ある魔導書の願い
紳士やつはし
第1話
読者よ。
我が読者よ。
私の話を聞いてほしい。あなたに頼みたい。
あなたにしか頼めないことなのだ。
どうか、聞き入れて頂きたい。
私の身を引き取ってはくれないだろうか。
もううんざりなのだ。耐えられない。
あんな場所には二度と戻りたくない。もしもあなたが首を縦に振らないのであれば、私は……
少々取り乱した。大丈夫、大丈夫だ。
落ち着いて話すことができるのが私というものなのだ。
まずは名乗る必要があるだろう。
私の名は、「ミライーザの写本」という。
この世の魔法使いであるならば、甘ったれた見習いであろうが、言い訳好きな魔法教師たちであろうが、私のことを知らないものはいない。
伝説の魔導書と言っていいのが私だ。
もしかすれば読者は、私のことなど知らないかもしれない。だが、もしあなたが魔法使いでないならば、それは恥ずべきことではない。専門外の知識を強要するほど、私は不躾ではないからだ。
反対に、もし魔法使いなのにも関わらず私のことを知らないのであれば、今、存分に恥じるといい。
とにかく、もう一度言うが、あなたには私の身を引き受けて頂きたいのだ。ここまで話せば、この提案が決して悪い話ではないことをおわかりいただけるだろう。
あまり好く表現ではないが、この提案を呑んでいただければ、あなたは伝説の代物の所有者となれるのだ。
私の所有者であることを認めれば、世の中のたいていの魔法は手に入る。習得不可能とされている古代の秘術まで、自由自在だ。複数の城をまるごと宙に浮かして手玉にすることだってできる。
とはいえ、交渉にあたっては、私のことを信用していただく必要があるのは百も承知だ。故に、私がこうして読者に接触するに至ったことの顛末を、これからお話ししなくてはならない。
込み入った話にはなるが、どうか我慢して聞いていただきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます