第11話「誇りの所在」
遥が怜の前から姿を消した半年後。
茂樹は遥から口止めされていた秘密を、怜に打ち明けた。
筑波サーキットのピットロードで、コースを走る怜のラップタイムを記録しながら、茂樹は遥に訊ねた。
「もうシーズンも終わりか。1年があっという間に過ぎていくけど、
遥は、あいつが⋯⋯、怜が走っているのを見て怖くないの?」
「⋯⋯怖いよ。富士スピードウェイの事故を見た夜は怖くて眠れなかったもの」
「⋯⋯だよな。あいつの走りは一緒に走っている俺でも怖い。特に怜の⋯⋯、ごめん」
「いいよ。言って」
「あいつの『危うさ』というか、何処か自分の命を軽んじているように見える時がある。その危うさがあいつの爆発的な速さを生む源泉なんだけど、それでも時々怖くなる」
「⋯⋯」
「俺は、あいつは自分の命を燃やして走っているんじゃないかと思う。
レース中にライバルと競い合っている時、それが白く眩く輝きすぎて、このまま消えてしまわないか心配になる時がある」
「⋯⋯」
「遥は、怖くないの?」
「怖いよ。でもね、私の人生の中にそんなにも燃え上がれるものは⋯⋯ないのよ。
ないの。
だからね、もし怜が腕の一本や二本なくなったって私が養ってあげるからいいの。
怜はあれでいいの。
怜には思い切り走ってほしいのよ。
私には、それくらいしかできないから⋯⋯。
この事は怜には言わないでね。
彼の重荷にはなりたくないの」
遥が居なくなってしばらくして、茂樹は遥のそんな想いを怜に教えた。
遥を失った怜を茂樹は見ていられなかった。
「怜、彼女はなあ⋯⋯、おまえには自分の願った道を選んでほしいと言っていたんだよ。
おまえは、本当に
と伝えた。
怜は、自分に何が足りなかったのか。
遥が何を想い、怜の元を去ったのか、ようやく理解した。
「遥、俺たちが別れたあの時、君のお父さんはもう⋯⋯
君は俺に夢を託してくれたんだね。
俺は⋯⋯、何もわかっていなかった。
君に何もしてあげられなかった。
俺は⋯⋯、走らなきゃ。
俺が君の誇りになる」
怜の中で、行き場を失っていた想いに応える、
闘う理由ができた。
託してくれた人の誇りになる。
それが、怜が闘う理由になった。
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