空と海
チヨ
第1話
彼は不思議だった。
彼の周りはいつも謎めいた雰囲気があった。その周りにたとえどんなに人が集まったとしてもその空気か乱されることは決してない。まるで薄膜に覆われていて外部との空気を遮断しているような、そんな感じ。誰にも興味がない、そう静かに言っている彼の瞳は細かに震えている。
最初、彼に対してそこまでの印象は無かった。ただ不良ということしか。中学の頃に先生を殴ったとか飲酒をしているとか、そんなどうでもいい情報だけが私の耳を通り過ぎていく。関わるとろくな事にならない。私はこんなやつに時間をかけるほど暇じゃない。
私は1年前、自称進学校の高校に入学した。彼はコースが違う。この学校はコースによって校舎を分ける。というより特進コースだけ校舎を隔離されている。そのため校舎の中の教室の数は少なく特別教室などもない。窓からは他のコースが入っている校舎が中庭を隔てて立っている。廊下で談笑している他のコースの生徒は特進コースに比べて明るく、まるでこれが青春だと言われている気分になる。授業が終わるとまるで魔法から解けたように忙しなく喋り出すクラスは声が重複していて気持ち悪い。しょうもない話題を何時間もかけて話しかけてくる美咲を見ながら内心でため息をつく。
「それでさ、後藤先生は10歳年下の彼女がいるらしいよ。それがまさかのって聞いてる?空?」
名前を呼ばれて我に返る。
「うん、聞いてるよ。それで?」
興味のない話に相槌を打つのは得意だ。人は相槌を打たれるとその人は自分の話を聞いてくれていると勘違いする。相槌なんて話を聞いていなくても出来る。
「そういえばさ、空聞いた?4組の鈴川海、またなんかしたらしいよ」
鈴川海。そんな6音の言葉に反応してしまう。彼の名前を聞くだけで頭の中が彼1色になってしまう。いつからこんな身体に、頭になってしまったのか。答えは分かっている。初めて彼と話した、目が合った、お互いを認知したあの瞬間から。
私の空は彼の波によって乱され、侵食されていく。
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