現実

 その数日後、本格的に大会に向けての話をするために、学はニエモが所属しているという大学に来ていた。大学の入口近くにある建物の前でニエモと落ち合う。

「最初にやることは、学君の体力を伸ばすことです。」

 ニエモが言った。学も懸念をしていたことだ。バスケを辞めてから一年以上経っており、各国のトップ選手が集まる大会で通用するレベルではない自覚があった。

「最初の一ヶ月は家を離れて合宿という形でトレーニングをしてもらいます。」

 祥子とニエモが練習の詳細を話していたときに、この話題も出ていたので学は驚かなかった。聞けば、最初は他のチームメートとも会わずに、学だけが基礎トレーニングをするらしい。

「他のチームメートは現役のバスケ選手なので、学君とは状況が違います。まずは、チームメイトに追いつくところからです。」ニエモの言葉に、学は覚悟を決めた。

「合宿に行く前に今日はやって欲しいことがあります。この大学にはトレーニング施設があるので、まずはそこで身体測定をしましょう」

 ニエモに連れられた先はトレーニングルームの様な場所だった。広々とした空間に様々なマシンや、ベンチ、バーベルが置いてあり、壮大な光景だった。学が見惚れていると後ろから声をかけられた。

「お、その子が噂の子かな」それを聞いたニエモが返事をする「そうですね、稲盛先生。今日はよろしくお願いします。」

 学が後ろを見ると、そこには筋骨隆々の壮年の男性が立っていた。稲盛と呼ばれた男性は学に対して自己紹介をする。

「始めまして、ここで教授兼トレーナーをしている稲盛です。大会までの練習のサポートもすることになっているから、よろしくね。」

 学も丁寧に自己紹介を返すが、同時に緊張する。ニエモと親しそうな様子から、稲盛が人間なのかと疑ったからだ。

「ああ、もしかして僕がメナ星人かもしれないと思ってる?」学の怪訝そうな顔に気づいた稲盛が笑って言う。学はその言葉で動揺が顔に出てしまう。

「彼はヒトですよ、メナ星人はそんなに地球に来ていません。私とイタミ以外のメナ星人と会う機会は、まあしばらく無いでしょう」ニエモが補足をしてくれた。

「いやでも、気持ちはわかるよ。僕もニエモがメナ星人だと聞いたときは驚いた。」

 稲盛はそう言って笑った。聞けば、政治代理スポーツ大会に協力してもらうために、ニエモが事情を明かしてたらしい。

「自分のゼミの生徒が、メナ星人だって言われて最初は冗談かと思ったんだけどね」

 その後は稲盛のサポートの元で、身長体重だけで無く、ウイングスパン(両腕の長さ)、ベンチプレス、ハーフコート走とバスケの基本項目を測定をした。結果をみた稲盛はすこし難しい顔をしている。

「部活を辞めてから一年くらいだっけ。トレーニングしていない高校生としては悪くないけど、アジアのトップ層と戦うなら結構頑張らないといけないね。あと三ヶ月でどれだけ伸ばせるか…」

 稲盛が悩む様に言う。学は覚悟はしていたが、現実を突きつけられた気分になる

「稲盛さん、深視力も測りましょう」

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