「工事現場」

浅間遊歩

「工事現場」

 ある郊外の街外れに、新しい建物を建てるためらしい大規模な工事現場があった。フェンスで囲まれ、中は見えない。工事は長い間続いていたが、いつ終わるのかは関係者にもよくわからないようだ。

 噂好きの近隣住民たちは様々な憶測を飛ばしたが、特に確証もなく結論は出ない。

 結局のところ、お役所仕事の類か、計画変更が相次いで工事が長引いているのだろうと考えていた。


 その工事現場で働いていた若い作業員の佐藤は、ある日、不思議なことに気づいた。


 現場には巨大な穴が掘られているが、ある程度掘り進めると、なぜか埋め戻されるのだ。地面が崩れたわけではなく、故意に修復されてるようだ。深く土を掘っても、翌朝には元の状態に戻っている。上司に尋ねても「気にするな」と一蹴されるだけ。


 「何かがおかしい」と感じた佐藤は、ある夜、こっそり現場に忍び込んだ。誰もいないはずの現場で、彼は暗闇の中、巨大な音とともに地面が震えるのを感じた。


 穴の中心に近づくと、そこには巨大な装置が埋まっていた。それは円筒形の金属の柱のようなもので、発光しており、巨大な羽が周囲の地形を元通りに巻き戻すように動いていた。


 突然、背後で声がした。


「君は見てはいけないものを見た。」


 振り返ると、現場監督が立っていた。だが、その顔は妙に冷たく、表情が硬かった。まるで人間ではない何かのように。

 佐藤は問い詰めた。


「一体ここで何をしているんですか? この装置は何なんです?」


 監督は冷静に答えた。


「ここで行われているのは、この世界の“修復”作業だ。我々が掘り続けているのは、埋める作業のためなんだ。この次元の亀裂を補修するためだよ。」


 佐藤は呆然とした。


「亀裂って……?」


「この現場は、世界の境界線に接している。放置すれば、この次元そのものが崩壊する可能性がある。私たちはそれを防ぐために働いている。」


「そんなの、信じられるわけがない!」


 佐藤が叫ぶと、監督はさらに冷たい口調で言った。


「信じるかどうかは重要ではない。ただし、君はこの現場を離れることはできない。」


 その瞬間、監督の指がスイッチを押した。装置が轟音を立て、強烈な光が辺りを包んだ。


 翌朝、佐藤はいつものように現場に立っていた。現場では昨日と同じ作業が進められ、地面は深く掘られてから、また元通りに埋められた。


 街の住民たちは気づくことはない。あの工事現場が実は、世界のほころびを埋める最後の防波堤であることを。


 そして、佐藤はもう疑問を抱かなくなっていた――その「疑問」も、装置が埋めてしまったからだ。

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「工事現場」 浅間遊歩 @asama-U4

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