五帝本紀より 堯舜

 ぎょう。名を放勲ほうくんという。黄帝の曾孫のこくの次子である。

 しゅん。名を重華ちょうかという。黄帝の孫、顓頊せんぎょくの流れをくむ。

 ともに五帝に数えられる。


 孔子はふたりを高く評価している。論語にある弟子の子貢しこうとのやり取りからそれがうかがえる。

 子貢曰:「如有博施於民,而能濟眾,何如?可謂仁乎?」

 子曰:「何事於仁,必也聖乎?堯舜其猶病諸!夫仁者,己欲立而立人,己欲達而達人。能近取譬,可謂仁之方也已」

 ね。高く評価してるでしょ? ……え、読めない?

 しょうがないなあ。下村湖人先生の現代訳を引用コピペしておくね。


   子貢が先師にたずねていった。――

  「もしひろく恵みをほどこして民衆を救うことが出来ましたら、いかがでしょう。そういう人なら仁者といえましょうか。」

   先師がこたえられた。――

  「それが出来たら仁者どころではない。それこそ聖人の名に値するであろう。堯や舜のような聖天子でさえ、それには心労をされたのだ。いったい仁というのは、何もそう大げさな事業をやることではない。自分の身を立てたいと思えば人の身も立ててやる、自分が伸びたいと思えば人も伸ばしてやる、つまり、自分の心を推して他人のことを考えてやる、ただそれだけのことだ。それだけのことを日常生活の実践にうつして行くのが仁の具体化なのだ。」


 堯舜は聖天子。果たして本当だろうか?

 竹書紀年には「舜囚しゅんはぎょうをとらえ復偃塞丹朱こどもと使不與父相見也あえなくした」とあり、また韓非(※漫画キングダムにて人の本質を問うてたおっさん)はその著書韓非子にて「舜偪堯,禹偪舜,湯放桀,武王伐紂。此四王者,人臣弑其君者也,而天下譽之」と、舜は堯を弑した、と書いている。

 聖天子である堯を囚え、帝の座を簒奪さんだつした人物が聖天子であろうはずがない。


 どちらが正しいのか? 史記【令和版】を記そう。


 物語は、堯が兄であるの後を継ぎ、帝になって七十年が経ったところから始まる。

 堯も歳をとったのでそろそろ後継者を選ばなければならなかった。


がくちゃん。僕もう疲れたから、帝代わってくんね?」

「私はその器ではありません」

「どっかにいい人おらんかね?」


 すると皆が口を揃えていう。


虞舜ぐしゅんという者がおります」

「あーなんか名前は聞いたことあるかも。嶽ちゃん。どんな人か知ってる?」

「盲人の子です。父親は頑固で、母親はひねくれもので、弟は傲慢なのですが、よく孝を尽くしています。あと童貞です」

「へー、そうなんだ。嶽ちゃん、詳しいね」

「……私の耳に入るほど世間での評判が良いようですな」

「ふーん。でも童貞って大丈夫かな?」

「不同意性交や不同意わいせつといった性加害スキャンダルがなくて安心ですな」

「それは安心だね!」


 ほかにあてのない堯は、(堯には丹朱という息子がいるけど「尭の子尭ならず」ってことわざにされるくらいの人物)


「よし、じゃあ試してみよっか」


 舜にふたりの娘を嫁がせ、その行動を監視させることにした。


「えっ、おふたりともですか?」

「両手に花だね」


 すると舜はふたりの妻にそれぞれ筋を通して礼を尽くした。


「ふーん。やるじゃん」


 娘から事の次第を聞いた堯は、舜に五典(※たぶん義、慈、友、恭、孝)によく従うよう伝えると今度は目隠しをして馬車にのせた。

 それから山や林、川や沢に置き去りにし、


「じゃ、そういうことで」


 舜が戻って来れるかテストした。

 途中、暴風や雷雨に遭うこともあったが舜は毎回迷うことなく帰還した。


「合格ばい」


 三年後、堯は舜を聖人として認めるのだった。


「嶽ちゃん。舜ってすごいね!」

「ええ、こんな優れた人物、ほかにいません!」

「うん。じゃあ僕の後継者は舜で決まりかな」

「ご子息であられる丹朱さまはよろしいので?」

「うん。世襲なんていまどきナンセンスだよ。舜が帝になれば天下が利を得て、丹朱が病み、丹朱が帝になれば天下が病んで、丹朱が得する。だったらひいきなんてせず普通は国のためを思って選ぶよね」

「では舜さまを呼んできます」


 召しだされた舜は恭しく堯を拝する。


「舜。お前は中国の帝になれ」


 降って湧いたような冊立の話。しかし舜は徳があるので喜ばなかった。


(計画通り)


 そして旧正月。舜は文祖(※堯の太祖)のびょうで禅譲の儀を受けた。


 それから二十年後。堯は舜に引継ぎを完了して、その八年後に崩御(薨去こうきょ?)した。

 

 だが、話はこれで終わりではない。

 三年後、喪が明けると、


「父上……」


 堯の実の息子、丹朱のもとにふらっと舜があらわれ、


「俺帝やーめた。今日からお前が帝な」


 帝位を譲った。


「えっ?」

「がんばってね~」


 丹朱は仕方なく政務を執り行ったが諸侯は挨拶にすらこず、問題が起きても舜に相談し、民衆も舜を賛美するばかりで丹朱のことなんかまったく気にもとめなかった。


「うう……ひどいよぉ……」


 失意の丹朱に舜は言う。


「これは天の意志だ」


 病んだ丹朱は舜に帝の位をお返ししたのでした。

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