第三話 後輩との次なる約束

「今日は御馳走様でした」


 そう言って彼女は頭を下げてから顔を上げにこりと笑う。

 

「先輩のおごりでまた行きましょうね」

「次は割り勘な、そう何度も奢ってたまるもんか」

「あはは、冗談ですよぉ~」


 いやいや、いいよって言ったら絶対奢らせてただろ。


「先輩」


 その瞳は夕焼けの光を受けているのか、柔らかな茜色の光が彼女の瞳をより輝かせている。

 彼女は一瞬何かを言おうとしたが、口を噤むと僕から目を逸らす。


「……何でもありません」


 口は悪いが、根は人を気遣ういい子なので、恐らくだけど振られた事に対して「もう大丈夫そうですか?」と言いたかったのだろう。

 しかし同時に僕が思い出して傷つくのではないかと想い、とどまったのだろう。

 なんだかんだ言って彼女はひと思いの優しい子なのだ、口は悪いけど。


「椎名、今日はありがとうな」


 僕は感謝を込めるようにそう言った。

 彼女なりに僕を励まそうとしてくれたのだから、お礼は言わないといけない。


「……吹っ切れました?」


 椎名は心配そうに見つめてくる。

 吹っ切れた……とはまだ言いきれない。

 だって好きだったのだから、そう簡単に割り切るなんて僕には出来そうにない。

 心配してくれている後輩には申し訳ないが、まだ無理だ。

 

「吹っ切れた……とはまだ言えないかな。 好きだったし、そう簡単に割り切れないっていうか……」

「そうですか」


 そういうと彼女との帰路の分かれ道に着く。


「それじゃあ」

「はい、また明日!!」

 

 そう言って彼女を分かれ家に帰ると、椎名のアカウントからメッセージが来た。

 内容は「今度の土曜、公園に遊びに行きませんか?」というメッセージだった。


『いこっか』


『やった!!』

『じゃあ土曜日朝何時にします?』


『僕は何時でも大丈夫だけど、椎名は何時から行けそうかな?』


『でしたら、朝9時でも大丈夫でしょうか?』

『無理でしたら昼の12時とかでも!!』


『じゃあ椎名が良ければ朝9時でもいいかな?』


『はい!! わかりました!!』

スタンプ

『お昼ご飯は私が作っていくので、楽しみにしといてください』


『えっと、無理しなくていいぞ?』

 

 椎名の料理は中学の時食べたことはあるが、なんというか個性的な味だったのを覚えている。

 

『私だって上達してますから大丈夫です!!』

『それより明日は暇ですか?』


『明日は一応バイトかな』

『そうですか』


『何か用事か?』


『いえ、特にはないです。 聞いてみただけです』


『そっか』


『それじゃ、明後日の土曜日楽しみにしててくださいね!!』

スタンプ(BYE)


『楽しみにしてる』


 そういうと彼女は既読をつけると返信が返ってこなくなったことを確認し、僕は携帯を置くのだった。

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