第7話 カップル配信

 ノエルが意気揚々ととんでもない企画名を口走ってから、三十分。

 訳もわからぬまま、俺たちは迷宮を奥へ奥へと進んでいったのだが。


「あ、ゴブリン出てきた。下がってて、レクス。――てや!」


 目の前に現れたザコ魔物であるゴブリン相手に、華麗な剣さばきを披露するノエル。


「危なかった。怪我してない? 安心して、わたしの後ろにいれば絶対安全だから」

「……はぁ」


 そんな気の抜けた返事しか返せないのは、なんというか、ノエルの様子が微妙におかしいからだった。

 実際、前線向きじゃない俺の代わりに戦うのは、ノエルの役割ロールだ。結果としていつも守ってくれてはいた。だから、言っていることはなにも間違っていない。

 間違ってはいない……けど。さっきから妙にわざとらしさが目立つ。


「さて、と。だいぶ奥まできたし、この辺りでお昼にしよっか。お弁当、わたしが用意してきたの。食べたいでしょ?」

「ていうかそれ、ここに来る途中に買った市販のお弁と――」

「まあまあまあまあ。細かいことは気にしないでいいから」


 俺を遮るノエル。表情は普段通りの爽やか笑顔だが、もしかしたら俺の発言を配信に乗せたくなかったのかもしれない。


「ほら、あーんしてあげる。レクスはなーんにもしなくていいから」

「いや、自分で食えるからいいって……」


 ノエルは俺の言葉を無視して、お弁当に付属のスプーンを使っておかずをすくう。


「はい、あーん……」


 それを差し出してきたところで、


「……いったん止めるぞ。はい、撮影中止ー」


 俺の声に反応したのか、眷属は撮影を止めて瞳を黒色に戻す。


「え~。なんで止めちゃったの? いい感じに楽しく撮れてたのに」


 ノエルは普段通りのケロッとしたテンションで尋ねてきた。


「いきなりこんなん見させられる視聴者の身にもなれって。楽しめるか。混乱の元だろ」


 するとノエルは、眷属が持っている魔導書を指さした。

 コメント欄は――え、なんかめっちゃ盛り上がってる。

 特に「ノエルたんとイチャイチャ羨ま」とか「そのお弁当俺にも食わせろ!」とかってコメントが圧倒的多数だった。


「楽しんでくれてるよ? わたしたちがイチャイチャしてる様子。わたしだって楽しい。これで再生数稼げたら収益にもなる」

「だから一石二鳥、いや三鳥とでも言いたいの?」

「うん」


 むふー、じゃないのよ。


「レクスだって楽しかったんじゃないの? 本当は」

「俺は……別に」

「あ、照れてる。かわい」

「照れてない。どう言葉にしようか考えてただけ」

「こんなかわいい女の子の彼氏役になれてうれしい、って?」

「勝手にねつ造しないで」


 するとノエルは、俺の顔を覗き込んできた。


「じゃあもっとハッキリ、恋人っぽいことしちゃう?」

「やりません!」


 なにを言い出すんだ、まったく。

 でも、その純粋さしかないまなこに見つめられると、心の奥のほうをくすぐられているようでムズムズしちゃうんだよな。

 なまじ顔面も強すぎるから、その気がなくとも内心はかき乱され、勘違いしてしまいそうになる。


「だいたい、なんで俺とのカップルなんだ。偽装までしてさ」


 すると。

 ノエルは、ぽつりと漏らした。


「偽装のつもりはないんだけどなぁ」


「……え? なんだって?」

「だから、別にわたし、カップル偽装のつもりなんてないよ?」


 ノエルはスッと身を引き、言った。

 さっきまでのからかっているときとは明らかに違うトーンで。

 ……それ、実はとんでもないことを言ってるんじゃないか?


「じゃあ、どういうつもり――」



「もういいわ。見ていられない」



 問いただそうとした俺を遮ったのは、アイナだった。


「ノエルの意図は把握した。けどこれ以上は看過はできない」

「だ、だよな。さすがに限度が――」

「鼻の下伸ばした男との配信なんて、ノエルの格が落ちるもの」

「あ、そういう意味でなのね」


 いや、まあ、うん。俺なんかじゃ釣り合わないのは納得。異論はない。

 けど、鼻の下伸びてたのか? 伸ばしてなかったよ。

 ……あとで動画確認しよ。


「落ちたりしないよ。レクスは十分ステキ。アイナはレクスを過小評価しすぎ」

「低く見積もってはいない。彼の自己評価を尊重しているだけ」

「そっか。じゃあここがわたしのポジションだって意見も、尊重してほしいかな」

「それとこれとは話が別よ。離れて」


 あれ? なんかめっちゃバチバチしてない?

 このふたり、こんなに火花散らすような関係だったっけ。


「ま、まあふたりとも。いったん落ち着こう。な?」


 これまでも、そしてこれからも仲良くいたい仲間なんだ。変に険悪になってほしくない。

 俺が間に入ると、ふたりは揃って俺を見た。


「カップル配信は俺としても抵抗あるしさ。最初はやっぱ、女の子三人が和気あいあいと配信してる様子の方がウケるんじゃないか?」


 視聴者的にもそのほうがいいに決まってる。俺みたいなオスは、女子の中に混ざるよりその辺の壁になってたほうがいい。絶対に観たいものが観られる。

 勇者パーティーの美人美女冒険者が楽しく配信してます、ってノリで統一した方が、コンセプトだってわかりやすいだろうし。


「貴方の意見はもっともです。が、そもそもの発想が間違っています」


 するとアイナは、ため息をつきながら、


「貴方がノエルの隣にいては、ノエルの格が下がる。だから――」


 ノエルと同じように、俺の腕に抱きついてきた。



「あ……貴方は、私の隣で我慢してください」



「はい? なんて?」

「ですから……貴方程度の人間は、私の隣ぐらいが適正だってことです」




====

 さあ、シニカルツンデレなアイナが動きを見せました。

 はてさてカップル配信の行方はどうなるのか……。

(ちなみにアイナは僕の担当編集さんイチオシだそうです)


 次回以降の更新ですが、諸事情につき3日おきの更新となります。

 お待たせしてしまって申し訳ありません。

 次回第8話は、3月6日0時頃に更新いたしますので、

 ぜひ作品のフォローをして更新をお待ちいただければ幸いです!


 また可能でしたら、楽しいと思っていただけましたら【☆レビュー】もいただけると大変励みになります。

 推しキャラ明記していただければ、そのキャラから、あなたにだけ宛てたお返事を届けるおもしろ施策も実施中です!


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 引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。

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