第3話

 羽の生えた肉体が、美男子と同じ格好で立っていた。肩から手にかけて翼になっている以外は人となんら変わらない。ただ、生気は全くなかった。周囲には同じように、生気を感じられない肉体が立ち並んでいる。

「これに触ってみてください」

 美男子に促され、おそるおそる羽の付け根に触れる。すると、視点が急に変わって、美男子の方を向いていた。驚いて自分を見ると、美男子と同じ服装になっていて、手と羽が一体化している。身体が肉体に吸い込まれたらしい。

「上手く調和したみたいですね」

 移動しながらされた美男子の説明を思い返す。今の私は魂だけの状態で、魂は肉体と調和することで食事や会話などをすることができる、らしい。

「腕と羽が一体化している方が練習しやすいと思い、この肉体にしていますが、不自由でしたら変更できますよ?」

「大丈夫」

 出した声は思ったより低かった。男の人と同じ身体の作りなのだろう。

 美男子は微笑む。まぶしっ! 花畑が満開に咲きそうな優美さっ!

「それでは、飛ぶ練習をしましょうか」

「あ、ハイ」

 何もないところに移動して練習を始める。

 簡単に飛べると思った私はバカだった。

 ジャンプして腕をがむしゃらに動かせば、飛べると思っていたが、まず、羽を上下に動かすのに苦労する。空気抵抗が大きいのだ。ゲームの世界だったらすぐにできるのに……。

 美男子は軽くやってのける、というよりは、産まれたときから羽があったのだから慣れているのだろう。教え方もよくわからないらしい。

 そこで、まず、美男子の飛び方をよく観察することにした。美男子は顔を赤らめながらも、何度か見せてくれた。

 少し助走をつけて、ジャンプ、羽を数回動かすと、もう身体は宙に浮いている。

「空気に倒れ込むような感じです」

 白い足場に倒れ込んだ。

「風に乗るんです」

 高度は出なくてすぐに墜落した。

「少し身体を上に傾けてみてください」

 足で足場を削ってしまった。

 体感で20分ほど経ち、休憩をしているとき、美男子は困り顔で言う。

「すみません、うまく教えられず」

「いや、私が下手なだけだから……そういえば、飛んでいるときに、何か考えていることってある?」

 タイムリミットが迫っている。せっかくの飛べる機会が、水泡に帰すかも知れない。

「そうですね……強いていえば、あそこに行こう、という感じですかね」

 あそこに行こう……行こう……

「そこかも知れない」

「え?」

 私は立ち上がり、少し向こうに浮かんでいる白いものを目標とする。そして、駆け出す。腕を広げ、風を感じてそれに身体を預ける。行こう、飛ぼう、あそこへ!

 自然と目標に向かって進んでいく。あとはもう思ったように身体を動かすだけで、行きたい方へ行ける。ただ、着地だけは失敗して、美男子の前ですっ転んでしまった。恥ず。

「すごいです! どうして急にうまく飛べるようになったのですか?」

「心持ちの問題だった」

 ずっと、飛びたいって思っていた。でも、願ってばかりではダメらしい。願望を意志に変えて初めてできることがあるんだ。

「飛んでみて、どうでしたか?」

 美男子がやわらかく笑って尋ねた。

「心地よかった、とても……」

 自由で。

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