第3章:夜の水面に映る記憶

ペンギン編 第1話:静寂な夜に響く声

 ◆夜のペンギンエリア


 夜の動物園は、昼間の賑やかさとは違い、静けさに包まれていた。

 ゆりあは、ペンギンエリアの前で足を止めた。


 ——何かが違う。


 昼間は元気に歩き回っていたペンギンたちが、今夜は違った。

 彼らは一か所に集まり、輪を作るようにじっと立っている。


「……何をしてるの?」


 ゆりあが小さく呟くと、ペンギンたちはクルリと首を回した。

 その仕草は可愛らしいが、どこか奇妙だった。


 ——彼らは、まるで何かを囲んでいるように見える。


 しかし、輪の中心には何もない。


「クック……見てる……」


 肩にとまるオウムが、ゆっくりと囁いた。


「見てる? 何を?」


「クック……"夜の声"……」


 その瞬間——


「……ここ……に……いるよ……」


 夜の静寂に溶け込むように、小さな声が響いた。


「……っ!」


 ゆりあの背筋が、ゾクリと震えた。

 今の声は、一体——?



 ◆ペンギンたちの奇妙な行動


「キュルル……キュッ……」


 ペンギンたちは、小さく鳴いた。

 まるで、何かに呼びかけるように。


 ゆりあは、ペンギンたちの輪の中心に目を凝らした。


 何もない——けれど、彼らは確かに"そこ"を見ている。


「クック……さがしてる……」


 オウムの囁きが、ゆりあの耳元に響く。


「探してる……? 誰を?」


 ゆりあがそっと口にした瞬間——


 ——ザザッ。


 背後の茂みで、小さな音がした。


「……誰?」


 ゆりあはハッとして振り返る。


 しかし、そこには誰もいない。

 夜の静寂が広がるだけだった。


 ——気のせい? それとも——


 ゆりあは、ゆっくりと振り返る。


 すると——


 ペンギンたちが、もう一度、同じ方向をじっと見つめていた。


 まるで"何か"を確かめるように——。



 ◆夜にだけ響く「声」


「……君たち、何を見ているの?」


 ゆりあが問いかけると、ペンギンたちは小さく鳴きながら、微かに体を揺らした。


「キュル……キュルル……」


 その仕草は、まるで**"何か"を呼んでいるようだった。**


「クック……夜の声……」


 オウムの小さな囁きが、再び響く。


「夜の声……?」


「クック……"ここにいるよ"……」


「……!」


 ゆりあの心臓が、大きく跳ねた。


 今、オウムはあの声を、もう一度繰り返した——。


「ここに……いるよ……」


 確かに、さっき聞こえた声。

 しかし、それは誰のもの?


 ペンギンたちは、鳴きながら、じっと水辺を見つめ続けている。


 ——何かがある。


 ——夜にだけ、現れる何かが——。


「……ねぇ、君たちは、一体何を探してるの?」


 その問いに答えるように——


 ペンギンたちは、一斉に水辺へと歩き出した。


 夜の静寂の中、波紋がゆっくりと広がっていく——。



 To be continued…

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