第2話 まずは文字を覚えよう
両親が家にいる。
そう上司を釣り上げて無理やり帰宅した父親だったが、そらまあ、そんな事すれば、本部に通達が行くわけで、そこで何故そうなったかの事情聴取を受けた。
結果的に言えば、そもそもの任務自体が任意かつ、辺境で他にも候補がいたとのこと。
そう、『任意だから断っていい。』なのに本部には父親の方が快諾して、任地へと向かったと報告があったそうで、やってますねこれってことで、調査の結果、父親は本来は断った時点で、自領にて待機が確定の筈だった。子息の誕生も有れば、それらにまつわる手配なども有り、生後三か月は事務手続きやらもろもろで、領主館にて書類との戦い(うちの家系は全員苦手で、執事と文官と母親がすべて代行している)に明け暮れたり、内々の祝い等で慌ただしくなるのが普通の事だったらしい。
どういうことかと言えば、父親を派遣した上官が、懇意の派閥への忖度で無理やり、父親を向かわせたことが発覚。
その派閥は、忖度でそうなったことは知らず。辺境派遣されずに済んだと喜んでいたところに、今回の騒ぎにより断れない辺境派遣が、決定してしまったという状況らしい。
なお忖度した奴は降格してやり直し(戻るのはほぼ絶望的)になった。飛ばしはないらしい、飛ばすと逃げるから無能以外は飛ばさないとのこと。 このあたりは、将来的に知った事ではある。
「なにかしら?マルちゃん」
「ないだいマル」
マルーセル・カルドッグなので愛称はマルらしい。父母の方へと、たどたどしく歩いていき、後ろにメイドのカチュア(狐人族)が、かなり分厚い辞典を二冊持ってついてくる。
「ごほーよんで」
そう、先日絵本を読み聞かせしてもらって分かったのだ、一歳児吸収力半端ないと、今のうちに文字と魔法関連を学べば、チートできるんじゃないかと。
そう思って、百科事典らしきものと、魔法辞典らしき物を書庫で探して運んでもらってるのだ。
「くさいっぱいほー、まほーいっぱいほー」
と、一緒にいたカチュアに言ったら、通じたのか選んでくれたのであっていればではあるのだが。
「ははは、草木の辞典と魔法辞典カー、マーガレッタ頼んだ。」
そういって父は逃げ出した。父よ…
「あなたったら相変わらずですね。こっちへいらっしゃい」
母は、椅子に座って俺を膝の上にのせると、前にあるテーブルに置かれたうち草木の辞典を開いた。
「順に読んでいけばいいのかしらね」
「うん」
そこから三時間ほど、膝の上で悦明を受けていたが、おかげさまで、この辞典なら何とか読めそうな感じになった。まだわからない単語は多いが、そこは多い甥でいいだろう。そして、言うまでもないがそこで寝落ちした。
「あらあら、寝ちゃったわね」
そういって母は、カチュアにおれをあっずけ、カチュアは起こさないように俺を運んで、ベッドで寝かしたようだ。
目覚めると夜に成っていた。
「あ、坊ちゃま起きられたのですね」
「かちゃおはよお」
腹の空き具合と、外の様子からして、まだ夜に成ってそこまでは経っていなさそうだ。
「もう少ししたら夕飯ですので、お待ちください」
とは言っても、野菜果物のスムージーっぽいもの(ほのかに甘い!でも苦い)、パンのミルク粥なんだよなあ。あー肉くいたい。
「うん、くさ事典よむー」
「え、奥様がおられませんので、読み聞かせ出来ませんよ」
「みるの」
そう言うと、判りました失礼しますと言って、この部屋の椅子とテーブルの置いてある場所に、連れて行き、椅子に座り膝にのせて、テーブルの上に置いた辞典を見れるようにして開いてくれた。
一歳児の学習能力すげえ、やったぜ寝落ち三十分前ぐらいまでの内容は覚えてた。パラパラとめくってもらい、わかるところは飛ばしていった結果、寝落ち直前の内容以外にその先も少し読めた。
ドアをノックする音が聞こえ、カチュアに入室を促されると、カートにのせた夕飯がやってきた。
それらを食べさせてもらい、しばし食休みの後は、風呂に入れられて眠りにつく。夜中にいつも目覚めては、こっそり魔力操作を行いまた眠りについて一日が終わりだ。
翌日は、魔法辞典を読んでもらったが、こっちはちんぷんかんぷんというか、歴史上観測された魔法の全集というだけで、発掘された魔道具の魔法陣なども載っているだけで、どこがどうという解説は何もなかった。なのでここは駄々をこねてみようと思った。
「まほーつかー」
「魔法は大きく成ったらね」
「いまつかー」
「うーん、魔法を使うには魔力が判って動かせないとダメなのよ」
「まりょうごー」
そう、魔力操作をひたすら続けていて気付いたのだ、圧縮した魔力の一部を引きちぎる感じで分けて、其れだけを動かす分には霧散しても大丈夫って事に。
なので、部分的にちぎって手のひら迄ちぎった魔力を動かして霧散させた。
「え、ちょっとマルちゃん待ちなさっ」
「まりょ、うごー」
「マルちゃん?気持ち悪かったりしない?」
「へいき」
「魔力分離からの放出よね今の」
「わかんない」
「マルちゃんそれ内緒よ、他の人の前では、まだやっちゃ駄目よ」
「だめー?」
「知れ渡ってしまうと、怖い人が連れてかれちゃうのよ」
「わかったー」
「皆、今のは口外禁止よ」
使用人たちに、緘口令を敷いた。何やらこの年で、魔力操作分離放出が出来るのは、非常にまずい事らしい。
母親は、俺を抱えると何やら魔力を流し込んできた。そしてしばらく体の中を魔力が駆け巡る。とってもくすぐったい為、暴れたが我慢してと言われ、必死にこらえた。結局くすぐった過ぎて我慢できず暴れ、笑い叫んだ結果、疲れて気絶したので後は覚えてない。
その夜、家族会議が開かれた。言うまでもなく俺が原因だ。
「…と、いうわけなのよ。」
「うーむ、まずいのぅ」
「よくわからんのだが、何がまずいんだ」
父親がそういった瞬間、高祖父のげんこつが落ちていた。
「そのぐらいは学んで置かんか、愚か者が」
俺のやらかしは、魔力操作ができて、すでに魔力を増やしていること、その魔力量が体に見合ってないほど多い事らしい。
「なにかだめー?」
そう聞くと、諭されるように説明されたのだが、消費した魔力に見合った食事量が無いと、人は衰弱してしまうらしい。そして、体の成長は、魔力が満たされた状態で、しっかりと食事を行わないとダメらしい。世の中の魔法使いが体が小柄だったり、ひ弱なのはこれが原因だと。
え、未来の豚小悪党が、そもそも豚に成れないどころか、ワンチャンひ弱で、豚になる前に、終わるかもしれないってことですか…ダメじゃん!俺ダメじゃん!豚人生始まる前に終わりじゃん。なんか、悲しくなってきたぞ。
「うべばあああぁぁぁぁぁぁ!」
めっちゃ泣いた、泣き疲れて寝た。
起きたら、母親が横にいた。説明してくれた、魔力さえこれ以上成長するまで、消費せず増やさないでいれば、大丈夫だって、だから魔法はお預けって言われた。それ聞いたら、安心して、うれしく成って泣いた。そしてまた寝た。
それからは、しっかり食べた、今までより食べた、そして虹色光線した。
限度があるって怒られた、何事も適量この体の限界チャレンジしてる場合じゃなかった。
魔力増やしは一旦諦めたが、操作技能はきっと役に立つと、こっそり操作だけは練習した。そこで気づいた、動かすだけでも腹減る。頭使うと糖分が欲しくなるあれだ。結果普通の子よりちょっと多めに食べる俺。でも成長は普通の子と同じ程度。家族はいぶかしんだが、普通の子より魔力が多いせいで、魔力の自然放出の関係で食べるんだろうって判断された。セーフばれてない!なお魔力の自然放出とか知らない。思い返せばつんつん初期はあったかもしれない、異様に疲れた覚えがあるが、圧縮した辺りから無くなった。
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