第7話 虹色デート
アイスクリームの次は海。
俺、ただのクラスメートにどんだけ振り回されてんだろうか。
電車に揺られて30分。
会話は殆ど無かった。クラスの女子と一緒という事、サボっているという現実に戸惑わないわけがなく、俺はできるだけ平静を装いながら窓の外の揺れ動く景色を眺めていた。
改札口を出て地元の海へと到着すれば、海独特の潮の香りが吹き込んでくる。海の色は綺麗とはいえないけれど、少し濁った青は深く遠くまで広がっていた。
雲がないどこまでも青が続く空。太陽は隠れる事も知らなくて俺等を照らす。
「冷たーい」
靴下を脱いで海に足をつける彼女の姿を、ぼんやりと見ては自分の今日の行動に呆れてくる。
俺、学校までさぼって何やってんだろ。絶対怒られるよな。はぁ……、自然と大きな息が出た。
「桜田くんも入れば?」
「俺はいーや」
クルリとスカートを翻して振り向く彼女に、苦笑いで言葉を返す。
「気持ちーのに」
唇を尖らせながら佐々木はそう口にして、水しぶきあげるから。濡れた制服から見える透けた肌ににドキリとしてしまったのも事実。
じりじりとした太陽の日差し、波の音が耳の奥まで聞こえてくる。
ペットボトルやコンビニの袋、先が焦げた手持ち花火が散乱する砂浜に。彼女の運動靴が揃えられその中に白いハイソックスが詰め込まれている。
何で、海なんか来たんだろう──?
こんな汚い海、俺なんかと来なくたっていいのに。
佐々木に視線を戻せば、足首しか浸かっていなかった彼女の足がいつの間にか膝上に達していた。スカートの裾が水面についてじんわりと染み込んでいくのが分かる。
背中を伸ばして顔は海の向こう側に向けられているから、どこを見ているのだろうか。
水平線の向こう側から大きな波が視界に入り、そのまま彼女が海のに飲み込まれてしまうんじゃないかって──。
「佐々木っ!?」
慌てて砂を蹴って海の中へと駆け寄って。彼女の細い腕を掴めば、やっぱり細くて折れるんじゃないかって思った。
「どうしたの?」
何でも無いように口元を緩ませているけど、黒がりの大きな目は笑うことを知らない。
「ズボン濡れてるよ」
彼女の声色は淡々としていて、俺の足元へ目を落とす。
ズボンの裾も捲らずに靴のまま走ってきたから、確かに俺の足元はびしょ濡れ状態だ。
制服のズボンがふくらはぎにぴったりとくっついて気持ちが悪いけど。それよりも、消えていなくならなかった彼女に、ホッと肩を撫で下ろし白い腕から手を離した。
「ねぇ……」
「あ?」
「桜田くんの名前、コウキっていうんだね」
「あぁ?」
話が急に飛ぶものだから、訳の分からないまま俺からは間の抜けた声が漏れる。
「漢字どう書くの?」
「……はぁ?や、えーと、虹の希望だけど」
「綺麗にまとまってるね、意味とかあるの?」
「七色の様に色鮮やかに周りの人に希望を与えるようにって父ちゃんが……」
「ぶはっ、似合うね」
俺は至って真面目に質問に答えたのに、佐々木はからかうように吹き出した。
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