アメロスタのスキームガール
北木事 鳴夜見
第1話 ムスク・レモネード
目が覚めた。ワンルームの部屋が冷え切っているのにも関わらず、レモネードはブランケットや服を着ていなかった。生まれつきレモネードは体温が高かった。その意味はすぐにわかった。他の人には見えないものが見える。ただそれだけだったのは子供の時だけだった。面倒ごとに巻き込まれることが多いのは今も昔も変わらない。
一度だけ宣教師の男たちが両親と話しているのを見たことがある。とても暗いムードだった、そして両親はその二年後に交通事故で死んだ。あのとき両親と話していた宣教師たちには自分と同じものを感じた。だけど両親にはそれを感じなかった。
部屋にはソファーとテーブルがあり、なぜか回り回って自分のものになったモノクロのテレビがあった。レモネードはテーブルの上にある脱ぎ捨てられた青のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。取り出した身分証明書を見る、ムスク・レモネード。両親の名前とは全く違う独特な名前。今の職業は探偵。
もう一つの名前。両親たちの遺体を警察署で見た後、宣教師たちに連れて行かれそうになったがうまく逃げ切れた、そして名前を失った。仕方がないことだった。テレビのリモコンを手に持った時に外で霊の気配がした。
「稼ぎどきかな」
構うことなくレモネード(以降レモネ)はテレビの電源をオンにした。七三分けのメガネがニコニコと笑いながらニュース原稿を読んでいる。W.L.V.AMELOSTA「ワールドライブ「ヴェガジーノ」アメロスタ。このテレビ局の放送が途絶えることはないのでレモネードはこのチャンネルの番組しか見ていない。
「1961年12月20日、ヨーロン地方各地で国の王子の生誕を祝う生誕祭が開催されるとのことで、今回はゲストを迎えております。ヨーロン地方でベルリの戦争を経験した、世界を股にかける占い師、アステカ・アロウさんをお呼びしております!アロウさん、こんばんは!あなたはヨーロンに六人も姉妹がいるとのことですが…」
レモネは服を着る前にジーンズのもう片方のポケットから財布を取り出した。茶色い財布がジャラリとコインの音を立てた。
「30ドルか。その辺のクズが襲われているなら、金を巻き上げるしかないかな」
テレビの電源をつけっぱなしにしたまま、服を着た。外は静まり返っている。時間の感覚が曖昧になっているレモネでも現在の時刻はわかっていた。午前三時。
部屋も家具も全て仕事で手に入れた。問題は蓄財するような暮らしができていないことだった。特に贅沢はしていないのだが。稼ぐために多くの香水とカロリーが必要だった。レモネは冷蔵庫を開けた。朝は部屋の前にあるパン屋が売っている岩みたいなパンを食べる。最安値のレギュラーメニューだということも相まって小麦粉と水以外の素材感を感じないのだがレモネはそれを気に入っていた。
姿見を見たレモネは自分の姿を見ながらムシャムシャとパンを齧った。ジーンズにしわしわの白いカッターシャツを着たレモネは緩くウェーブのかかったブロンドの髪を撫でた。香水を拡散する用のカーボンのような素材のグローブと宣教師の連中たちが使っている銀銃を手に取った。ジーンズのベルトは銃がしまえるホルダーがついていた。身長は175センチで大きいとも小さいとも言えないし、顔もそれにある鼻も口も目も、大きいとも小さいとも言えなかった。要は普通なのだ。飲み物やファッションブランドのポスターに載っている有名人には一歩及ばないと言ったところだ。太くも細くもない体型ではあるが街で売っている服は大体着れる。
「霊の気配は小さい、問題はいつものフライドチキン野郎にしては大きいのが嫌な感じがする」
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