悪魔くんのお気に入り3

ぺるも

○○ノ章~雨梅雨ノ一時~

第1話

「ほんと――君はいつも早起きだね!」


「悪魔に睡眠という概念がいねんは無い」




 朝っぱらから熱心に庭の掃き掃除をしている少女が、俺に敵意のひとつも見せずいつものように無邪気に微笑むものだから、なんだか調子が狂わされてしまう。

 毎日の掃除でゴミのひとつも落ちてなどいないというのに、同じ所をずっと掃き続ける。それに何の意味があるのだろう。



 彼女は俺の目の前数歩までやって来て、ピタリと足を止めると、屈託くったくのない笑みを浮かべて見上げてきた。



「ごめん――君。霊力はきつくない?」


「……いや、平気。お前、いつも俺の側に来る時にはなるべく抑えてくれてるから」


「そう? 良かった。もしきつかったらちゃんと言ってね! 私ももっと力を抑える能力を高める努力をするから」




 彼女はここで生まれ育った霊力の持ち主で、この近辺ではかなり有能な人間であるが故に、その力を苦手とする悪魔である俺には、一緒に居ることすらはばかられるような存在だ。

 彼女の持つ霊力に長く触れる事は、悪魔にとっては毒を浴び続けているような自殺行為である。



 しかし……力のある彼女は、自身の力で霊力の放出を一時的に抑える事が出来る。

 勿論、あふれる霊力を完全に抑えきる事は叶わないが、悪魔である俺が至近距離で近付いても全く苦にならない程度には出来る。



「今日は――君ひとりで来たの?」


「……なんだ、俺一人じゃ不服かよ」


「全然、そんなことないよ。いつも不貞腐れて付いて来ていたように見えたし、嫌々だったんじゃないかって思ってたから、むしろ嬉しいよ」


「……そうか」



 彼女の楽しそうな笑みに、お世辞せじの色はうかがえ無かった。俺も知らず内に口角が上がっていたのか、彼女は魅力的すぎる二重ふたえの瞳を真ん丸にさせて驚いていた。



「やだ! ――君、笑った方が素敵よ」


「……ちっ、うるせぇよ」


「えー? もう一回笑ってくれない? あと一度で良いから」


「下らない……もうやるかよ阿呆あほうが」



 えぇ残念、と言いつつ先程よりも軽快に笑った彼女の微笑みはとても綺麗だった。朝焼けの光が天女のような姿の彼女を優しく照らしていた。



 俺は少なくともこの瞬間だけは、人間と悪魔がいつか共に暮らしていく未来を想像していた。

 ――どうしたって人間と悪魔は相容あいいれない事は分かっていたというのに。




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