ep10.5 仄かな熱【※】

※主に性描写です。ご注意ください。




 あっさり押し倒されたヴァンに、俺は勢いのまま唇を重ねた。


 強引に触れただけの唇を離してヴァンを見下ろすと、ヴァンは瞬きもせずじっと俺を見上げていた。

 焚き火の炎が映り込んだ琥珀の瞳は、とろりと熱のこもった赤みを溶け込ませ揺らめいている。


 すごく綺麗だ。


 その瞳に吸い込まれそうになりながら、啄むようにキスを落とす。ヴァンも同じように啄むキスを俺に返す。

 角度を変えてもう一度すると、同じように角度を変えて。


 欲しがる顔も、真似する仕草も、全部かわいい。


 たまらない気持ちになり、抱き寄せて今度はより深く口づけた。

 濡れた唇を舌でなぞると、口が小さく開く。舌を割り入れ、上顎をくすぐる。

 ヴァンは俺の舌を優しく吸い、戯れるように舌を絡めてきた。


 静謐な針葉樹の森の中、たまに揺れる梢の音と爆ぜる焚き火の音だけが聞こえてくる。

 冷えた晩秋の空気と焚き火の熱さの狭間で触れる人肌は、温かく心地よい。


 甘やかなキスを何度も重ねるうちに、密着した互いの下腹部に硬く熱を帯びたものを感じた。


「……君を抱いても?」

 俺はヴァンの耳元に唇を寄せて囁いた。


「私も君に抱かれたい……が、君はそれで構わないのか?」

 ヴァンは躊躇い気味にそう返してきた。


「どういう意味だ?」


「……なんとなく、だが。君は本来抱かれる側じゃないのかと」

 こんなところでもヴァンは鋭い。


「あー……うん、まぁ。そっちが多いけど。俺は両方好きだからこだわりはない。単純に俺を抱きたいって相手が多いだけなんだ。

 あ、でも年下の男は抱くことが多いな。かわいいから抱きたくなる」

 俺がニッコリ笑ってそう言うと、ヴァンは眉を顰めた。


「……年下?私のことを言っているのか?」


「そうだけど」


「年下は君だろう」


「いや、さすがに。それはないだろ」


「グレイ、君の年齢は?」


「22歳だ」


「ほら、やはり私の方が年長だ。私は24歳だよ」

 ヴァンの少し勝ち誇ったような顔に、俺は固まる。


「……どうしたんだ、グレイ?」


 俺は少し身体を離すと、自分の胸の前でヴァンの両手を強く握った。

「ヴァン、君は最高だよ」


「本当にどうしたんだ、グレイ」


「君は奇跡の男だ。こんなにも華奢で可憐な年上に俺は出会ったことがない!」


「…………褒められてるんだろうか?」


「もちろん褒めてる!ヴァンが年下だと思って黙っていたが、俺は年上好きなんだ。こんなにもかわいい魅力に溢れた君が年上だと知った今、感動を禁じ得ないでいる!」


「なる、ほど……?」


「まさかヴァンが年上で、しかも抱かせてもらえるなんて。……あぁ、やばいな。年上の男を抱くなんてはじめてだ。興奮しすぎで緊張してきた……!」 


 感動のあまり身悶える俺を、ヴァンはポカンとした顔で見上げている。


「……そうか、うん。とりあえず君が喜んでいるのはよくわかった。では存分に、年上の私を抱いてくれ」

 ヴァンは苦笑いすると、悶える俺の頬にキスをしてくれた。




 互いの外套と携帯毛布を敷き、その上に靴を脱いで座った。

 俺が「おいで」と両手を広げると、ヴァンは一瞬躊躇った表情を浮かべたが、少し恥ずかしげに近づいてきた。


 そこで照れるのか。いちいちかわいいな。


 俺たちはキスを再開する。

 キスをしながら俺はヴァンの身体に触れた。

 首筋をなぞり、鎖骨を撫で、胸に手を這わせながら衣服を緩める。

 服を脱がせていくと、ヴァンはキスを止めることなく俺の動きに合わせ、自らも服を脱いでいく。

 と同時に。いつの間にか俺の上着のボタンもベルトも全て外していた。


 ヴァンの華麗な手捌きに、内心俺は驚く。


 俺の心の声を察したのか、ヴァンは動きを止めずにクスクスと笑う。

「……もう少し不慣れで純情そうな方が君の好みだったか?」


 ヴァンは脱ぐのも脱がすのも、かなり手慣れていた。

 さっきは妙なところで照れていたが、経験豊富なのが何となくわかった。


「いや、そんなことない。個人的には燃える。君を抱いたことのあるどの男よりも君を気持ちよくしてやりたいと、競争心を煽られる」

 俺の挑戦的な言葉にヴァンは笑う。


「はは、面白い感想だ。君も思っていたよりずっと手慣れてる……悪い男だな。だが、キスも触れ方もすごく気持ちがいい」

 そう言うと、ヴァンは俺の服を脱がせて胸をするりと撫でた。

 ヴァンの指先は暖かくて心地よい。




 互いに一糸纏わぬ姿となり、旅の途中ということもあったので洗浄魔法で身体を綺麗にした。


 それから俺は指先に魔力を集中させ、生成魔法で指先にとろりとした潤滑液を纏わせる。



 皆様、ご覧あれ。

 この世界の叡智を!



 生成魔法は詠唱者が任意の成分構成で少量の液体をその場に生成することができる。

 こういった場で紳士淑女の誰もが嗜む簡易魔法だ。


 生成が得意な者は、構成成分に高品質な油分を練ったり、香りを加味したり、微量の催淫成分を混ぜ込んだりする。

 言ってしまえば、情事が上手い奴は生成魔法も上手い。


 この生成魔法、そして先程の洗浄魔法のおかげで。

 俺はいついかなる時に良い男と出会おうと、そこから先の展開に躊躇なく足を……いや一物を踏み入れることができるのだ。


 ありがとう魔法!ありがとう異世界!


 俺は指に潤滑液を纏わせて、ヴァンの股の奥に指を忍ばせる。

 割れ目の先にある窄まりをそっと指で撫でると、ヴァンの腰がひくりと跳ねた。


「グ、レイ……君の生成魔法は、暖かくて気持ちがいい……」

 俺の指を感じながら、吐息とともにヴァンは目を細めた。


 少しずつ周囲を押し込むように刺激し、濡れた指先をつぷと入れると、ヴァンの内側は待ち侘びたように疼いた。

 指を奥へと進めると、熱い内壁が吸いつく。

 ゆるゆると抜き差しをしているうちに、ヴァンの後ろは柔らかく解れだした。


 後ろを慣らすのと同時に。俺はヴァンの胸に舌を這わせ、突起を転がすように舐めてはたまに吸い上げる。

「……んぅ、……そこ、は……っ、あっ……」

 どうやら胸はくすぐったいらしい。


 指と舌で刺激を与えるたびにヴァンは喘ぎ、淫らに身を捩らせた。




 俺が後ろを丁寧に解し、ヴァンの顔も身体も蕩けきった頃。

「グ、レイ……もう、ほしい……」

 ヴァンが甘えた声音で懇願してきた。


「……ん。俺も結構、限界。ヴァンの中に入りたい」

 俺のものも十分過ぎるほど、昂り漲っていた。

 ヴァンの身体に割って入り、自分のそれを解した窄みに押し当てる。

 俺はゆっくりとヴァンの中に腰を進めた。


「……っ……、んぅ……」

 ヴァンは一瞬下腹部に力を込めたが、緩やかに息を吐きながら俺を受け入れはじめる。


「……ぁあー、……ヴァンの中……気持ち、よすぎる……」

 思わず俺も声が漏れる。


 全部持っていかれそう。

 即座に達してしまいそう。

 そう感じながらも繋がる快楽に溺れたくて、腰を揺らしながら奥へ奥へと進む。


「……っ……ん、……ふ……ぁっ」

 ヴァンは抽挿にあわせ、快感に身を委ねている。


 奥底の官能を引き出すように、俺が身体を大きく動かしていくと、それにあわせてヴァンは甘い嬌声とともに乱れていく。

 与えられる快感が大きくなると、ヴァンは背中に広がる毛布を掴み、俺の動きを腰で受け止めはじめた。


 俺はそんなヴァンの膝裏を抱え奥まで突き上げ、さらに快楽を膨らませていく。


「……あっ、んぁっ……グ、レイ……っあ」


「……っ、……ヴァン、っ……」

 互いに名前を呼ぶと中がきゅう、と締まり甘く痺れる。


 たまらなく気持ちがいい。


 俺は改めてヴァンを見下ろす。

 滑らかで均整のとれた身体、完璧なまでの造形美を讃えた美貌。汗ばんだ額に溢れる前髪から覗く、潤んだ琥珀の瞳。

 そんな美しい男が俺の下で、情欲に支配された面持ちで快楽に溺れている。


 目の前に広がる鮮烈な光景と絶え間ない快楽の刺激に、俺の脳は蕩け出す寸前だ。


 互いの快楽が登りつめていることを感じ、俺はぐっと身体を前へ傾けた。

 乱れた息遣いを感じられるほどの距離で視線を交わし、さらに深く繋がろうとしたところで。


 俺は驚いて動きを止めた。

 ヴァンの瞳から涙が零れていたからだ。


「……どうしたんだ、ヴァン?」

 俺の言葉に、ヴァンはびくりと瞼を震わせ顔を上げた。

 涙に濡れた琥珀の瞳と視線が絡む。


「……、……違う。違うんだ」

 どことなく慌てた様子で、ヴァンはそう口走った。


「グレイ。君への拒絶や、行為への抵抗とかじゃ、ない」

 慌てたのは俺への気遣いか。


「ちょっと驚いた、だけなんだ。

 ……その、君の気持ちが、触れ方が。あまりにも心地よくて」

 しどろもどろにヴァンは言葉を絞り出すと、ぐいと強引に俺の首を引き寄せた。

 泣き顔をみられたのが恥ずかしかったのか、視線をあわせず俺の唇を甘噛みする。


 正直訳が分からず、されるがままに唇を噛まれ続ける俺。

 俺からしてみれば、ただただ好意と行為を泣くほど賞賛されたワケなのだが。


 ……いや、もう、かわいすぎでしょ。

 かわいいの過剰摂取で、俺どうかなりそう。


「泣いてる顔もかわいいな、ヴァン」

 俺は微笑んだ唇で涙を拭うと、ヴァンの耳を優しく喰む。

「最高に気持ちよくする」

 そう囁いて。


 先程までより深く激しく奥を突いた。

 動きを速めて一気に煽り、ヴァンの呼吸を乱す。


「……え、あっ、グレ、イ待っ……!あっ、んっ……!」

 突然深く激しくなった律動に、ヴァンは身体を逸らして身悶えた。


 ヴァンの涙を散らしながら背中を掻いて縋る姿に、俺はさらに煽られる。

 穿ち続ける俺のそれはより硬度と体積を増し、ヴァンの中を無遠慮に満たしていく。

「あっんっ、あぁっ……!グ、レイ、もっ、うっ……!」


「……っ、ヴァン……っく……っ!」

 快楽の絶頂を感じ、ヴァンの太腿をぐいと押し上げ、最奥に強く突き立てた。


 ヴァンはその一際強い刺激に爪先まで悶え、腰を震わせて身体をのけぞらせる。


「……っぁ!」


 俺は熱く蕩けたヴァンの中から抜き出し、膨れ上がった快楽とともに白濁を放った。

 ヴァンもほぼ同時に達したようで、震えながら白濁を放つ。


 ヴァンの均整の取れた腹筋の隆起にふたりの白濁がぱたぱたと飛ぶ。

 とろりと溜まったふたりの精は緩やかに混じり合い、ヴァンのへそから脇へと滴り落ちた。



+++++



 互いに達した後。

 俺はヴァンの傍に倒れ込み、ヴァンは俺にぴたりと寄り添ったまま、吐精の充足感に満たされ荒い呼吸を整えていた。


「……平気か、ヴァン?」

 俺は息を整えながら、少し顔を起こす。


「……ん」

 ヴァンは俺の胸に顔を埋めたまま、吐息だけで答えた。

 絹のような髪を緩やかに撫でると、ヴァンは少しだけ顔を離して俺を見上げる。


 何も言わないが、その顔と態度はあまりに雄弁にヴァンの心を語っていた。


 情事の直後だからかヴァンの頬は紅潮したまま。

 事後特有の官能に支配された淫らな顔と潤んだ琥珀の瞳はどこまでも扇状的で。

 そんな危うげな顔で、身体も心も許しきったような態度で俺を見上げたり、甘えるように胸を啄んだりしているのだ。


 ……何て言うか、出会ったばかりの相手にする顔じゃないと思う。

 恐ろしい破壊力だ。


 そんなヴァンにばっちり反応し、即座に猛りをとりもどしてしまう俺。


「……なんで、また。そんなことになってるんだグレイ」

 ヴァンが俺の腰に視線を落とす。


「いや、だって。そんな顔でそういうことされたら。そりゃ、ね……」

 正直に言って、みるみる昂る俺の一物を眺めるヴァンの腰に、誘うように手を回した。


「まったく君は。……でも私ももっと、君が欲しい」

 ヴァンは呆れ気味な声でそう囁くと、俺の首に手を回し、応えるように口づけてきた。




 ヴァンの瞳はまだ少し涙が残っていた。

 その潤んだ瞳は仄かに照らす焚き火に揺らめいて、暖かくも美しい。


 この後も俺とヴァンは言葉を交わし、熱を交わし、長い一夜を過ごした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る