第23話 町田抗争 8

 自分が撃たれたことに桜大が気づいたのは、銃声が鳴って間もない頃だった。彼は右肩に痛みを覚えてふらつき、そして手を伸ばして痛みの発生源を押さえた。振り返ると、そこには桜大に銃口を向けている渋谷の姿があり、彼は怒りで体を震わせ荒い呼吸をしていた。


「てめぇ……何しやがる……」


「ふざけるなっ!」渋谷は怒鳴った。「仲間が死のうと興味が無いだと⁉ お前はそれでも幹部かっ⁉」


 桜大は傷を押さえたまま恨めしく渋谷を睨みつけた。しかし渋谷は臆することなくまっすぐ彼の目を見た。


「いいかっ! 俺は何もかもを捨ててまでお前についていくつもりだった! 組長を裏切ったのも、仲間だったやつを殺したのも、全部お前のためだったんだぞ! たとえ神に見捨てられようとも俺は、お前が悪の救世主になってくれると信じてお前に従った! なのに何だ、そのザマは! 仲間のことなんか一切考えず、自分だけ助かりたいと考えている小心者じゃないか! お前みたいなクズは……早く死ぬべきだったんだっ!」


 渋谷は再び引き金に指をかけた。桜大は姿勢を低くして銃撃を回避し、渋谷にペットボトルを投げ、そして彼の体を炎で包んだ。渋谷は絶叫しながら地面を転がって火を消し、桜大は彼の顔面を何度も踏みつけた。


「クソカスがっ!」桜大は怒鳴った。「何が仲間だ! 人は誰だって自分が可愛いに決まってるだろうが! よく聞けクソガキ! この世は弱肉強食なんだよ! 弱者は強者の餌食になって、いいように扱き使われるだけだ! そんなことも知らずに勝手に失望して発狂してんじゃねぇ、ボケ!」


 どれくらい顔を踏みつけたのかは桜大にも渋谷にもわからなかった。最後に強く踏みつけた時には渋谷の顔は血まみれになっており、彼は虫の息になっていた。桜大は肩で呼吸をしながら渋谷に背を向け、よろよろとその場を離れた。


 彼はスマホを取り出すと、自身に複数の着信があったのを見た。最後に届いたメールには『七星乱入』とだけ書かれており、桜大は思わず舌打ちをした。たった短時間でここまで状況がひっくり返るとは。彼は自身の置かれている状況が信じられなかった。


 いずれにせよ逃げるつもりではあったのだが、渋谷の妨害が入ったことによって桜大は行動が制限されてしまっていた。それを考えると桜大は再び渋谷に対する殺意をつのらせ、戻って彼を生きたまま焼いてやろうかとも思った。しかし七星が乱入した今、渋谷ごときに時間を割く余裕など桜大には無かった。


「畜生が……」彼は呟き、暗闇の中へと一人入っていった。

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