恋≒青春?
雨時々晴れ時々カミナリ注意報!?
第33話 お勉強しましょ!
今日は、ここ最近で1番暑い。日差しこそ弱まっている放課後なのに、暑さが昼間とあまり変わらないってどうなの。
「勉強!!!」
ぎゃっ!!
ジワジワと平均気温が上がってきている6月末の月曜日。
突然派手な音と共に机を叩かれ、梅雨の晴れ間の空をぼんやり見ていた稜汰君は頬杖をついていた顎先をチラリと窺うように上げた。机を叩いた真澄君に先を促すように小首を傾げる。その机に浅く腰かけていた保君が、迷惑そうに顔を歪めた。
私はといえば、薫君の化学の教科書のイオンがどうだとかいう文章に蛍光ペンで線を引いているところだった。
あ、危ない危ない。飛び上がった勢いのまま線を伸ばしそうになった。
ちなみに、鉢引さんの席に座っていた薫君はゆっくり私の手元から目を上げ、驚いた様子もなく真澄君を見つめた。
真澄君はふわふわした髪を耳にかけながら、呆れたように腕組みをする。
「あのさ、もう7月になるんだよ。何か忘れてるんじゃない?」
「あ、そうだそうだ。もうすぐ夏休みだな」
最近暑くなってきたよなー、と稜汰君が手で自分をぱたぱた扇ぎながら返事をした。眉根を寄せて首を回しながら保君が低い声で呟く。
「デケェ声出すんじゃねぇ真澄。昨日の苗植えで疲れてんだよ」
そうだね、私も昨日の過酷な農家のさつまいも苗植えボランティアのせいで体中が痛い。
いくつかのボランティア団体が参加していて白蓮高校の人たちも来てたから、豊条さんと鮎川先輩に火がつき、苗植え合戦へと発展。スピードと出来映えを競った。
ちなみに結果は、惨敗だった。
白蓮高校の人たちは私たちの倍の人数がいたから仕方ないとも思う。でも鮎川先輩は地団駄踏んで悔しがっていた。
子ども縁日のボランティアからは1ヶ月くらい経ったけど、昨日を含めて結構な数のボランティアをこなしてきた気がする。
老人ホーム訪問、農家や子ども向けイベントからコンサートのお手伝いなどなど。
最初よりは自分から動けるようになってきてるし、人とも話せてる……とは思う。というより思いたい。
「馬鹿だね。テストだってば。中間テストで赤点取ったら部活の活動停止と1週間の居残り補講があるんだよ」
え。
あいもかわらずゴミを見るような目を稜汰君に向ける真澄君を、私も思わず見上げる。
そ、そうなの!?
7月中旬にテストがあることは知ってた(現にこの作業もテスト勉強みたいなものだ)けど、まさかペナルティがあるなんて思ってもいなかったよ。
でも、確かに最近放課後も残って勉強してる人が多いかも。
教室を見渡せば、楽しげにお喋りしている人もいるけど何人かは自分の席で真剣に勉強してる。
「マジか。俺間違いなく化学補講組だ。やばい」
稜汰ばいばーい、と教室を出ていく女の子たちにキラキラ笑顔で手を振り返しながら稜汰君が呟いた。そのまま保君を見上げる。
「どうしよ、保」
「知るかよ」
保君が一蹴し、会話は半強制的に終了した。
「あけびちゃんは大丈夫?」
「た、ぶん。赤点って40点未満だよね?でも化学はちょっと自信無い、かな」
振り返った真澄君に曖昧に頷く。
どうしても理数系って苦手なんだよね。
しゃがんで私の机に腕を乗せた真澄君が、ふわりと笑って首を傾けた。
「僕が教えてあげる」
え。
「王子が馬鹿だと姫の肩身が狭いもん」
悪戯っぽく私を見上げる彼に、「そ、そうだよね」と同意してしまった。
何がそうだよねだよ私。馬鹿。私の馬鹿。
でも、真澄君に上目遣いなんてされたら逆らえない。
「俺も教えてよ、真澄」
「やだ」
ねぇねぇ、と手を合わせるも冷たく突き放された稜汰君は「場所提供するからさ」と続ける。
「これから俺の家で勉強会しない?母親はいるけど別にちょっと騒いだ位じゃ何も言われねぇし」
え、今日!?しかも稜汰君の家!?!?急に!?
図書館じゃ騒げないからな、との稜汰君の駄目押しで真澄君がついに「まーね」と首を縦に振った。
「Grazie!そうと決まれば保も薫も来るよな?」
「メンバー的には僕ら3人じゃ間が持たないからね」
勉強会に間が持つとか持たないとかある?
「パス」
「Si!2人とも参加な!」
「話を聞け」
即答した保君の文句を腕をポンと叩きながら稜汰君が笑顔で流した。
「今日は部活もねぇし、じゃー、行こっか!」
「あ、あの、私、今日は図書委員会が」
トントン拍子で話が進んでいたのに、ここで腰を折るのは本当に気まずいし申し訳ない。
おずおずと手を上げた私に、保君がそれはそれは面倒くさそうな目を送った。
「んなもんサボれよ」
いや、いやいやいや。そんなわけには。
「あけびを悪の道に引きずり込むなよー、保。どうせ小1時間だろ?待ってるから行っておいで」
「や、でも待たせるのは申し訳ないし、先に勉強会しててほしいな。私は後から行くね」
稜汰君の親切な申し出は丁重にお断りして、頭を下げる。保君が「あ」と口を開きかけたけど、何を思い直したのか再び黙り込んだ。
「あ、あの、じゃあそろそろ行ってきます」
黒板の横の時計を確認して委員会まで15分を切ったところで、カバンを抱いて立ち上がる。
行ってらっしゃーい、という言葉に密かに感激しつつ(友達っぽくて)、頭を何度も下げながら後ろ歩きで私は教室を後にした。当たり前だけど、机に何度もぶつかった。
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