第30話(雛世視点)乗るしかない、このビッグウェーブに……!

◆(雛世)


「西目屋さん、ちょっといい?」

「は、はひぃ……」

 

 藤崎くんとの試合を見に行った帰り、お手洗いに寄ったときに外ヶ浜さんに絡まれた。

 相手は一軍女子。これは何か嫌な予感がする。

 下手な立ち回りでいじめの発端になったりしたら、嫌だなあ……


 そういえばなぜかこの人、同じタイミングでお手洗いに入って来たんだよね。

 連れションっていうのかな……?


 それ、女子の陽キャがよくやる文化だ……

 陰キャブスの私には眩しくてツラいよぉ……


「ズバリ言うね。西目屋さんは、藤崎くんとどんな関係なの?」

「へっ……? ふ、藤崎くんですか?」


 予想外のことを訊かれて思わず声が裏返る。

 てっきり平川くんとのことを聞かれるかと思っていたけれど、そうではないらしい。


「ええっと……試合を見にこないかって誘われただけで、特にこれといった関係では……」

「そうなの? てっきり密な関係なのかと」

「ぜ、全然そんなことないです」

「ふーん。実は今日の試合に出ていた選手を全員じっくり見たんだけど、やーっぱり藤崎くんが一番イイのよね」

「一番イイ……?」

「そう。一番イイの」

「それって、やっぱりそういう意味……ですか?」

「当たり前でしょ。あのクオリティの高身長細マッチョはなかなかいないわ。天然記念物級よ。次点で途中出場してきた一年生の子ね、素質あるわあの子。青田買いしてもいいかも」

「は、はぁ……」


 この人、本当に頭の中がピンクなんだなあと思った。


 高身長細マッチョに命かけすぎだよ。

 確かに性欲は本能だから、ああいう身体にはみんな心惹かれる。

 けど、それだけが全てじゃないよね……と、私は思う。


 やっぱりフィーリングが大事。

 平川くんみたいに気兼ねなく会話できる人がいい。

 藤崎くんも優しいし、絶対にいい人だとは思うけど……もう私の頭の中のランキングは、平川くんがぶっちぎりで首位を独走している。


 今日だって一緒に市民体育館に行くことになって、平川くんと会話するための話題デッキを事前に何回もシミュレーションして回したんだ。

 試合が始まるまでなんとか自然に会話できてよかった……頑張ったよ私。不自然じゃなかったよね……?


 他にも、『ミラーリング効果』を出すために同じ飲み物を――炭酸は正直得意じゃないけど――買って飲んでみたり……あ、そういえばこっそり写真も撮りました。

 

 藤崎くんのお姉さんと外ヶ浜さんが盗撮した写真を消している最中に――平川くんは、証拠写真だと思っているようだけど、じつは君のことバッチリ撮ってました。

 ……まあ、試合の盗撮じゃないから、いいよね。


「そういうことなら、藤崎くんはフリーってことね?」

「ふ、フリーかどうかはわからないですけど……少なくとも私とはそんな感じではない……です」

「ふむふむ、ならばよろしい」

「ホッ……」

 

 妙に威圧感のある外ヶ浜さんの尋問はあっさりと終わった。


 私は胸を撫で下ろす。なにもないのでスムーズに撫でられるのが自慢だ。自慢じゃないけど。

 良かった、これで解放される……

 

 と、思ったのだけれども、彼女は更に予想斜め上の展開で話を続けてきた。


「そういうわけなら西目屋さん、私と友達になろうよ」

「ふぁっ!? い、いきなりですかっ!?」

「友達になるのにじっくりもいきなりもないって」

「にしたって、今日初めて話したようなものなのに……」

「関係ないって。私、『出会って五秒で友達』が信条だし」

「こ、コミュ力高い……」


 外ヶ浜さんの信条があまりにもアダルトビデオに影響を受けすぎているなというツッコミはできなかった。


 これ、平川くんだったらきちんと処理できるんだろうなあ。さすがだよ。


 いきなりの提案に驚いたけれども、よくよく考えてみたら外ヶ浜さんと友達になることは悪いことではないと私は思う。


 一軍女子グループは苦手だけど、その中でも外ヶ浜さんは陰キャな私でも比較的とっつきやすいほうだ。

 クラスの有力者との繋がりは、持っていて損はしない。


 おそらく外ヶ浜さんは私が藤崎くんとここ最近仲がいいことを利用して、彼との接点を増やそうとしているのかもしれない。


 けれども、逆に言えば私だって外ヶ浜さんと友達になることで平川くんとの接点を増やすことができる。


 これ、願ってもない提案だよ。

 WIN−WINってやつだ。

 乗るしかない、このビッグウェーブに。


 ……あっ、ビッグウェーブはWINじゃなくてMACか。(iPhoneだよ)


「わ、わかりました。そ、外ヶ浜さんが良いのであれば」

「ほんと? やったー、じゃあ連絡先教えて? ってかどこ住み? SENLYやってる?」

「は、はぅ……」


 情報で一気に畳み掛けないでー!

 ただでさえ陽キャラギャルとの会話はエネルギーを使うのに……


 というか、SENLYって何……?


「あれ? 西目屋さん『SENLY』知らない?」

「お恥ずかしながら……」

「位置情報共有アプリだよ。私の友達みんなやってる」

「い、位置情報を共有して何か楽しいんですか……?」

「え? どこのカフェに行ってるのかなとか、誰と一緒に遊んでるのかとか気にならない?」


 ならないです。

 と、言って断ろうと思った。


 自分の居場所を他人と共有してどうするんだろう。私なんて家か学校かバイト先の三択なのに。


 しかし、私はとあることを思いつく。


 これ、平川くんも誘ったらどうだろうか。

 平川くんの位置情報、欲しいよね。欲しくない?


 私は外ヶ浜さんと繋がってるわけじゃない、平川くんの位置情報を食っているんだっ……!


「……それは、ちょっと気になるかもですね」

「でしょ? じゃあインストールしといて。招待するから」

「は、はひぃ……」


 私は言われるがままに『SENLY』のアプリをダウンロードする。

 すぐにフレンド申請が飛んできて、外ヶ浜さんと繋がった。


「じゃあよろしくね西目屋さん。それと、もし藤崎くんとフレンドになったら紹介してよね」

「はぅ……」


 やっぱり狙いは藤崎くんかー。

 私は外堀を埋めるのに使われたんだろうなあ。


 でも構わないよ。私も平川くんの外堀を埋めるためにこれを使わせてもらうから……!


 その夜、なんとかして平川くんをSENLYのフレンドに誘うことができた私は、一晩中彼の位置情報を食い入るように見ていた。

 

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