死ねと命じたのは貴方なのに、何をお泣きになっているの?

宮永レン

プロローグ

「異端の聖女エリシアを処刑する」

 アルベルト王太子殿下の冷たい声が響く王宮の広間。


「死ね」

 彼の残酷な言葉が、胸に突き刺さる。


 ——ああ、やはりそうなるのね。

 跪く私は、静かに目を伏せた。


 彼は私を愛していると言ってくれたのに。私も彼を愛していたのに。心も体も求められるままに捧げたのに。


 けれども、それは脆くも崩れ去った、この国に伝わる聖女の力——「癒しの光」を持たない私が、偽聖女だと糾弾された日から。


「……殿下、最後に一つだけお願いがございます」


「聞くまでもない。処刑は決定事項だ」


「……では、どうか処刑の前に祈らせてくださいませ」


「好きにしろ。どうせ神はお前を救わん」

 アルベルトは嘲るように笑い、私に背を向けた。


 そばにいた兵士が後ろ手に縛っていた縄を解き、私は胸の前で自由になった両手を組む。


 ——ええ、そうでしょうね。

 なぜなら、私が本当に持っていたのは、「破壊の光」なのだから。

 

 そしてこの瞬間、私の周囲は暴力的な光に飲まれた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る