第2話 知らざる境を越ゆ
腰まで伸びた草が痛い。それぞれ不安よりも草からの攻撃にイラつきを覚え始めた。血こそは出ていないがひりひりとする。
大事に飲んでいた水も、節約していても着実に減ってきている。それでもまだましなのは、生き物の鳴き声があることだ。生き物さえも感じない静寂はとてつもない苦痛だ。もしそうなっていたら多分、気がおかしくなっていただろう。
そして幸運な事に、肉食のような獣の痕跡がない。四人はたしかな確認の仕方は知らないが、踏み荒らされたあと跡がない事で判断していた。
体感では何時間も経っていた。もっともはっきりと太陽の光が入ってきてるわけではなく、安定して薄暗いので余計に時間の感覚が分からない。唯一時間をはかれるのは疲労感だけだった。足の裏がとてつもなく痛い。ひりひりもするし骨がつんざかれる痛みだ。トンネルを通っていた時はそんな痛みはなかったのに、出て歩いてからしばらく経ってから痛み始めた。
いつも流れに身を任せ、生きるも死ぬも自然のなすままにがモットーの四人でも、さすがにその時が来たら生き延びようとしていた。それでも明確な生きたいという意思はない。ただ、ここを抜け出したい、安全なところに出たいという気持ちだけで歩いていた。
個々が服や髪を乱しながらも歩く。汗をまとって、謎の汚れもあちこちについている。そんな状態でハンカチで汗を拭くもんだから、顔や体にも汚れが広がっている。きっと、街に居た頃だと、なぜそんなにも無様な姿で生きようとしているのか、と笑っていただろう。
前を歩いていた日々と西樹が、邪魔な草を横に避けていた時、西樹が声を出した。
「あと少しで抜け出せそうだ!見えてきた!」
その声に、体の痛みは消え、歩みを早めた。
髪が口に引っ付いても、手足が傷つきやすくても、つまずいて倒れそうになっても気にせず突っ切った。
ガサガサ、と最後の草をかき分け一気に抜け出る。途端、力が抜けてそのまま前に倒れこんだ。それぞれの吐息や、痛みへのうめきが辺りに響く。草も、街でもみるような雑草くらいの背の低さだ。
もちろん周囲はまだ木々があり山の中だ。だけど、きちんと下っているかも分からない草の中よりかは幾分か心が安らいだ。
呼吸も落ち着いてくると、また自然の音が聞こえてきた。体がどこもかしこも、髪の毛さえも痛くもう立ち上がれない。だんだんと意識も遠くなってきた。それでも、もし最後だったら、そう思うと這ってでも近づき四人は頭を寄せあった。
薄れていく意識のなかで、現実か夢の中か分からない景色を抗いながらも抗えず眺めていた。
一人は、くくっていた髪の毛がほどけ、肩まである髪をあらゆる方向に散らせている。彼女はたくさんの人々の顔に囲まれて
一人はくねった長い髪を乱しながらも。彼女は家族の愛に囲まれ
一人は極短く切りそろえられた前髪と横髪を乱して置き。彼女は愛してくれた人たちに囲まれ
一人は天然にくねった短い髪をまくらにし。彼はたくさんの食べ物に囲まれ
目を閉じた。
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