キリン編 第8話:夜明けの調べ

 ◆囁く者が遺す言葉


 夜の裂け目の奥で、影がゆっくりと揺れる。

 それは、まるで"最後の囁き"を伝えようとしているかのようだった。


「クック……聞こえる……?」


 オウムが、小さな声で囁く。


 ゆりあは、耳を澄ませた。


 ——『夜は、ただ消えるものではない。

 それは、静かに形を変えて、新しい夜へと巡る。』


「……夜が、巡る……?」


 ゆりあは、そっと夜空を見上げる。


 黒く沈んでいた裂け目の中に、小さな光がぽつりと灯る。

 それは、まるで夜の記憶の名残のように、ゆらゆらと漂っていた。


「クック……夜の残響……」


 オウムが、優しく囁く。


 ——『夜の記憶を、未来へと繋ぐ者。

 その役目を、君は果たせるか?』


 囁く者の声が、ゆりあの心に静かに響いた。


「……私が?」


 ゆりあは、自分の胸に手を当てた。

 まだ、何をすればいいのかは分からない。


 けれど——


 私は、夜を恐れるのではなく、見守ることができる。


 その確信だけは、ゆっくりと胸の奥に根を張り始めていた。



 ◆夜の裂け目が閉じるとき


「クック……ほら、見て……」


 オウムがそっと、夜空の裂け目を指し示した。


 ゆりあが見上げると、黒く広がっていた境界が、ゆっくりと収束し始めていた。


 まるで、何かを終えたかのように——

 静かに、夜の裂け目が消えていく。


「……終わるんだね」


「クック……"終わる"んじゃない……"続いていく"……」


 オウムの声が、どこか誇らしげだった。


 夜は、終わるものではない。

 それは、静かに形を変えながら、次の夜へと受け継がれる。


「……そうか、"夜明け"が来るんだね」


 囁く者は、何も答えなかった。

 ただ、最後の小さな光がゆっくりと消え、夜の裂け目は完全に閉じられた。


 ——そして、静寂が戻った。



 ◆キリンたちの祝福


 ゆりあが振り返ると、キリンたちは静かに彼女を見つめていた。


「……君たちも、ずっとこれを見守っていたんだね」


 キリンの一匹が、ゆっくりと首を縦に振る。


 それは、まるで「よくやった」と言っているように——。


「クック……"夜の巡り"……見届けたね……」


 オウムが、嬉しそうに羽を揺らした。


「……うん。私も、これからは"夜の語り手"として、夜を見守り続けたい」


 ゆりあは、静かにそう呟いた。


 夜の裂け目は消えた。

 でも、それは終わりではない。


 夜の記憶は、これからも巡り続ける——。



 ◆次回(最終話):夜を見守る者たち


 夜は、ただ消えていくものではない。

 それは、形を変えながら続いていくもの——。


 ゆりあは、新しい"夜の語り手"として、その流れを見守ることを決めた。


 そして、次の夜が訪れる——。


 To be continued…

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