亜は不敵に笑う。

 えっ? こいつの言う『』って、つまり……?

 

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