異世界転移してみたら、いきなり賞金首になっていた件

阿部祐士

第一章 異世界転移してみれば賞金首になっていた

第1話 異世界転移

「ラーメン一人前、焼きそば二人前、お待ち!」

 九十九里浜のビーチに建てられた海の家「九十九つくも亭」に中年男性店長の威勢のいい掛け声が響く。

「ハ、ハイ店長、今取りに行きます」

 高校二年生の高橋海斗は、幼なじみで同学年の桜井結衣と夏休みの間、海の家でアルバイトをしていた。結衣は滞りなく客の注文を復唱する。

「ご注文を繰り返します。カレーライス二人前、おでん一人前、かき氷が一つでよろしいでしょうか?」

 そつなくこなす結衣に対して、海斗は配膳をしながら、伝票をもってレジに向かって歩く男女二人組に

「少々お待ち下さい。た、ただいま会計に伺います」

と少々ドタバタしている。

 逆に言うと、それぐらい九十九亭は繁盛しているということだ。


「お客さんも減ってきたから、二人とも休憩に入っていいよ」

 店長からそう言われて、海斗はやれやれようやく休めると思った。

「結衣に誘われて働きに来たけど、普段から海の家ってこんなに忙しいの?」

「まあ今日はさすがに忙しい方だと思うけど、これぐらい普通よ」

 立ちっぱなし、歩きっぱなしでくたくたの海斗には、結衣の返しは少々手厳しい言葉だった。

「少し砂浜を歩かない?」

 疲れていて、俺はいいと言いたいところだが、せっかくの結衣からのお誘いを断ると後が面倒そうな気がして、海斗は一緒に歩くことにした。

「今日は波が高いね」

「そうね」

と答えた後、海を見ていた結衣の表情が変わった。

「あれ、もしかしたら溺れているんじゃない?」

 確かに少し沖の方で明らかに泳いでいるのではなく、水面から顔を出そうとして両手で水を叩く動作をしている子供らしき姿が見えた。

「今すぐ、ライフセーバーの人を呼びに行こう!!」

 海斗は焦ってつばをとばしながら叫んだ。が、結衣は冷静に

「それじゃあ、間に合わないよ。私は浮き輪を持って、あの子のところまで泳いでいく。海斗はライフセーバーを呼んできて」

と言い放った。

 海斗は沖まで泳いでいくと言う結衣に不安を覚えて、ライフセーバーに任せた方がいい、と喉のところまで出かかったが、結衣の強い語気に気圧けおされてそれ以上何も言えなくなった。確かに一分一秒を争う事態だ。

「わかった。結衣はくれぐれも無理はしないで」

「わかってる。お互い早く行きましょう」

 結衣はそう言い残すと、浮き輪のある九十九亭の方へ駆けていった。泳げない海斗は周りを見渡した。が、ライフセーバーは視界に入ってこなかった。そのためビーチを歩いている人にライフセーバーを見かけなかったかを聞きながら、ライフセーバーを探し始めた。


「すみません、溺れている子がいるんです!」

 海斗はようやく監視タワーで海を見渡しているライフセーバーを見つけて、大声で助けを求めた。

「場所はどこです?」

「こっちです」

 海斗は今来た方向を指さして、ライフセーバーを連れて走り始めた。


 溺れている子を見かけた場所まで戻ってくると、母親らしき人に抱きついて小学生低学年ぐらいの男の子が泣いている。そして次の瞬間、視界に入ってきたものを見て、海斗の顔は真っ青になった。砂浜に仰向けに倒れている結衣に対して、海パンに黄色いユニフォームを着た他のライフセーバーらしき人が、両手で胸骨圧迫を繰り返し心肺蘇生を行っていた。そして、

「誰かAEDを持ってきて。それと119番通報をして!」

と怒鳴っている。

「わかった、僕はAEDを持ってくる」、

 連れてきたライフセーバーは、海斗に向き直って言った。

「君は119番通報を頼む」

 連れてきたライフセーバーの人にそう言われると、海斗は携帯電話を取りに九十九亭に走り出した、その時である。走っている海斗の足下の砂浜に魔法陣らしきものが現われるとそれまで見えていた砂浜の景色は一転して、海斗の目の前は真っ暗になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る