第3話
前世での私はただのしがないOL。もしもユウトの言動を怪しいと感じたところで、わざわざ調査会社に大金を払って簡単に調べてもらったりはできない。(しようとも思わなかったけど)
けれど今の私は貴族家の令嬢。それなりにお金は持っているし、私のために動いてくれる使用人だっている。
「煩わせてごめんなさいね、サム。絶対にお父様やお母様には言わないで」
「お任せください、お嬢様」
人づてに頼んでジェイコブ・チェンバレン伯爵令息のことを調べたところ……、まぁ驚くほどの素行の悪さが明らかになった。
まず、前回の婚約が破談になっているのは、相手方の重い病が原因などではなかった。ジェイコブの度重なる浮気やそれに付随する揉め事、その他金遣いの荒さや周囲の人々からの評判の悪さなどの様々な欠点が理由で、チェンバレン伯爵家側の有責で婚約を解消されていた。このことを隠したまま我がブランベル子爵家との婚約を結んだのだから、一家でたちが悪い。しかもジェイコブには今現在も深い付き合いのある女性たちがいることが分かった。相手はいずれも平民だ。
(生まれ変わって別人になっているはずなのに……。不思議だわ。人間性って変わらないのかしら。やっぱり嫌だ、あんな男と結婚するなんて……!)
私は調査の結果を持って、両親に訴えかけた。
「ご覧ください!お父様、お母様!あの人、まともな殿方ではございませんわ。チェンバレン伯爵家だって、前回の婚約が解消された理由をきちんとこちらに説明するべきだったのに、嘘をついて私たちを騙しているのですよ。とてもこの結婚が良縁だとは思えませんわ。お断りしましょう!お父様!ね?!」
「……何と……」
父も母も、驚愕の表情を浮かべ私の差し出した調査結果の書類を見ていた。
数日後、父はチェンバレン伯爵家に出向き話し合いの席についた。てっきりその場で婚約が解消されるものだと思っていたのに、日が暮れた頃、父はチェンバレン伯爵とジェイコブを伴って我が家に帰ってきた。
「リディア嬢……、愚息のこれまでの悪さについて、許してはもらえないだろうか。愚息もこの通り、心から反省しておる。あなたと添い遂げたいと。これからの結婚生活であなたに誠意を見せ、あなたの信頼を得たいとそう申しておるのだ」
「リディアさん、悪かったよ。まさか君がわざわざ調べ上げたりするなんて……、……いや、それはいいんだ。な?これまでの俺と、これからの俺は違う。どうか寛大な心で、俺の過去については忘れてくれないか。な?」
父について来た二人は私の前でしおらしく謝罪を始める。父に視線を送ってみたけれど、肩を竦めるだけだった。
「……まぁ、お二人がこう言っておられるのだから、水に流さないか。リディア」
(お父様ったら……!どうしてもチェンバレン伯爵家との繋がりを断ちたくないのでしょう?!これを逃したら、私にはもうろくな縁談が回ってこないと思ってるものだから……)
「……ですがジェイコブ様。調べさせていただいたところによると、あなた様は今現在も複数の平民の女性と関係をお持ちのようでしたが」
「っ!!いやっ、それは、行き違いだ。ちょうど君との縁談が決まって、全て精算したところなのだから。な?俺を信じておくれ」
「…………。」
馬鹿馬鹿しい。誰が信じるものですか。
もう私はあんたには騙されないわよ。絶対にね!!
でも結局、両家の親はこの結婚を変わらず望んでおり、私とジェイコブの縁談が破談になることはなかった。
その代わりに私は「こんなに重大な隠し事をしていたのだから、あなたを完全に信頼できるようになるまでは白い結婚を貫かせていただく」と両家の親の前で彼にそう宣言したのだった。
そして数ヶ月後。
不本意にも、私はユウトの生まれ変わりであるこのジェイコブと夫婦になってしまった。彼は相変わらず私のことを思い出す気配もない。私は宣言通り、我がブランベル子爵邸に居住を移したジェイコブを自分の私室から一番遠い部屋に住まわせ、指一本触れさせはしなかった。
両親はそのうちほとぼりが冷めるとでも思っているのか、私の決定に口を出すことはしなかった。
(絶対に白い結婚を貫いたまま離婚してやる。今度はこっちから、盛大に振ってやるわ!)
こんな男のことだ。どうせそのうちに尻尾を出すに決まってる。焦らずに、向こうが何かやらかすのをじっくり待っていればいい。そう思った。
そして案の定、ジェイコブはすぐに失態を犯しはじめた。
まず第一に、彼は仕事が何もできなかった。ブランベル子爵家に婿入りしてから我が領地の仕事について父がじっくり教えても、いつまで経っても何一つまともに覚えはしない。結局今まで通り父と私で運営していくしかなく、この結婚から半年後には父もすでにジェイコブに対して不審感を持っていた。
さらに、女性関係。脳みそをどこかに置いてきてしまっているのではないかと思うほどに、ジェイコブは性懲りもなく以前と同様に遊び歩いていた。あんな風に目の前に調査結果を叩きつけられ両親にさんざん怒られているはずなのに、彼は相も変わらず複数の女の家を行ったり来たりしていた。まだ自分の行動を監視されているかもしれないとは、微塵も考えないのだろうか。
そしてそのうち、彼の遊び相手である平民の女性の一人が、彼の子どもを身ごもった。
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