地獄の戦場を生き抜いたSランク弓使いの異世界帰還者は、もう一度異世界へ戻りたい

はいそち

帰還

 中学三年生の光佑は、五年ぶり・・・・となる中学の教室を感慨深く眺めていた。始業ギリギリに教室へ入った光佑は朝礼そっちのけで、机の中身を取り出しては懐かしそうに確認したり、クラスメイトを順繰りに見ながら時折うなづいたりしていた。


 朝礼はすぐに終わり、一時限目の英語の授業が始まる。今日は、毎週月曜日に行われる定例の単語テストの日だ。教室にどんよりとした空気が充満する中、光佑の手元にもテスト用紙が配られた。


「あー、小テストとかあったな……」


 光佑は、そこで始めて英語の授業が始まっていたことに気づくと、物珍しそうにテスト用紙を眺めていた。

 五年ぶりの英単語、しかもまだ手をつけていなかった単語帳のパートからの出題である。答えはほとんど分からず、解答欄は白紙のままだった。


 ぽつ……ぽつ……


 気がつくと、小テストの用紙の上に次々と涙の粒が落ちていく。光佑はあわてて涙を拭うが、拭いても拭いてもとめどなく涙がこぼれ落ちてくる。


 その異様な光景に気づいた周りの生徒がざわめき始め、たちまちクラス中が光佑に注目する。担任もまた光佑を凝視するが、何かを察したのか声を掛けるのをためらっている。


 溢れる涙を必死に拭いながら、光佑は声を絞り出すようにしてひと言呟いた。


「生きて、日本に帰ってこれたんだな……おれは・・・


 そのひと言が引き金となって、光佑の嗚咽が号泣へと変わる。英語の担任教師が慌てて光佑の側へと駆け寄る。


「光佑くん、君は異世界帰還者・・・・・・なんだな?」


 光佑は、泣きじゃくりながらもしっかりと頷いた。担任はすぐに光佑の肩を抱きかかえて教室の外へと連れ出すと、そのまま保健室へと向かっていった。

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