いずれ死ぬ悪役に転生したけど、生きて人生を謳歌してやる

蒼月龍華

001.前世の記憶を思い出した妖精


 故郷が、家が、燃えている。


 血塗れで倒れている同胞たち。


 美しかった聖地は、まるで地獄のよう。


「ゆるさない……絶対に許さないッ……!!」


 あの日、唯一生き残った妖精は、人間への復讐を誓った。





.




「――夢、か……」

 目が覚めた。

 あれは、まだ前世の記憶を思い出していない頃の私だ。


 ふと、部屋にあった鏡を見る。そこに映るのは今の自分の姿。

 ゆるやかにウェーブがかった赤髪のボブヘア。ルビーのような瞳。白い肌。中性的で美しい顔立ち。

 それから――尖った耳。背中から生えている蝶のような羽。

「(うん。人間だったのは前世のことで、今の自分は妖精だよね)」

 私の名前は、シエンナ・ヴァネッサ。

 種族は妖精で、魔王軍・幹部兼ダンジョンマスター。

 そして、――前世に読んでいた漫画『ガーディアン』に登場する悪役キャラクターだ。


 数日前、私は前世の記憶を思い出した。

 こことは違う世界で暮らす、平凡な人間の人生。だけど、それなりに楽しかったはず。

 最期は、交通事故であっけなく死んだ。

 まだまだ生きる気満々だったんだけど。まあ、死んでしまったものはしょうがない。転生できたんだから、良しとしよう。

 それよりも、問題がある。

 私――シエンナ・ヴァネッサは、いずれ死ぬ悪役キャラクターだ。

 〝前世の記憶〟というのが私の妄想じゃなければ……このままだと、いずれ死んでしまう。――主人公たちに倒されて。

「(せっかく生まれ変われたのに……死にたくない)」

 前世みたいにあっけなく死ぬのは嫌。だから、思い出せて良かった。

「(でも……どうせなら、もっと早く思い出せてれば良かったのに……)」

 そしたら、あの忌々しい過去を変えられたんだろうか。


 この世界には、魔族という種族がいて、人間と争っている。ただし、先に手を出してきたのは人間の方だ。

 人間にとって、魔族と妖精はそう変わらない存在なんだろう。人間たちが妖精を襲った理由は、大きな力を持った存在を恐れたから。それは人間が魔族に争いを仕掛けた理由と同じだ。

 人間にも魔族にも属さず、私たち妖精は聖地[ユグドラシル]という土地へ隠れ住んでいたが、人間たちに何もかも壊され、奪われたのだ。おそらく生き残った妖精は私だけ。

 [ユグドラシル]へ住めなくなってからは、魔族が暮らしている[ティアロスト]という国へ行った。魔族は私の存在に驚いていたが受け入れてくれた。

 そして、私は自ら魔王軍に入って、魔族側へ協力している。


 前世の記憶を思い出したところで、私の気持ちはそう変わらない。

 人間たちに復讐してやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いずれ死ぬ悪役に転生したけど、生きて人生を謳歌してやる 蒼月龍華 @ringo16322

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ