幕間 ガールズトーク
レクスにヒモになってもらうことが決まった日の、夜。
レクスが寝静まったのを見計らって、ノエルとアイナ、ユフィは、ひとつの部屋に集まっていた。
「うまく行ったね、計画通り」
「案外スムーズで拍子抜け」
「騙してるみたいで、ちょーっと心は痛むけどね」
ランプの小さな明かりが、周囲をおぼろげに照らす中、ユフィは困ったように笑う。
アイナは「そんなことない」とフォローして、
「彼の望む状況は整えられているわ。こっちの都合だけを押しつけたわけじゃない」
「そうそう。なんだかんだうれしそうだったし、レクスも。オッケーじゃない?」
「そう……だよね。うん。そう思うことにする」
不安を飲み込み、ユフィは強く頷いた。
「でもまさか、計画のために家まで買うとは思わなかったわ」
「え、アイナじゃん。買おうかって案出したの、最初に」
「あれは冗談というか、たとえ話のつもりだったの」
「ノエルにその手の冗談は通じないでしょ~。あたしもびっくりしたけど」
「わたしは、ユフィの演技の棒っぷりにびっくりしたけどね」
「え!? そ、そんなに棒だった……?」
「感情が乗ってなかったわ。『いるかもー』とか『思ってもいなかったしー』とか」
「あー、あー! やめて恥ずかしい聞きたくないいいぃぃ!」
「「しー!」」
「あうっ! ご、ごめん……」
ユフィはバッと口を押さえる。
念のため、廊下に聞き耳を立てる三人。いまの声でレクスが起きてきやしないか心配だった……が、特に問題はなさそうで安堵する。
「ともかく。最後の確認。わたしたちの目的と今後について」
ノエルが改まったように言って、続ける。
「わたしたち三人は、それぞれ、レクスのことが好き。で、いいんだよね」
「彼を好いてるって事実は非常に不本意ではあるけれど……認めるわ」
「うん。好き……だよ。すっごい好き」
そう。ノエル、アイナ、ユフィは、レクスに好意を抱いている。
ノエルにとっては、自分のノリを一緒に楽しんでくれることの心地よさが。
アイナにとっては、自分のルサンチマンを解像度高く理解してくれる安心感が。
ユフィにとっては、自分の面倒くさい性格を受け入れ必要としてくれる優しさが。
理由やキッカケは様々。だがレクスを好いているというのは、紛れもない事実だ。
「出会ったころは、まさか好きになるなんて思わなかったけど」
「ね。けどさ、締めるときはしっかり締めるから、旅先でめっちゃ頼りになったよね。そういうところが、いい。カッコよくて」
「ノーコメントで」
「アイナは素直じゃないなぁ。ウリウリ」
「突かないで……! ええ、そうね。百回に一回ぐらいは……カッコいい、かも」
ノエルに突かれながらも、アイナは相変わらずドライな表情を崩さない。
けれど頬が染まっているように見える。ランプの明かりによるものだろうか。
「でもレクスくんの場合、カッコよすぎないのもいいよね。隙があるから安心」
「隙というか、こう……私が管理してあげないとっていう、庇護欲?」
「昨日の、お酒飲んでぐでーってなってるところとかね。なんとかしてあげたいって思っちゃった。わたしだけかな?」
「あたしもっ」
「……私も」
果たしてそれは、レクス側からしてうれしい評価なのかは不明だが。
ともあれ。長い道中を旅していれば、恋慕が芽生えるのも自然なことであった。
「ただこれ、レクスくん争奪戦ってことだよね。てことは、あたしたちは恋敵……」
「この国で一夫多妻制が認められていない以上、そうなるわ」
ユフィは少しだけ表情を沈ませる。
たまたま好意の対象が重なっただけで、三人の仲は依然として良好だ。
このレクス争奪戦を機に壊れてしまうことを、ユフィは望んでいなかった。
「うん。でも、ユフィの言いたいことはわたしも……アイナも一緒。でしょ?」
「ええ。恋敵以前に、私たちは苦楽を共にした仲間であり、友達。だからこそ立てたのよ、この作戦――告白
当然、ノエルとアイナも、この友情の崩壊までは望んでいない。
だから彼女たちは、レクスに内緒で画策していたのだ。
友情が壊れないような公平な状況を作るため、レクスをヒモにして飼い慣らし。
各々がレクスへ告白する準備を進めるための、猶予期間を設けようと。
「告白の成功率を高めるため、わたしたちはそれぞれ、自由にアプローチしてOK」
「当然、出し抜かれないような工作を図ることも許容する」
「でももし自分が選ばれなかったら、選ばれた人を素直に祝福する……だよね」
その準備にも、気持ちの整理にも、どうしたって時間は必要だからと。
それが、彼女たちにとっての
「拠点の用意と彼のヒモ化は無事に成功。計画の第一段階はクリアしたわ」
「あとはみんなで猶予期間を楽しみつつ、ゆっくりじっくり外堀を埋めていって……」
「折りを見て告白して、ゆくゆくはレクスと……」
そう、甘い未来を創造する三人。
同じ価値観を共有し楽しい時間を過ごす未来。
文句を言いつつ甲斐甲斐しくお世話をしてあげる未来。
ひたすら甘やかし頼られる喜びに承認欲求爆上がりな未来。
気づけば三人は、揃って「……ふへ」と笑ってしまっていた。
「……でもさ。アプローチは自由にしていいんだよね?」
そう改まって切り出したのはノエルだった。
アイナとユフィは、そうだけど? と思いつつ二の句を待つ。
「じゃあ、ごめんだけど。先に言っておくね」
「なにを?」
「わたし、めっちゃアプローチするかも。振り向いてもらえるよう」
先手を切るノエル。それはまさに、前衛職たる剣士らしい切り込みぐあいだった。
その宣言に、アイナとユフィも、覚悟を決めねばと表情を硬くした。
「あ、あたしだって負けないから。レクスくんのためにもお仕事探して稼ぐんだから」
「同意。あのダメ人間は私のヒモになって管理されるほうが、幸せになれるはずだもの。ホント、私が傍にいないとダメな人ね」
「ちょっと、アイナ?」
「なに? 積極的にアプローチしていいんでしょ?」
レクスは自分のものとさりげなく主張したアイナに、ノエルは釘を刺すように目配せする。当のアイナも、勝ち誇ったように口角を上げた。
「さりげなくズルい! レクスくんはあたしが幸せにしてあげるのっ」
「いやいや。譲らないから、わたしだって」
「私こそ、手放すつもりはないわ」
――こうして。
当人の知らぬ場所で、誰がレクスを養うのか選手権が、静かに幕を開けていた。
====
ここまでが、ざっくりと第一章でした。
いかがだったでしょうか? うま味たっぷりのハーレムなモラトリアム開幕です。
最初から好感度マックスな3人娘が、ここからどんなアプローチをし、どうかわいくいじらしくおもしろくレクスを振り回すのか……。
作品の続きが気になった方は、ぜひ【フォロー】していただけたらうれしいです。
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なお明日28日更新分のあとがきに、書籍関連のお知らせを添えますので、
そちらにもご注目いただけると幸いです。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。
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