魔王に連れ去られたのは……

夕闇 夜桜

魔王に連れ去られたのは……


 魔王に連れ去られた。

 私だった理由とか、連れ去られた理由なんて分からない。

 いや、後者に関しては何となく予想できる。

 勇者と近くで話していたからだろう。

 別に彼の仲間とかいうわけでもない、ただの町娘や村娘的な立ち位置の私が、勇者とただ一言二言話しただけで、魔王に連れ去られたのだ。


 ――あ、あそことかあまり変わってない。


 魔王との移動中、ちらちらと視線を周囲に向けていれば、あまり変わっていない城内の内装とかに、懐かしさを感じる。


「――魔王様、何を連れてきたんですか」


 仕事の途中なのだろう、数枚の紙を手に目の前にやって来た――見た目は人間と変わらない、けれど魔族なのだろう青年の問いに、「これか?」と魔王が返す。


「ちょうどいいのが居たからな」


 何がちょうどいいのか分からないが、酷い言われようである。

 視線が少しだけこちらに向けられたけど、すぐにその目は魔王に向けられる。


 ――あ、これ、バレたかな?


「一体、誰が世話をすると思っているんですが。早く元の場所に戻してきてください」


 何やら動物扱いされている気もしなくはないが、目の前の青年の言い分がお母さんみたいだ。


「誰がお母さんですか」


 心を読まれたし……


「あと、魔王様。早く戻しに行くんですよ」


 そう言うと、青年はその場から去っていった。


「……」

「……」


 魔王に視線を向ける。

 帰してくれるのであれば、私としては有り難いんだけど、彼は魔王なのである。

 今の私・・・をあっさり殺せるほどの力を持っているのである。

 一体どうするのが正解なのかは分からないけど、とりあえず彼の答えを待っていれば、とある一室に放り込まれた。


「そこで大人しくしていろ」


 どうやら、返してくれる気は無いらしい。

 そう告げると、あっさりと部屋を出ていってしまった。


「……」


 さて、これからどうするべきなんだろう?

 魔王には連れてくるだけ連れてきておいて、いきなり放置されている状態だし、これが何かの物語なのであれば、ヒロインらしく待っているべきなのだろうが、かなりのお人好しでもない限り、彼らが何の関係もない人質に取られた一町民や一村人を口実に助けに来るとは思えない。


「まあ、必要無いんですけどね」


 個人的によく知ってる場所でもあるので、逃げ出そうと思えば逃げ出せる。

 ただ、魔王側はこっちのことをただの人間の小娘としか思っていないだろうから、タイミングを見誤れば、今後ずっとここから出ることは叶わなくなってしまう。


 ――そして、数分後。


「とりあえず、今はのんびりとさせてもらおうかな」


 いろんなことが有りすぎて疲れているというのもあるし、脱出方法なんて、明日以降に考えれば良いだけである。

 いざとなれば、強行突破でもさせてもらうつもりだし、何なら、の手を借りるのもいいのかもしれない。


 ――元魔王・・・として。

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