俺の未練

 狼狽える俺を貫く、真っ直ぐな瞳。

 一ミリたりとも逸れることはない。

 それは、芯の強いの揺らがぬ決意と同様に。

 だから、別れを受け入れた。


 とある想いを秘めていただけに、心の傷は深い。

 誤魔化すように仕事に没頭する。

 残業を終え、帰宅。

 部屋に光は要らない。

 見渡したくない。

 の気配を探してしまうから。

 暗がりの中でスマホだけが点灯。

 発泡酒を一気に煽り、やめた煙草に火をつける。

 あぁ、何もかもがくそ不味い。

 それでも。

 張りつめた糸は、いつかは切らねばならない。



「ドロドロに眠るまで、仕事をするな!」

 物静かな奴が、らしくなく声を荒げて叱る。


「いま持論を展開しないでどうするの?」

 飄々とした奴が、らしくなく神妙に説教する。


 俺が編み出した――と言うほどの話でもないが――『溜め込む前に吐き出せ』理論。


 幼馴染みからの叱咤で、ようやく涙が溢れる。

 つらい。

 つらいな。

 つらいよ……。



 情けない、女々しい、みっともない。

 好きなだけ言うがいい。

 男だって泣くんです。


 きみと過ごした時間が、抱きあった温もりが、見つめあった眼差しが、それだけ大切で、いとおしくて、かけがえのないものだったという証拠だろう。


 そして、こんな時でも腹は減る。

 やっと泣けたのに、もう少し浸らせてくれよ。

 まぁ、生きてるからしょうがないか。


 どうせ、死ぬまで心の奥底に住まう、面影。

 ならば、今こそ顔を洗ってサッパリして、一歩を踏み出すとするか。

 

 まずは、腹ごなしだな。

 ―――って、外、すげー雨。

 いたっ、雹まで降ってんじゃん、マジかよ!

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