第八話 桜散り暑さの訪れ


「桜がどんどん散って来てますねぇ~」


 桜の花びらが散っていくのを椎名は見ていた。


「今年も春が終わっちゃうんですねぇ~」

「だな」

「あぁ、私の高1の春が終わっちゃう~。 およよよ」

 

 そんな悲しむ事かねぇ~。

 っというかおよよよとか本当に言う奴初めて見たよ。


「そんなに悲しむ事か?」

「だって私の華の女子高生一年目の春が桜の花びらのように終わっちゃうんですよ!?」

「そんなこと言ったって仕方ないじゃないか」

「仕方ないのは分かってます。 ですけど高校生の貴重な春が先輩の失恋を見るだけなんて寂しすぎます」

「喧嘩売っとんのかお前は」

「私だって振った振られたしたいです!! まぁでも先輩と違って振る側でしょうけど」


 否定できないから腹が立つ。

 中学の時もそうだが彼女はかなりモテていたので反論できない。

 

「あ、先輩そこ空いてますよ」


 そう言って彼女は僕の手を引き、噴水場前の横長椅子にタオルをしいて座る。

 

「はい先輩、お弁当」

「ありがとう。 それじゃあ、はいこれ、料理作ってもらったから、食材費」

「そんな、いいですよ。 私から誘いましたし」


 僕が懐から五百円玉を渡そうとすると、彼女は断る。

 だが彼女が作ってきてくれたのだから正当な対価だ、ちゃんと渡さないと不公平だ。


「いや、作ってきてもらって何も渡さないのは悪いよ。 だから受け取ってくれると嬉しい」


 そういうと、彼女は渋々受け取る。


「先輩って変な人ですね」

「そうか?」

「そうですよ、普通こんなの渡しませんよ」

「そうなのか?」

「そうなのです。 あ、だからってもう返しませんからね」


 ガルルルゥっと犬が自分の物を取られる時のような威嚇する表情を浮かべる。

 犬か貴様は。

 

「うん、受け取って」

「はい!! そうします!!」


 そういうと僕は彼女の作ってくれた弁当を開く。

 弁当の中身は唐揚げに卵焼きに加え煮物が詰め込まれていて、下にはおにぎりの入ったタッパーがあった。

  

「「いただきます」」


 僕らはそういうと、弁当を食す。

 彼女の料理は中々、っというかかなり美味しかった。

 特に唐揚げ、僕の好きな甘い味付けでとても好きな味だった。

 

「うん、この卵焼き甘くて美味しい」

「先輩が好きだって言ってたので、頑張って作ってみました」


 そう言いながら彼女はにこりと笑う。

 その姿に少しドキッとしてしまう。

 我ながら単純だな。

 そうして後輩と舞い散る桜を見ながら共に食事をするのだった。

 






 




 

 

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