第25話 砂漠に辿り着く



「出発しますぅ」


 温かい朝日を背に浴びる中、ワイバーンの背に乗った俺たちはボタンの掛け声によって空の旅を始めた。

 天気は良好、風も穏やか。昨日のうちにワイバーンの背中にシーツを設置しているので乗り心地も悪くない。荷物はワイバーンが足で掴んでいる。


「なぁ、お前たちはどこに向かっているんだ?」


 ある時、コンゴウがそんなことを聞いてきた。


「私も西に行くという以外は聞いてないですぅ」


 ボタンが言い、二人の視線が俺に刺さる。


 これは答えておかないとダメだな。


「砂漠に行こうかと」


「砂漠?」


「ですかぁ」


「チエ、わざわざ砂漠に行く理由はなんだ? 空を飛べる以上、もっといい環境を目指してもいいはずだ」


「ですぅ。食べ物が沢山ある、南国を目指してもいいかとぉ」


「わかってる。けど、砂漠なら住んでいる人間は少ないし、過酷な環境だからこそ、外部から大軍で襲いに来ることもない。身の安全を考えた結果だよ」


「……この世界の造船技術が如何いかほどかはわからないが、南の島も似たようなものだと思うがな」


「私もそう思いますぅ。砂漠は水も食べ物も少ないですし、花が干乾びてしまいますぅ」


 ボタン、お前から離れる為に決めたんだよ。


「無理に付いて来いとは言わない。砂漠に到着したら私だけ降りて、二人で楽園を探す旅をするといいよ」


「わかりましたぁ」


 よしよし。

 ボタンは素直で俺は嬉しいよ。

 コンゴウは黙ったからどうするのかわからないけど、まぁ、付いて来たら砂漠のど真ん中ではぐれたふりをして、【不思議の国】で隠れて放置すればいいか。


 それから俺たちは適度に休憩し、たまに魔物や旅人を襲いながら何日も掛けて西へ西へと進み続けた。







 どれだけ飛んだかわからなくなった頃、巨大な山脈を越えてすぐ、一際目立つ土地が視界に入った。


「――見つけた」


 ついに見つけた! 砂漠だ!


 陽炎かげろうが漂い、波のような砂丘がどこまでも続いている大砂漠だ。


「ボタン、コンゴウ、見て!」


「砂漠ですねぇ」


「ようやく到着したか」


 興奮して自分の尻尾が激しく振られているのがわかる。

 ワイバーンが砂漠に突入すると、カラッとした熱気が空の上からでも感じられる。日中のよく晴れた空のお陰で見晴らしは凄くいい。


 ――お?

 あれって……オアシスか?


 山脈のふもとの盆地に、木々が生えて緑の絨毯があり、日差しを反射してキラキラと光る巨大な湖があった。


「ボタン、あそこ行こう」


「オアシスですねぇ。わかりましたぁ」


 指させば、ボタンも見えていたのかワイバーンを即座に方向転換させた。

 近づけばそれが蜃気楼しんきろうの類ではなく、本物であることがわかった。


「……思ったより大きくない? これ」


「ですねぇ」


「街や集落もない。恐らく未開のオアシスだろう」


 マジ?

 国の首都が作られるレベルの巨大なオアシスなんだけどな。


「降りてみよっか」


「はいぃ」


 ワイバーンを湖のほとりに着地させ、背中から飛び降りる。足元はしっかり根付いた芝生が生えていて、湖に近づけば底までしっかりと見える透明度があった。


 さてさて、飲める水かな?


 毒の可能性もあるので、手で水をすくって一口飲んでみた。


 あっ、美味しい。普通の水だ。


「水は大丈夫。飲めるよ。あれ? ボタンは?」


 振り返ったらワイバーンとボタンが見当たらない。


「ボタンなら、あっちにいる」


「あっ、本当だ」


 コンゴウが指さした先、ボタンがワイバーンの頭の上に乗ってヤシの木っぽいものから、小さな実をもいではパクパク食べていた。

 俺とコンゴウの二人で近づき、声を掛ける。


「ボタン、それ美味しい?」


「美味しいですぅ。黒蜜に似た味でねっとりした食感ですぅ」


 ほう、それは美味しそう。


「一つちょーだい」


「俺も一つ」


「どうぞぉ」


 ボタンが実をもぐと、それを投げて渡してくれる。

 丁度良い位置に落ちてくるので、直接口でぱくり。


 あまぁーーーい!

 味も確かに黒蜜みたいでねっとりした食感。

 甘いものはそこまで好きじゃないのに、何故か美味しく感じるし。体が女性だからか?


「コンゴウ、どう?」


「甘すぎるな。たまに食べるくらいならいいが、毎日はきつい」


「そっか」


 VRゲーム内の性別の違いで味覚まで変わるのは初めてだ。やっぱりこれ、本当にゲームなのか?

 ……まぁいいか。調べようがないし。

 それよりも二人に言うことがある。


「ボタン、コンゴウ、今までありがとう。私はここに住むから、楽園探し頑張ってね」


「ではぁ、私はここに楽園を作りますねぇ」


「俺も手伝おう」


「……え? なんでそういう発想になるの?」


 俺はお前らと別れたいんだけど?


 横にいたコンゴウが俺の肩に手を置いた。


「諦めろ。ボタンも俺も、少し前にお前と一緒にいるって決めたんだ」


 はぁっ!?


「なんで?」


「俺は恩を返す為。ボタンはお前のことが気に入ったんだと」


 …………殺すか?

 いやでも、好意を向けられているだけなら利用すればいいだけか。ボタンが恐ろしいから警戒は必要だけど。


「……わかったよ。私は好きにする。君たちも好きにするといい」


「はいぃ、好きにしますぅ。まずは農園を作りますねぇ」


「なら俺は、寝泊まりする為の家でも建てよう」


 二人は好きに動き出した。


「どうしてこうなった?」


 呟くが、その疑問に答えてくれる人はいない。


「散歩しよ」


 気分転換と周辺の探索を兼ねて、俺は動いた。


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